鏑木保ノート

ブックライターの書評、本読みブログ。

【書評】『図解 超訳 論語』許成準・彩図社

2014年11月29日 | 哲学・思想
 『論語』を読みたいんだけれど、なかなかとっつけないでいる。

 以前『萌☆典 拝啓、姫君様っ』を紹介したときに、あわせて『萌訳☆ 孔子ちゃんの論語』にも軽く触れたりもしたけれど、今度は萌えじゃなくてフツーにわかりやすい『論語』が読みたいな、と。


 そんなわけで本書。

図解 超訳 論語
クリエーター情報なし
彩図社


 gooブログのamazon検索ではうまくヒットしなかったのだけれど、著者は当ブログで何度か紹介している許成準(ホ・ソンジュン)氏だ。
『超訳 アランの幸福論』許成準・彩図社
『超訳 資本論 お金を知れば人生が変わる』許成準・彩図社


 許成準氏の超訳シリーズをごらんになった方々はお察しのとおり、本書も見開き二ページを1セットにして、エッセンスを解説してくれるつくりだ。

 しかも今回は「図解」。
 B5版という大型の判型を贅沢に見開きで使っていて、見開きの右側上段に『論語』からの超訳。左上段にはその超訳の内容を図解で書いてあり、下段は文章で同じことを説明している。
 最後にまとめの「POINT」という項目もあって、『論語』のエッセンスをばちっと解説してくれているんだ。

 「図解」ということで絵と図を多用していて、いつもの許成準氏の超訳シリーズよりももっとわかりやすい。


 さてそもそも。
『論語』ってなんだろう?

 本書の裏表紙に書いてあったので引用する。
「論語」とは?
古代中国の思想家、孔子の教えの集大成で、紀元前500年頃に書かれたもの。
時は中国大陸に散らばっていた数多くの小さな集落が「国家」に進化していく激変期、いわゆる「春秋時代」である。国家や組織が巨大化し、治める国民も急増したため、各国の王たちは画期的な統治理論を必要としていた。
こういった背景から、古代中国には数多くの思想家が現われ、自分なりの思想を主張したが、最後に勝ち残ったのが孔子が成立させた「儒家」だった。
何がすごいの?
なぜ孔子の『論語』だけが2500年もの間、人々の心に生き続けたのか?
それは『論語』が「人は人と、どう関わって生きていけば良いか」という疑問に、明快に答えているからだ。人は生きていくうえで、他人と関わらざるを得ない。
特に仕事では、周囲との関係がうまくいっていれば、辛い仕事でも取り組めるが、これがうまくいってないと、簡単な作業すらスムーズに進まなくなる。
『論語』には人と良い関係を築き、充実した日々を過ごすためのヒントが満載なのだ。
『論語』の解説がてら、少し書こうかと思ったんだ。
 でも、もう僕の解説なんか不要くらい「『論語』ってこんなのですよ」と教えてくれているじゃないか。だったらもう、そのまま引用するしかないじゃないか。


 なんだか今回は僕が書いている分量がとっても少なくなってしまった。
 しかしここまでガチでわかりやすい本だと引用するしかないんだな、ほんとに。

 書店で手に取ってみてください。
 ほんと、表紙からしてわかりやすいから。


世界最高の人間関係の教科書を
わかりやすい図と訳で完全解説!
本書は孔子の教えの真髄を、わかりやすい訳・解説と共に完全図解化!
『論語』のエッセンスを楽しみながら理解しよう!


図解 超訳 論語
クリエーター情報なし
彩図社


もくじ
1章 人間関係をスムーズにするために
◆失敗すらも、その人らしい
短所を見れば長所もわかる
◆「もし自分なら?」という発想
他人の立場を理解する
◆漫然と日常を過ごすなかれ
ヒントは身近なところにある
◆弟子が語る孔子の教えの核心
孔子の道はふたつだけ
◆どんな相手であっても気遣うべし
一生続けるべき習慣とは
◆ミスと正面から向き合う
失敗をごまかさない
◆孔子が理想とする人物像とは
相手に合わせた対応
◆厳しさと優しさを兼ね備える
君子はいくつもの顔を持つ
◆なにが人間関係の邪魔をするのか
利己心を克服しよう

2章 組織の中でどう生きるべきか
◆行動だけが人生を変えられる
話し下手でも成功できる
◆ひたむきさこそ最大の武器
まじめならどこでも働ける
◆すべての短所を打ち消しにする性格
質問の達人は仕事の達人
どちらともなく誠意を尽くす
君臣はお互いに尊重し合う
◆部下がわきまえておくべきこと
これをすると上司に嫌われる
◆交渉にも最低限のルール
相手の職分を尊重する
◆人の心を打つ伝達方法
シンプルに理解する
◆叱責や罰は逆効果?
部下の意欲を向上させる
◆トラブルを事前に回避する
君子危うきに近寄らず

