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温故知新:「あしながおじさん」を貫くアメリカ保守主義の精神

2009年03月03日 08時40分38秒 | 書評のコーナー

ジーン・ウェブスター『あしながおじさん』(Jean Webster, “Daddy Long Legs,” 1912)は20世紀初頭のアメリカ社会においては、ある意味、一種の「社会主義」を勧奨するパンフレットだった。そう言っても満更間違いではないと思います。

1919年と1920年に各々確定するアメリカ憲法修正18条(所謂「禁酒法」)と同修正19条「婦人参政権規定」を巡る数多の記述に明らかなように、『あしながおじさん』とその続編”Dear Enemy, ”1915(以下、前者を「DL」、後者を「DE」と略記。尚、DEは日本では『続あしながおじさん』のタイトルで翻訳されています。)には濃厚に「時代」が反映されていますが「DL」と「DE」を貫く著者の「社会主義」への好意もまたそんな「時代背景」の一つだと思います(ちなみに、修正18条「禁酒法」は1933年確定の同修正21条で廃止されました。為念)。

社会主義顕揚の書としての『あしながおじさん』。例えば、DLで大学3年生の主人公ジュディがあしながおじさんに書いた1月11日付の手紙には「ジュリアのお母様のおっしゃるには、ジャーヴィスさんは気が変で、社会主義者なんですって、・・・それでね、おじ様、私も社会主義者になるつもりですの。よろしいでしょう? 無政府主義なんかとは全然ちがいます。爆弾を投げて人を吹きとばしたりするようなやり方には賛成しないのです。たぶん私は生まれながらにして社会主義者の一員なんでしょうと思います。私は無産階級ですもの。でもまだ何主義者になるか、はっきりきめていません。日曜日によく研究した上で、次の手紙に私の主義を発表することにいたします」という記述が見えます(この箇所の原文は以下の通り)。

Julia’s mother says he’s unbalanced. He’s a Socialist.・・・You know, I think I’ll be a Socialist, too. You wouldn’t mind, would you, Daddy? They’re quite different from Anarchists; they don’t believe in blowing people up. Probably I am one by rights; I belong to the proletariat. I haven’t determined yet just which kind I am going to be. I will look into the subject over Sunday, and declare my principles in my next. (DL, J-Jan.11)


そして、この記述を受けた次の短信には更に明確にジュディの考えが説明されている。

「親愛なる同志よ、
ばんざい! 私は右派社会主義者です! つまり気ながに機が熟するのを待つ社会主義者なのです。この一派は明日の朝社会革命を起こそうなどとは望んでいません。そんな急激なことをすれば社会に混乱を来します。世の中の人がみんな驚かないだけの心構えができるまで、遠い将来をめざして革命をじわじわと進めていくのです。目下のところは産業、教育、孤児院の改革に着手することによってその準備をしなければならないのです」


Dear Comrade,
Hooray! I’m a Fabian. That’s a Socialist who’s willing to wait. We don’t want the social revolution to come tomorrow morning; it would be too upsetting. We want it to come very gradually in the distant future, when we shall all be prepared and able to sustain the shock. In the meantime we must be getting ready, by instituting industrial ,educational and orphan asylum reforms.(DL, J-Jan.11ff.) 



DEは第一次世界大戦中(1914年-1918年)に書かれ、著者のウェブスター女史自身、ロシア革命(1917年)を見ることなく1916年40歳の若さで亡くなっています。上の訳文は、多数ある和訳の中で原著者と年齢も近く古きよきアメリカやヨーロッパの雰囲気を体得しておられた松本恵子さん(1891-1976:新潮文庫)の訳を参考にさせていただいたものですが、引用文中の「右派社会主義者」の原語「a Fabian」は「フェビアン協会型社会主義支持者」の意味。而して、フェビアン協会は言うまでもなく英国労働党(1900年発足)の源流の一つとなった、議会制民主主義を堅持しながら斬新的な産業等の社会化を目指す社会主義団体のことです。


