物語エトセトラ

気分は小説家?時に面白く、時に真面目に、物語を紡ぎ出す

ゆうきのサバイバル日記(81)

2011-10-11 | Weblog
       「い っと・う・くーん」
     
       バスケの練習が終わり、俺がそそくさと帰り支度をすませ更衣室を出て
      さっさと玄関へ行こうとしている背中に、和田の声。

       近頃和田の奴は、俺をこうして変なアクセントをつけて呼び止めるよう
      になった。
       そして、そんな風に呼ぶときは決まってアノ話だ。

       「な。な。
        伊東。
        今度の日曜日なんかはどうだ?」
       「・・・・・・・」
       俺はちょっと大げさにため息をついてみせた。
       「今度の日曜って、バスケの試合があるはずだろ?」
       「それはさ、昼過ぎに終わるじゃないか。
        それからさ、な?
        そうだ、応援なんか頼んだりして」
       
       「勝ち残ったら、昼過ぎには終わらないだろう?」
       「大丈夫だよ。相手はN校とF校だろ?
        まず、俺たちが勝ち残るはずないじゃん」
       「・・・・・・・」

       なにが「ないじゃん」だよ。
       俺は和田に、ため息ついてみせることさえもったいない気分になった。

       和田は修学旅行で、告って撃沈した。
       しばらくは、みるから元気がなく萎れていたが、2週間ばかり前から
      蘇った。
       なんと、1年のけっこうかわいい子から告られたんだ。

       「捨てる神あれば、拾う神あり」だっけ?
       まあ、バスケ部で「一番幸せ者です」って顔してる。

       しかし、和田の奴は、なぜか「メル友から始めよう」って言ったんだ。
       失恋のショックから十分に立ち直っていない?と思ったら
       和田いわく
      「だってさ、やっぱり伊東たちと一緒に始めなきゃな」
       と、分ったような分らないようなことを平然とのたまわった。

       まあ、それはそれで別にいいんだが、困るのは
      「ダブルデートしよう」と、俺に誘いをかけることだ。

       なんで俺なわけ?

       相良と俺は、相変わらずメル友だ。
       俺は、今でも相良からきたメールの返事に困るときがある。
       正確にいえば、困ることのほうが多い。

       それなのにデートなんかして、何しゃべるわけ? 

       「おう!なんだ?
        男同士がくっつきあってキモイぞ」
       バスケの角田先輩が声をかけてきた。
       
       「え?あ・・・・」
       いつの間にか和田は俺の二の腕をがっしりつかんで、顔を触れんばかりに
      近づけていた。
       確かにキモイ。
     
       「あ、あに、県大会では、頑張ろうと誓い合っていて・・・」
        さすがに先輩の前では、まけるだろうとは言えないだけの理性が和田に
       残っていた。

       「だな。
        籤運が悪いのか、強敵だけど。
        やってみなきゃわからない!って言うだろ?頑張ろうぜ」
       「はい!!」

       ああ、角田先輩はスポーツマンだ。
       やっぱ、こうでなくちゃ。
       俺たち高校生だぜ。それが青春だろ?
       それに比べ、和田は・・・・・・・。

       「さあ、帰ろうぜ。
        明日は朝練だろ?」
       俺は、静かに諭すように和田に言った。(なんか、かっこいい)
    
       「だな。
        伊東、寝坊して遅れるなよ」

       「う・・・・・・・うん」
     
       ああ・・・・カッコつかないよなぁ。  

ゆうきのサバイバル日記(80)

2011-09-23 | Weblog
        修学旅行の興奮も、あっという間に過ぎ去った。

        若い俺たちは立ち止まることを許されない!

        なぁーーーーんちゃって。

        そんな想い出にいつまでも浸っていることを学校が許すはずないっいぇこと。
        グループで研修の(修学旅行は研修なんだぞ!遊びじゃぁない)レポートを
        まとめる。
         それも小学生みたいなガキじゃないから、誰かに押し付けることがないよう
        に先生が目を光らせたり、絶対一人一人が書かなければならないような項目が
        あちこちに設けられたりしている。

         さらに息つく暇もなく、小テスト。
         続いて実力テスト。
         とどめは、復習テスト。

         この違いをわかるのは現役高校生だけじゃないか?
         といっても、テストの教科の数が違うだけのような気がするのは、俺だけか?