3章 お金よりも大切なこと
◆今追求すべきなのは何だ?
一番大事なことを見極める
◆理解者との出会いは何より貴重
ビジョンを共有する者と働く
◆大原則さえ外さなければ良い
ゆとりが必要なときもある
◆性悪説より性善説で
刑罰より徳で統治せよ
◆他人の評価を鵜呑みにしない
真実は自分の目で見極めろ
◆孔子も嫌った3タイプの人間
君子にも憎むべきものがある
◆完全無欠の人などいない
初心忘れるべからず

4章 より良い人生を送るコツ
◆見た目より大切なこと
大事なのはハードよりソフト
◆「中庸」の精神でやり過ぎを防ぐ
何事もバランスが大切
◆「良い人」ではできないこともある
みんなに好かれる必要はない
◆工夫しなければ高い理想も挫折する
志があるだけでは成功しない
◆まずは自分の仕事ぶりを点検する
実力不足を人のせいにするな
◆標的になるのは避けられない!
悪口から身を守るには
◆能ある鷹は爪を隠す
謙遜の美徳を持とう
◆知ったかぶると痛い目を見る
知ることと知らないこと



●こんな本も
『超訳 アランの幸福論』許成準・彩図社
『超訳 資本論 お金を知れば人生が変わる』許成準・彩図社

【書評】『史上最強の哲学入門 東洋の哲人たち』飲茶・マガジン・マガジン

2012年04月06日 | 哲学・思想
 以前当ブログで紹介した『史上最強の哲学入門』の続編が、ついに来たッ!

史上最強の哲学入門 東洋の哲人たち (SUN MAGAZINE MOOK)史上最強の哲学入門 東洋の哲人たち (SUN MAGAZINE MOOK)価格:¥ 1,800(税込)発売日:2012-03-14

 人気格闘漫画『グラップラー刃牙』を彷彿とさせるバキ語で語られた熱く、そしてなぜかすごくわかりやすい哲学の入門書『史上最強の哲学入門』。その続編が、カバーイラストも前著と同じく板垣恵介御大という豪華ぶりで再び僕らのもとに帰ってきた。
 いや、帰ってきてくれたのだッ!


 今回のテーマは「東洋哲学」。
 紀元前千五百年という、いまから三千五百年も昔のインド哲学にはじまった東洋哲学は、仏教、道教へと脈々と受け継がれ、東へ東へと旅を続け日本に伝わり、日本仏教、そして禅という形に結実した。

 理路整然と論理的に語られた西洋哲学とちがい、「悟り」をはじめ、「空」などの独特の感覚の世界を見つめる東洋哲学はハッキリ言って難しい。

 そりゃそうだ。
「悟りってなに?」を説明して理解できたら、仏教の修行なんていらないもんな。
 いや、それではダメ。せっかく書く機会を得たのだから、東洋哲学の「真髄」「本質」「核心」がガツンと伝わるような「史上最強の東洋哲学入門書」を目指して書くべきではないか?
 では、どうすればいい。今までの東洋哲学入門書には何が足りなかったのだろうか?
そうだ! 「バキ」分がたりなかったのだ
 そう、その言葉を待っていた!
 それでこそ前著『史上最強の哲学入門』を書いた飲茶氏だ。
 色即是空ッッ!
 空即是色ッッ!

史上最強の哲学入門 東洋の哲人たち (SUN MAGAZINE MOOK)史上最強の哲学入門 東洋の哲人たち (SUN MAGAZINE MOOK)価格:¥ 1,800(税込)発売日:2012-03-14

インド哲学・仏教・老荘思想・禅あらゆる東洋哲学は
なぜ東に伝わり、日本にたどり着いたのか?

おぬしに会いにくるためじゃよ!