DLの舞台となった女子大は著者ウェブスター女史の母校ヴァッサー・カレッジ(Vassar College)がモデルとされています。マンハッタンからハドソン川を遡ること約100キロ、ニューヨーク州ポーキープシー(Poughkeepsie)にある同大学は1861年創設。残念ながら1969年からは男女共学に移行しましたが、(専門教育は大学院で行ない大学学部では高い水準の教養「liberal arts」を身につけることが今でもエリート教育の本筋とされているアメリカ社会にあって)教養と教育重視の大学(liberal arts college)の最新ランキングでも全米Top10前後に入る名門大学。かって、アメリカ東部の名門女子大学7校(Seven Sisters:one of seven most prestigious Eastern liberal arts women’s colleges)にハーバード大学の女子部ともいうべきラドクリフ大学(1999年に正式にハーバード大学と合併)とともに名を連ねた米国女子大学の雄(?)です。ちなみに、岩倉使節団とともに1871年に渡米し、後に、日露戦争時の満州軍総司令官・陸軍元帥・陸軍大臣の大山厳公爵の夫人となった捨松夫人(1882年卒業)もヴァッサー・カレッジの卒業生であり、ウェブスター女史は大山公爵夫人の19期下の後輩に当たります。

畢竟、DLとDEで展開される社会主義は、しかし、「マルクス=レーニン主義」と無縁なのは当然として、現在、通常言われるヨーロッパ型の「社会民主主義」とも異質。蓋し、著者の主張には「自己責任」に価値を置くアメリカの健全な自由主義を私は感じるのですが、それも女史がヴァッサー・カレッジの卒業生と聞けば納得できる気がします。人を物として管理することへの嫌悪と自助努力の価値の顕正がDLとDEの底流に流れている。而して、これこそ「資本主義」の社会的制御が喧伝されている2009年現在、我々保守改革派が『あしながおじさん』から学ぶべき精神ではないか。ジュディとサリーに著者がこう言わせているのを目にして私はそう思いました。






「ジョン・グリア孤児院の目的は・・・九十七人の孤児を九十七人の双生児のように同じ人間に仕立てることでございました」


The aim of the John Grier Home ・・・ is to turn the ninety-seven orphans into ninety-seven twins. (DL, F-Oct.10ff.)




「私共はここの子供達を、金持ちの息子によくあるように、頭脳もないのに無理に大学へ入れるなどという事はいたしません。また貧乏人の息子によくあるように向学心のある子供を、十四歳になったからといって、無理に就職させるような事はしません。私共は子供達一人ひとりをよく観察して、相応した所を見つけてやります。もしも子供達が、農夫や保母になる適性を示したら、できるだけ優秀な農夫、優秀な保母になるように教え込んでやります。もし法律家になる素質を持っていたら、誠実で聡明で偏見のない法律家に仕立ててやります」


We weren’t trying to force them into college if they hadn’t any brains, as happens with rich men’s sons; and we weren’t putting them to work at fourteen if they were naturally ambitious, as happens with poor men’s sons. We were watching them closely and individually and discovering their level. If our children showed an aptitude to become farm labourers and nursemaids, we were going to teach them to be the best possible farm labourers and nursemaids; and if they showed a tendency to become lawyers we would turn them into honest, intelligent, open-minded lawyers. (DE, April 1)




「私は子供達に独立精神と自発的に何かする精神を植え付けてやりたいと希望しています。この二つのたくましい性格がここの子供達に目立って欠けています」


I do so want to develop self-reliance and initiative in these children, two sturdy qualities in which they are conspicuously lacking. (DE, April 20ff.)




「私はこの孤児院の毎日の仕事を百に区分して、子供達を毎週交代で次々と不慣れな仕事をさせることにしました。・・・どの子供にもよく覚えた一定の仕事を永久にやらせておくあの非道徳的な方法に従う方が、私達にとっては遥かに楽なのです。その誘惑に陥りそうになると、私はこの院の戸の真鍮のハンドルを七年間磨かされていた、フローレンス・ヘンティーのみじめな姿を心にうかべて、決然として子供達を他の仕事に移らせるのです」


Therefore I have divided the daily work of this institution into hundred parcels, and the children rotate weekly through a succession of unaccustomed tasks. ・・・It would be infinitely easier for us to follow・・・ 【the】 immoral custom of keeping each child sentenced for life to a well-learned routine; but when the temptation assails me, I recall the dreary picture of Florence Henty, who polished the brass door-knobs of this institution for seven years. (DE, June 9ff.)




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