遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『万能鑑定士Qの最終巻  ムンクの<叫び>』 松岡圭祐  講談社文庫

2017-05-16 20:36:21 | レビュー
 『万能鑑定士Q』シリーズを愉しんできたが、遂に最終巻が出た。2016年8月に文庫版として書き下ろされていた。表紙に描かれているとおり、最終的にはハッピーエンドでめでたしめでたしとなる。
 さて、この最終巻が出るにあたり、設定状況が大きく変化しているのである。
 凜田莉子は万能鑑定士Qの店を閉じて、井の頭公園近くにあるリサイクルショップ、チープグッズに再び勤めている。父親が刑務所を出るまで、店長代理の瀬戸内楓が運営しているのを手伝っているのである。買い取りカウンターに楓が居ても、店前にたむろする男たちは、莉子に鑑定してもらうことを望んでいるという感じである。店は鑑定が目的では内から、楓は機嫌を悪くしている。
 小笠原悠斗は週刊角川の記者を辞めて、今はグランドウェル総合調査会社に入り探偵業に就こうとしている。小笠原については、探偵としてやっていけるかテストを受けているシーンから始まって行く。探偵業の基本から始めなければならない段階である。小笠原の夢は、探偵という立場で、凜田莉子の手助けをすることにあった。
 楓の父瀬戸内陸は、府中刑務所の収容棟から誠心寮という仮釈放準備寮に2週間前に移されてていて、間近に釈放される時期にいた。そして、刑務官から漢那和希に引き合わされる。漢那和希の希望だという。漢那和希は、凜田莉子が沖縄の八重山高校に居た時の野球部の先輩に当たるのだ。瀬戸内陸と漢那が話しているとき、面会人が来たということで、漢那は会議室然とした部屋に行く。そこで、釈放教育の一環で引き受けたという蔦暮亜芽里に会うことになる。そして、元獅靱会のほとんどがカタギになる決心をしたと聞かされる。
 この最終作は、こんな形で凜田莉子に関わっていた様々な人々が、次々に登場してきて過去のストーリー展開を思い出させる所がある。

 さて、この最終作のストーリーの展開であるが、副題に「ムンクの<叫び>」とあるとおり、ムンクの絵画がテーマである。厚紙に描かれたオリジナル版、油彩画の『叫び』がオスロ美術館から東京のノルウェー大使館における催しのために空輸されていきた。うち2日間は、南青山にある画廊で展示予定だった。画廊に展示され、超党派の国会議員による文化芸術振興議員連盟にお披露目する予定であった。画廊に飾られて9時間が経過したころ、来賓を迎える前に、『叫び』が画廊から盗まれたのである。指示を受けた職員のエミル・ヨハンセンは凜田莉子とコンタクトしているが、凜田からの協力承諾をまだ得ていない。しかし既に凜田が莉子が協力しているという錯覚のもとに事態が進展していく。とは言いながら、結局凜田莉子がその解決に関わらざるを得なくなっていくのである。『叫び』の所在地を発見して、回収することがメインのストーリーである。
 それに対して、サブ・ストーリーがまず先に動き始める。そちらは、アンリ・ベイレンドルクが描いた『湖畔の花壇』という絵に間接的に関わりがある。というのは、チープグッズの店に『湖畔の花壇』を修復し、奇跡の修復家と呼ばれる植村寛雄が訪ねて来る。植村は、凜田に懐中時計メンフィスC62が本物かどうかの鑑定依頼に来たのだ。凜田は植村に同行し、依頼人の指定地でメンフィスC92の鑑定を依頼される。鑑定事務所を閉めた凜田を借り出す代わりに、植村は100万円を楓に預けて、チープグッズの商品の購入を適当に見繕っておいて欲しいと言うのである。
 この時点から、ノルウェー大使館の関係者が、『叫び』の盗難調査活動に凜田莉子が関わって動いているものと理解し、その動きをモニタリングしていた。そこで、植村の車に同乗した凜田の後を追跡するという形になる。事情を知らない楓は、外国人の車が追跡するのを見て、不安に思い牛込警察署の葉山に相談に行く。積極的に仕事をしない知能犯捜査係の葉山が登場する。葉山は探偵になった小笠原に相談しろと楓に言う。そして、小笠原が凜田の動きに関わって行く。今回面白いのは、小笠原の幼馴染みの三木本沙彩が登場してくる。彼女がどういう関わりとなっていく関心事項がここで組み込まれていく。さらに、探偵会社の先輩、伊根涼子が小笠原の後見人然として登場する。
 植村に同行して出向いた先が、美術品コレクターとして知られる森岡健一郎の自宅。そこで鑑定したメンフィスC62は、史実の情報と照らすと本物と鑑定せざるを得ない。しかし、逆にあまりにも完璧すぎることが凜田の心に引っかかる。
 これが、この後の植村との関わりが深まるきっかけになり、植村の運営する会社の問題並びに植村の行為の虚偽性を暴く形に発展していくから、面白い。
 
