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なでしこジャパンの主将<宮間あや>に見る女子サッカーの無限の未来と乏しい現実

2012年08月13日 11時55分08秒 | すぽーっの話題

 


ロンドンオリンピック銀メダル。なでしこジャパンが昨年のワールドカップドイツ大会優勝に引き続き偉業を達成しました。男子の日本代表がメキシコオリンピック(1968年)で銅メダルを取って以降、Jリーグ発足までの約四半世紀、例えば、男子日本リーグの決勝でさえ国立競技場の観客がまばらだった日本サッカーの「どん底の時代-氷河期」を同時代として生きてきた身には、4位に入った北京オリンピック(2008年)からのこの4年、なでしこの活躍は誇張ではなく夢のようです。

昨年のワールドカップ優勝の影響。朝日新聞の報道によれば「子供たちの女子サッカークラブへの参加がW杯優勝の後に20%増えた」らしい。その数値の真偽は別にして、この1年間でサッカーに関心を持つ女子小中学生が激増したことは間違いないでしょう。そして、今回の銀メダルでこのトレンドが一層加速することもまた。うっとり。

けれども、好事魔多し。形影これを分かつこと能わず。誰もが感じるなでしこの明るい未来の足下には、影の如くその無限の未来と表裏一体の乏しい現実が横たわっているの、鴨。なでしこジャパンの主将にして世界的に見ても女子サッカー界の至宝、宮間あや姫という<窓>からはその二律背反の弁証法的<風景>とアンビバレントな<情景>が垣間見えているの、鴨。


▼宮間、号泣…みんなが感謝! チームまとめた“最高のキャプテン”

抑えていた感情が爆発した。号泣だった。動けなかった。濃密な90分間が過ぎ去った聖地・ウェンブリーのピッチ。MF宮間は、あおむけになり、顔をくしゃくしゃにして泣きに泣いた。「勝ちたかったという本音はあります。自分たちのやりたいことはしっかりやれたと思います」。熱戦を振り返る目は、真っ赤に腫れていた。

主将としての重責を担いながら、世界屈指の技術をしっかり見せた。前半33分には、あわや同点というシュートを放ち、後半18分にはFW大野に絶妙なスルーパスでFW大儀見のゴールの起点になった。精度の高いCK、FKは常に米国ゴールを脅かしていた。

五輪で日本サッカー界最高位となった銀メダル。なでしこを支えていたのは、紛れもなく宮間だった。英国入り後に、開幕までの日数を記した手作りカレンダーを作り、試合前のロッカールームではメンバーへの感謝を告げるなどムードを盛り上げた。出場の少ないメンバーの部屋に出向き、たあいもない話をした。

「あんなにチームのことを考えて行動できる主将はいない。年上にも年下にも気遣いをして、ちょっとしたことでも声をかけてくれる」とはFW川澄。サポートメンバーのFW大滝は「ロッカーに入れない私たちも、試合会場で必ず見つけて手を振ってくれる。チームだなって感じますね」と語る。

「ここまで来られたことに、スタッフをはじめ、本当に感謝しています」と語った宮間。だが、周囲から一番の感謝を集めたのもまた、なでしこジャパンの頼れる主将だった。


(デイリースポーツ・2012/8/11 7:55





宮間あや姫、映画『キック・アス:Kick-Ass』(2010)でクロエ・モレッツ(Chloë Moretz)が演じたキャラクター「ヒット・ガール:Hit Girl」を彷彿とさせる、文字通り「つよかわいい:strong and sweet」フットボーラー。

1985年1月生まれの27歳、今大会も大車輪の活躍を見せてくれた宮間あや姫は、地元千葉では小学生の頃から天才サッカー少女として有名な存在でした。それもあろう、1999年、中学3年生で当時の名門、読売系のNTVベレーザ( 現「日テレ・ベレーザ」)に昇格。

けれど、同じ読売系のベルディーやジャイアンツと同様、ベレーザの練習場は東京都稲城市や川崎市多摩区という辺りにある。つまり、千葉在住の宮間あや姫にとって練習場までは毎回東京湾をほぼ半周することになり、その所要時間は片道2時間45分以上! 
   
