歌舞伎蔵(かぶきぐら)

歌舞伎を題材にした小説、歴史的時代背景を主に、観劇記録、読書ノート、随想などを適宜、掲載する。

平戸へ6

2017-07-18 09:18:42 | 女歌舞伎襤褸鑑4

 かつて切支丹の王国のごとき姿をしていたといわれる九州の地では、今もっとも厳しい切支丹狩りが行なわれていた。熊本の町の入り口にあった晒し場の首の中にも、しかとは書かれていなかったが切支丹らしきものもいた。この関所の脇にも晒し場があり、来た時には盗みによって処罰された女の首がふたつ晒されていた。この女もまた老人の言うようなもののあわれな最後の姿であった。老人は思いのほか雄弁に切支丹のことを語ったが、あるいは切支丹の噂でも小耳にはさめば、関所の役人に訴えるようにでも命じられているのかもしれなかった。しかし人のよい田舎の老人がさような隠し事ができるようにも思えなかった。これでも用心しながら切支丹の話しをしていたのかもしれぬ。
 老夫婦は囲炉裏に火を入れ、団子汁を温めて出してくれた。来たときに出してくれた芋で作られた焼酎とか申す透明の酒は、南蛮人がこの家を宿にした時に謝礼として特にくだされたものだそうだ。おれは驚いて尋ねた。
 「さような貴重な酒を下さるとは、何かわけでもござるのか」
 「何をいっちょるか。おいがこつ、お役人にゃ、えろうお世話をかけとるけん」
 どうやらおれを役人とよほどの付き合いがあるものと勘違いしているようだった。

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