風音土香

21世紀初頭、地球の片隅の
ありをりはべり いまそかり

「淺草のおんな」

2013-07-28 | 読書


岩手は花巻に生まれ育ったワタシにとって
母なる川は豊沢川だ。
宮沢賢治さんの童話「なめとこ山の熊」の舞台、
花巻の西の山々から流れ出て
ヤマメやアユやカジカを育みつつ街の南を流れ、
やがて北上川に合流して行く。
子どもの頃から夏には川へ入って魚を取り、
遠足では河原で飯盒炊爨をし、
石を拾い、子どもたちと花火などして遊んだ。

その流れは渓流もあれば蛇行しつつ淀みもある。
賢治さんの「風の又三郎」に出てくるさいかち淵もある。
山からそのまま流れ出てくる
ワタシのイメージでは元気な若い川。
そこで遊んだ頃の自分の年齢もイメージに入ってるかも。

さて、3年前東京に来てから、
ワタシにとっての母なる川がもうひとつ増えた。
隅田川だ。
こちらは豊沢川とは違い、広くゆったり流れる。
いわば大人の川だ。
さまざま清濁合わせて飲み込み、
それでも変わることなく悠々と流れて行く。
この3年間、何時ぼんやりと流れを眺めたことだろう。
「惑うことはない」「何があっても慌てることはない」と
心の中にささやきかけてくるような隅田の流れ。
今の自分の年齢に合った出会いだと感じている。

そしてその隅田川の周りで生きる人間たちの営みもまた
今の自分には欠かすことができないものだ。
三社祭、花火、鬼灯市、植木市、酉の市・・・。
下町の人情と景色と風習。
そんな心の付き合いの中に、今のワタシの日常はある。

改めてそんなことを感じさせてくれる物語。

「淺草のおんな」伊集院静:著 文春文庫
コメント
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