実際、JR京葉線の海浜幕張駅に程近い、あや姫が在籍していた県立幕張総合高校からでもそれくらいの場所にベレーザの練習場はあった。ならば、まして、海浜幕張駅から更に半時間以上はかかる自宅から移動する/帰宅することを考えれば・・・。(><)

宮間あや姫とは往復の順序は逆になりますが、ほとんど同じ経路を(川崎市麻生区新百合ヶ丘から千葉の海浜幕張に)私も足掛け3年通勤しましたけれど「片道2時間45分」の辛さはよーく分かります。

(ノ-_-)ノ ~┻━┻・..。


ということで、

毎回往復6時間の移動時間、そして、その移動時間の負荷から派生したものでもあろう人間関係のあれやこれやが理由で、高校2年生の始めにベレーザを退団。その後、2001年の岡山湯郷Belleの旗揚げに参加するまでしばらくは、幕張総合高校の部活で男子部員に混じって練習せざるを得なかった。

本人曰く、「練習にはそう不自由はなかったんです。
けど、もちろん(男子の)試合に出られない。それが辛かったですね」、と。





女子高生時代の宮間あや姫のエピソードを通して私は何を主張したかったのか。それは、女子サッカーの場合、小学生・中学生の受け皿は必ずしも少なくはない。けれど、高校生の受け皿となるとそれはとたんに激減するということ。

実際、例えば、昨年の「第20回全日本高等学校女子サッカー選手権大会」。
その関東地区予選の出場校は24校ですから。
これ、千葉県予選とかではなくて全関東エリアで合計24校!

畢竟、女子サッカーを巡っては、10年前の宮間あや姫の時代だけではなく現在でも、高校生以上の女子にとってはサッカーを続けられる環境が整っているとはとても言えない。これが、(なでしこリーグのチームが若い世代の育成に力を入れている等々)多少の改善は見られるものの今でも基本的には変わらない日本の現実ということです。

しかし、女子サッカーの場合、隣の芝生も必ずしも青いばかりではない。「海外も日本と変わらない。サッカーだけでは生活できない現状がある」ということ。実際、女子サッカーに関しては、あのサッカー大国のブラジルでさえ資金不足がゆえに、例えば、試合で着用するセレソンのユニフォームも男子チームのものを借りている状況だとか。

だから、以下の報道は今の女子サッカーの隆盛と同時に、今までの乏しくシャビ-な状況の形影を一如として示唆するものなの、鴨。


▼「女子サッカーブーム」世界でも 独は選手10%増 仏リーグ戦生中継

ロンドン五輪で金メダルを目指す女子サッカー日本代表「なでしこジャパン」が1次リーグ初戦のカナダ戦(25日=日本時間26日未明)に勝ち、日本国内の五輪機運を一気に盛り上げた。だが、女子サッカーブームが起こっているのは、日本に限った話ではない。

日本が初優勝した昨夏のワールドカップ(W杯)ドイツ大会決勝からちょうど1年となる今月17日、国際サッカー連盟(FIFA)は公式サイトに「女子サッカー、ドイツから1年」とのニュースを掲載した。大会のホスト国だったドイツでは、女性選手が一昨年に比べて約10%増加。73万4903人がドイツ協会に登録し、うち半数近い34万2312人の16歳以下の少女がドイツ国内のクラブでプレーしている現状が報告された。

またロンドン五輪出場国で、開幕前の強化試合で日本を破ったフランスでは、国内リーグの平均観客数が7千人に増え、主要なリーグ戦はテレビで生中継されるようになったという。・・・

FIFAの統計によると、世界中でサッカーをプレーしている女性は2006年には約2600万人だったが、現在は約2900万人に増加。また、70%の人々が女子サッカーに好意的な意見を持っているという。熱戦が続くロンドン五輪の女子サッカー。なでしこが昨年のW杯のような奮闘を見せれば、その数はさらに増えるかもしれない。


(産経新聞・2012/7/27 15:11





女子サッカーの盛り上がりが凄い!?! 