→『史上最強の哲学入門 東洋の哲人たち』飲茶・マガジン・マガジン


 前著の紹介のくり返しになってしまうけれど、もう見た感じバキバキしい表紙やまえがきにくらべ、本文は落ち着いていてとても読みやすい。

 そして本書では、
 東洋哲学のキモとも言える「悟り」の部分を「僕たち」というやわらかい文体で何度も何度も丁寧に語ってくれる。「説明」ではなく「語る」のだ。


 なかでも本文58ページからの一章はぜひ読んでいただきたい。
 長くなるので引用はしないけれど、仏教の開祖・釈迦の思想の源流となったヤージュニャヴァルキヤの語る『自己《アートマン》』の考え方の説明が、「映画」と「観客」のたとえを使ってわかりやすく解説されている。

 僕なんかがあらためて説明すると凡長になってしまうのでこれはもう「読んでくれ」としか言えないのがもどかしいのだけれど、本書に書かれている「悟り」とは、ちまたによくある東洋哲学解説書が言っている「悟り」とはぜんぜん違ってなんていうかこう、すごく「ガツン」と来る「悟り」だった。


 つまり悟りとは
「オレがガンダムだ!」
 なんだよ。

「おいおい(笑)。それが悟りかよ」とずっこけた人もいると思う。でもまあダマされたと思って読んでみてほしい。バキやガンダムを知らない人でもわかりやすい言葉で書かれているから。


 僕がいままで考えていた悟りってのは、内面的なスーパーマンのようになってあらゆることが解決するすごい境地だと思っていた。だけど、これ、ぜんぜん違う認識だったんだな(つまりトランザムしないってこと)。

 あらゆることが解決するのではなく、問題自体が「無い」。
 無いものを悩みようがないでしょ? という境地なんだけれど……うーむ、やっぱり言葉にするのは難しいなぁ。


 一応誤解のないように言っておくと、
 本書でも何度も述べられているように悟りの境地を「理屈として知る」のと「実際にそこに行く」はまったく違うことなのだろう。

 でもね、
「その境地がどれだけすごいところか」のさわりだけでも知ることができたなら、そこを目指して日々修行している仏教徒の方々の本当のすごさ、みたいなのが理解できると思う。「宗教」とか抜きの本当のすごさがね。


 そういうあたりも含めて、きちんと伝えてくれる良書だ。

 今回もとても楽しめた。
西田 なァ、道元さん、一緒に散歩しながら哲学してみましょうか
道元 クックックッ、西洋哲学者って奴ァ……とろけそうなほど甘い 哲学したいと言うなら黙って座っていればよろしい……このようにッッ!
ロラン・バルト そうやって死ぬまで仁のエクリチュールを貫き通すつもりかい
孔子 ニィ……
ロラン・バルト バカだぜ、あんた……


 もくじ
まえがき

東洋哲学とは何か?(1)
——東洋哲学は「ピラミッド」である

第一章 インド哲学 悟りの真理
01 ヤージュニャヴァルキヤ
  東洋哲学は「自己の探求」から始まった
02 釈迦
  「私」は存在しない
03 龍樹
  すべては「空」である

東洋哲学とは何か(2)——東洋哲学は「ただの耳」である

第二章 中国哲学 タオの真理
諸子百家
戦国時代に登場した哲人たち
04 孔子
  「仁」と「礼」に込めた熱い思い
05 墨子
  自身を愛するように他人を愛しなさい
06 孟子
  政治の根本は礼である
07 荀子
  政治の根本は「礼」である
08 韓非子
  国家を強くすることが政治である
09 老子
  万物は道から始まる
10 荘子
  言葉によって境界が生まれる

東洋哲学とは何か?(3)
——東洋哲学は「うそ」である

第三章 日本哲学 禅の真理

日本仏教の歴史
聖徳太子~徳川幕府

11 親鸞
  念仏による「他力」の心境へ

禅の歴史
東洋哲学のエッセンス

12 栄西
  「思考」を通さずに物事を理解する
13 道元
  「問題」を破壊し、飛び越える

十牛図
悟りを越えて

あとがき
 次回予告にある第三の哲学体系、中東からの史上最強の哲学者もすんごく気になるじゃないかッ!

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●こんな本も
『史上最強の哲学入門』飲茶・マガジン・マガジン
『萌える☆哲学入門』造事務所・大和書房
『超訳 ブッダの言葉』小池龍之介・ディスカヴァー・トゥエンティワン

『鼻ほじり論序説』ローランド・フリケット・バジリコ株式会社

2010年06月25日 | 哲学・思想
鼻くそをほじっていて注意されたとき、どんな言い訳が可能ですか?勇者よ、おそれるな! もし「目撃」された場合、以下の常套句を使って状況を有利に持っていくのだ。●「ほらみんな、この色、大きさ、形を見てごらん!」●「シーッ、静かに。みんなが欲しがるといけないから」●「鼻がかゆくてどうにもがまんできないって経験ない?」●「手伝ってくれるの? ありがとう。実はくたくただったんだ」
「人類史上最古の快楽とはなにか」と問うと、「セックス」という答えがかえってくるかもしれない。

 しかしセックスは相手がいるし、いろいろシチュエーションも整えなければいけない(まさか公衆の面前でとかいうのは無理だろう)など手間がかかるうえ、やったらやったで双方にいろいろな責任や肉体的精神的問題が発生したりするものだ。しかも時代が下るにしたがって責任や問題はどんどん重大になっている。

 大きな責任や問題が発生するものを、はたして「快楽」と呼べうるだろうか?
「快楽」とは、あとくされなく、いつでもサクッとできてそれでいてキモチイイもの、ではないだろうか?