 更には、ここで凜田にロシア系マフィアが別件でアプローチしてきて、凜田に鑑定を依頼し同行させるというハプニングが加わる。そこにはコピアの兄が絡んでいた。それはコピアの弟の依頼から兄が目立つように振る舞えと言われた行動から巻き込まれたことだった。ここで、コピア兄妹が登場し、この最終作の役者がほぼ出揃うことになる。
 小笠原の気転で、このハプニングは解決へと向かう。宇賀神警部が登場して来る。その結果、凜田は『叫び』の盗難事件に関わっていくことになる。
 しかし、これがメンフィスC62が贋作だということを証明できる契機ともなるのだから、なかなか巧みな構成である。さらに、これは植村のたくらみを未然に阻止する一方で、『叫び』に関連して、植村の修復家としての協力を取り込むきっかけになり、一方で植村の別次元での虚偽を暴くことにも繋がって行く。

 『叫び』の盗難事件は、後に別の監視カメラが盗まれる折の映像を録画していた。犯人は額から絵を抜き取った後、その場で絵を4つに引き裂いたうえで、それを持ち去っていたのである。クジラと名乗る人物がメッセージを公開する。全世界にメッセージが投げかけられる。破られた『叫び』を回収するには、クジラの謎掛けを解かねばならない。
 凜田と小笠原のコンビでの行動が始まっていく。植村の修復家の橋梁を得られるとしても、120時間以内に回収できなければ、修復は不可能になるのである。
 クジラの謎掛けに対し、凜田と小笠原はあちらこちらを駆け巡ることになる。タイムリミットに対し、謎解きゲームの様相を帯び、事態は急展開していくという面白さが加わる。
 そして、その先にまたもや奇想天外な転換劇が仕組まれていたのである。実に巧妙な二重三重の構想になっている。

 メインのストーリーの展開は、これ以上深入りしないことにして、この最終作のファイナル・ステージに触れておきたい。

*瀬戸内陸が出獄してきて、再びチープグッズの運営に戻る。
*漢那は瀬戸内陸と同時に出獄し、しばらくは凜田の行動に同行する。凜田に「前提がわかっていねえみたいだな」「二人の関係だよ」「鑑定家も自分の心は見えねえんだな」と凜田に助言する。
*凜田が文科省の一般職事務官水鏡瑞希に会いに行き、水鏡の推理法について尋ねる場面が出てくる。まさに、オンパレードである。
*コピア本人が凜田に言う。「ふたりのコンビは最強だ。お互いすなおになれ。いつまでも中学生の恋愛はよせ」と。
*フィージーのヤヌサ島、シャングリラ・シーサイド・チャペルで莉子と悠斗は二人だけの結婚式を挙げる。

 いや、そこには一人だけの同行者がいた。海外添乗員の浅倉絢奈である!
 最後の最後に、コピアこと弧(孤)比類巻黎弥につづいて浅倉絢奈が登場した。万能鑑定士凜田莉子と関わりのあった人々が、最終作ででそろったのである。こういう面白さを組み込んだ構成上のフィナーレもあるのだ。ここに触れていないが莉子の両親を含めワンシーンで登場する人々もほかにある。シリーズ登場人物の大団円である。楽しい。

 最後に「終章」がある。オリンピック後の東京、近未来の莉子の姿を付け加えている。どのように点描したか。それは・・・・お楽しみに。
 
 ご一読ありがとうございます。

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作品と関連する事項をネット検索してみた。一覧にしておきたい。
エドヴァルト・ムンク  :ウィキペディア
叫び(ムンク)    :ウィキペディア
生誕150年「叫び」で有名なムンクってどんな人だったの?  :「NAVERまとめ」
ムンク 叫び The Scream :「有名な絵画・画家」
ムンクの『叫び』最大の謎がついに解明! 専門家を120年悩ませてきた奇妙な“白いシミ”の正体と真意に驚愕  :「知的好奇心の扉 トカナ」
有名なムンクの『叫び』、実は叫んでいなかった  :「exiteニュース」
謎に包まれたムンク「叫び」窃盗事件の控訴審、開始 - ノルウェー
    2007.2.20   :「AFP BB NEWS」
ムンクを追え!(『叫び』奪還に賭けたロンドン警視庁美術特捜班の100日)
  2009.5.3   :「夢みる風力発電機」
19c09 6 「叫び」の盗難事件(VTR   :YouTube


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『アノマリー 水鏡推理』 講談社
『パレイドリア・フェイス 水鏡推理』  講談社
『水鏡推理Ⅱ インパクトファクター』  講談社
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松岡圭祐 読後印象記掲載リスト ver.1    2016.7.22 時点
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