いいえ、嫌がらせのように繰り返しますけれど、それは、
女子サッカーの人気が今までが低かったことの裏面にすぎません。

例えば、ワールドカップドイツ大会の前年、2010年度の日本の女子サッカー競技人口は36,683人。これは、野球やソフトボールほどではないけれど世界的に見れば「特定地域限定競技」にすぎないバレーボールの308,936人の10%強の規模しかないのです(数値はいずれも笹川スポーツ財団発行の『スポーツ白書』から)。

要は、ロンドンの銀メダルを契機に「第2段ロケットに点火」した感のある女子サッカーの現下の盛り上がりという現象は、なでしこジャパンのワールドカップ優勝以前は(謂わば女子サッカーの歴史における「ノアの洪水以前」の時代、)女子サッカーが日本では極めてマイナーな競技でしかなかったことの裏面でしかないと思うのです。それくらい女子のサッカーはまだまだスポーツとしての基盤が日本では(否、個別日本だけでなく世界的にも)脆弱ということでしょう。

もっとも、アメリカとドイツは些か例外なの、鴨。就中、アメリカでは「サッカーは女の子が最初にするのに最適なスポーツ」と看做されていて、アメリカの社会での女子サッカーの認知度と好感度は高く、アメリカでは見方によっては男子サッカーより女子サッカーの方が社会的な<格>が高いと言えなくもない。世界ランキングも1位ですしね。

而して、日本サッカー協会によれば、アメリカの女子サッカー人口は800万人;正式に競技者登録をしている競技人口でも167万人だそうですから(日本の40倍!)。アメリカにおける女子サッカーの威信の高さは想像がつくというもの。

ならば、昨年のワールドカップの決勝で日本に破れたことでアメリカが受けた衝撃と損害は、実は結構大きかったの、鴨。そしてロンドンオリンピック。「日本を破って金メダルを取るわよ!」というアメリカチームの意気込みはやはり、なでしこが金メダルを狙う気持ちを些か上回っていたの、鴨です。





けれども、しかし、その女子サッカー帝国のアメリカでも女子サッカーはビジネスとして成功しているとはとても言えません。実際、ドイツワールドカップからロンドンオリンピックに至るこの重要な1年間、彼の地では契約問題が暗礁に乗り上げて女子サッカーのプロリーグは氷結していたのですから。蓋し、女子サッカーを包む明るい未来の足下には乏しい現実が横たわっている。と、繰り返しになりますけれどもそう書かざるを得ないのです。

而して、この光と影を巡る事情、形影一如の事情は女子サッカーの辺境の日本においてはなおさらそう言えるでしょう。よって、現下の<なでしこジャパン>の知名度と好感度の隆盛を一過性のものにしたくないのなら、女子サッカーの伝播と強化を一層進めなければならないことは明らか。そして、その伝播と強化の尖兵であり旗艦が<なでしこジャパン>そのものであることも。

ならば、蛇足になりますが、これから4年間の宮間あや姫には更なる活躍を期待すると同時に、「ノアの洪水以前」の女子サッカーの氷河期に<なでしこジャパン>を支えてきたその最後の一人、澤穂希選手には、<女子サッカー界の前田敦子>として、このロンドンの銀メダルを契機に日本代表からの引退を要望したいと思います。尚、この最後の点に関しては下記拙稿をご参照いただければ嬉しいです。


・なでしこの澤選手が引退撤回-続けるのは自由だけど、日本代表入りは自制して欲しいかも?
 http://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/7ba7270e37eb0074c503d0153ed30245











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