 そこで、である。
 僕は鼻ほじりを推奨する。


 鼻ほじりならば、いろいろな問題もなくヒマなときにサクッとできる。さらに応用性にも富んでいて、本を読みながらでも車の運転をしながらでも話しながらでもいつでも可能なのだ。これこそが人類史上最古にして真の快楽と言えるのではないか。
鼻ほじり人口も増加の一途をたどっている。しかしその一方で、レストランや車の中、郵便局等で鼻ほじりを政府が取り締まるのも時間の問題となっている。愛好家の自由は再び危機にさらされ、鼻くそが今一度人々の関心事になったのである。
 本書は鼻くその世界的権威であるローランド・フリケット氏が全世界に先駆けイギリスで出版した名著『鼻ほじり論序説』の日本語訳である。
 待っていた。僕はこういう本を待っていた。


鼻ほじり論序説鼻ほじり論序説価格:¥ 1,050(税込)発売日:2006-03-08

→『鼻ほじり論序説』(ローランド・フリケット・バジリコ株式会社)
 もくじを引用。
1 鼻ほじりの歴史
2 鼻ほじりとは何か -- あなたの質問にお答えします
3 鼻ほじりのテクニック -- さらなる高みを目指して
4 鼻ほじりの悩み相談
5 鼻ほじりの豆知識
6 ノストリルダムスの大予言 -- 星が語る未来
7 絵画表現に見る鼻ほじり
8 詩や歌の中の鼻ほじり
9 用語集
 人類における鼻ほじりの歴史からはじまり、定義、実用的なテクニックとひと通りの技術が学べてしまう本書は、まさに名著の名にふさわしい。

 名著とはそれ自体で完成されたものだ。
 僕のような若輩者の鼻くそほじりがいくら語ってもなにも伝わらないので、本書のことばを引用するに留める。
 まだ鼻ほじりの愉しさをを知らない諸君にとっては、本書は格好の手引き書となるはずだ。また、自他共に認めるベテランの鼻くそほじり諸君にとっても、フリケット教授の長い経験に裏打ちされたアドバイスや工夫は鼻ほじりの楽しさを増幅し、これまで以上に鼻ほじりが好きになること請け合いである。
 巻末には、フリケット教授のご子息であるアダム・ザカリー・フリケット作詞作曲による「鼻ほじりのマーチ」の楽譜が収録されていた。
 でも僕は楽譜ってぜんぜん読めないのでどういう曲なのかがわからない。
 くそぅ。
 とってもとっても気になるじゃないか。


鼻ほじり論序説鼻ほじり論序説価格:¥ 1,050(税込)発売日:2006-03-08



 さあ男たちよ、鼻をほじれ!
(「自分も鼻をほじる」と認める女性はいないのであくまで男なのだそうだ)

『史上最強の哲学入門』飲茶・マガジン・マガジン

2010年05月21日 | 哲学・思想
 よくあるタイプの「哲学入門書」というのが、僕は嫌いだ。

 あの、「○○というひとは何年頃のなんという国に生まれて『××』という哲学理論を提唱しました。その後、なんという国のナントカがあらわれて○○の『××』理論を発展させて『△△』理論を確立しました」とただ説明するばかりの文章を読んでいると眠くなってしまうのだ。

 これは僕が小説を書いているせいなのかもしれないけれど、僕は絵やストーリーがまったく浮かんでこない文章っていうのが読めない。ただひたすら説明をされてもこっちは飽きてしまうんだよ。文章の「向こう」になにも見えないんだよ。そんなの、読んでてもつまんないよ。


 しかし本書はちがった。


史上最強の哲学入門』飲茶・マガジン・マガジン


 著者・飲茶氏は言う。
今までの哲学入門書には何が足りなかったのだろうか?結論を先に言うなら、「バキ」分が足りなかったのです。
 バ、バキですと!?
 バキってあの『グラップラー刃牙』のこと? 名作超絶格闘漫画の刃牙《ばき》(→Wikipedia)のことを言っているのか!?
格闘家が「強さ」に一生をかけた人間たちであるように、哲学者も「強い論(誰もが正しいと認めざるを得ない論)」の追求に人生のすべてを費やした人間たちなのです。
 そ、そりゃまぁそうですがね。

 あ、そういえばこの表紙絵、バキの板垣恵介先生じゃないか。不覚にもいまごろ気が付いた。そうか、やっぱりあのバキなんだな。
史上最強の哲学入門 (SUN MAGAZINE MOOK)史上最強の哲学入門 (SUN MAGAZINE MOOK)価格:¥ 1,500(税込)発売日:2010-04-14

すなわち、哲学史とは、知の領域において、強さと強さをぶつけあい、研鑽してきた戦いの歴史なのです。
哲学の聖地、東京ドーム地下討議場では、
今まさに史上最大の哲学議論大会が行なわれようとしていた……。「史上最高の『真理』を知りたいかーーーーーッ!」「オーーーーーーーー!」
「全哲学者入場!!」
 哲学者の紹介がまたすごい。
史上最強の哲学入門』飲茶・マガジン・マガジン
神殺しは生きていた! 更なる研鑽《けんさん》を積み人間狂気が甦《よみがえ》った!
超人!! ニーチェだァーーーー!!
経験されしだい還元しまくってやる! 現象学の開祖 フッサールだァッ!!
熱帯から人類学者が上陸だ! 構造主義 レヴィ=ストロース!!
他者論にさらなる磨きをかけ ”イリヤの空”レヴィナスが帰ってきたァ!
 こんな感じで総勢32人の哲学者が「バキ語」で紹介されているまえがきは秀逸のひとこと。

 各哲学者がやったことや言ったことを知っていれば思わずニヤリとしてしまうこのセンス。もうすごすぎる。腹がよじれて涙が出る。おいおい、「イリヤの空」って(笑)。

 いやぁまえがきだけでかなり密度が濃いぞ。


 たいして本文になるとかなりバキ度が下がる。
 といっても「つまらない」というわけではない。

「哲学」という一段難しい話を「僕たち」という柔らかい文体で、わかりやすく語って聞かせてくれる。「説明」ではなく「語る」のだ。


 たとえば弁証法を解説した文章では、柔らかいことばで解説したあとこんな一覧がある。
(1)誰かが『真理』を述べる。
(2)別の誰かがそれを否定し『反真理』を唱える。
(3)よろしい、ならば戦争だ。
(4)両方を満足させる『超真理』誕生。
(5)別の誰かがそれを否定し、『反超真理』を唱える。
(6)よろしい、ならば戦争だ。
(7)さらに、両方を満足させる『超超真理』誕生。
 原文ではもう少し続くのだけれど、この一覧を見せられて「こういう手法が『弁証法』ですよ」と言われたら、あなたならすんなり納得できるのではないだろうか。
 少なくとも僕は納得できた。

『弁証法』なんていうコチコチの学問的な名前にビビっていままで敬遠していたけれど、こんなのならけっこう興味あるかも。もうちょっと教えてよ。という気になった。


 あとソシュールというひとの言語学に「差違のシステム」というのがあるのだけれど、本書ほどわかりやすい説明を僕は今までに見たことがない。

「差違のシステム」というのは、たとえば僕たち日本人は虹というのは七色だと思って見ているけど、ほかの国では五色だったり四色だったりという認識で見ている。これは視力の問題ではなくて、色の分け方の違い、つまり感性や文化に「差違」があるためだ。
 よって日本語の「虹」と、たとえば英語の「rainbow」なんかでは、まったく同じ現象でも同じものを見ているとは限らないし同じニュアンスでもない。という意味なのだけれど……うーむ。僕はうまく説明できてないなぁ。

 本書ではその「差違のシステム」を石のあつまりや宇宙人、原子やチョウチョなどを持ち出して本当にうまく説明してくれている。

 本書の263ページの最後の行から数ページにわたってイラスト付きで説明してあるので一度読んでみてほしい。きっと、ソシュールの言う「差違のシステム」がおぼろげながら理解できると思う。

 そこを読んでなんとなく理解できるのなら、この本は買いだ。
 あなたと本書の文章は相性が合っているハズだ。

 くり返す。263ページだ。
 ぜひ一度読んでみてほしい。


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『萌える☆哲学入門』を紹介した時にも書いたけれど、入門書の役割は初心者にそのジャンル全体の「もくじ」を見せて、「ここのところの専門書を読んでみたいな」と思わせるのが本当に良い入門書だ。

 なら本書も立派に「良い入門書」と言えるだろう。


 ソシュールの「差違のシステム」について、もっと詳しく知りたくなった。あと『イリヤの空、UFOの夏』も要チェックな。


史上最強の哲学入門』飲茶・マガジン・マガジン

 著者・飲茶氏のブログ
飲茶な日々 - いろんな感想や評価とか