         そして部活では、1年生の実力がはっきりしてくる。
         レギュラー争いに混じる奴も3人ばかり。
         大会も目前だ。

         それはどこの部活も平等なんだが、今年も(野球部用)応援団が生徒会を中心に
        各クラスから委員を招集して結成される。
         俺は昨年に続き、今年も応援委員だ。

         うちの野球部は今年もそこそこ強いらしいが、いつも代表を争そう私立の2校に
        は、ほど遠い。
         どこまで勝ち進むかはくじ引き次第だ。

         今日は応援団の結団式があった。
         そこで(大げさかもしれないが)死ぬほどびっくりしたことがあった。

         校内で2,3回見かけた美人、美女がいたのだ!

         黒板を背に前に座っているから、生徒会役員なんだろう。
         彼女のところだけスポットライトが当たっているかのように、まぶしく目立つ。


         正直、乗り気じゃなかった俺だが、なんか急にやる気が出てくるから不思議。
         しかも俺の席(クラスで席が決められている)から、正面から左へ20度くらい
        ずれた位置。まさかマジマジと見つめるわけにもいかないが、チラチラと(正確に
        はもう少し頻度が高いかも)見てしまう。

         「遅れてすいません」という大声とともに、俺の視界が壁でふさがれた。
         「おう!伊藤、よろしくな」
         自分が何をしたか全くわかっていない、楽しそうな笑顔で大井が振り返る。
         「・・・・・・・・・」
         俺は返事もできない。
         おもわず、ため息。
         それも静かで、ふかーーーいやつ。

         大井の超でかい背中で、俺の視界はふさがれてしまった。
         奴の背中を見ないようにするには首を完全に横にむけるしかない。

         結団式は始まったが、俺は完全にやる気をなくしてしまった。
  
         その結果は、当然眠くなる。
         これは健康な人間なら自然な生理現象だ。

         うとうとしかけた、その時だった。

         「私語が多すぎ。静かにして!」
         鼓膜が破れそう、というより腹に響く声だった。
         静まり返る。
         単に口を閉じただけじゃなく、身動きできないような感じだった。
         俺の視界に、あの彼女がいる。

         そう、彼女が立ち上がり、皆を一喝したのだった。

         厳かに結団式が終わる。
         あとできいたところによると、彼女は空手部3年のエースで、主将。
         個人線では昨年2位だったとか。

         空手・・・・・・
         なんとも彼女からはイメージし難い。
         しかし、あの声。
         キンキン張り上げるんじゃなく、まっすぐ響く感じ。
         
         「伊藤君には、まだ分らないかもしれないけどね」
          いつだったか夏目が偉そうに言ってたっけ。
         「女性ってのは、見た目じゃわからないんだよ」
    
         奴の分り方と同じかどうか怪しいが、俺にも少しわかった気がした。

         今も腹に手を当てると、あのときの彼女の声の響きが感じられそうだ。
         
         「女は化ける。」とか、「見た目じゃわからん」とか言うのは
         なにも化粧したり整形手術したりするだけじゃなかったのだ。

          とにかく驚いたが、なんか少し開眼?した気分だ。
             
  



 

ゆうきのサバイバル日記(79)

2010-11-04 | Weblog
        帰国し、学校に着いたのは6時を過ぎていた。
        迎えに来た母親が、俺の顔を見るなり
        「まあ、まあ、もお・・・・・・」と、涙目になったのには
       さすがにまいった。
        
        家にもどって、残り少なくなった貴重な韓国製風邪薬を披露。
        車の中で、しつこいくらい
        「熱は? 気分は? 鼻水は? せきは? 等々・・・・・・」
       質問攻めにしていた母親は、
        「その薬は勇ちゃんにピッタリあっているみたいだから、今度
         風邪引いたとき飲みなさいね」
       と、あっさりしたもんだ。
        俺としては、もう飲みたくない気分だが、まあ仕方がない。薬箱
       に入れておいた。
        1日分くらいは、中学の友達に分けてやらなくちゃ。
        ご飯を食べ終わった頃、メールが入った。
        マサヤから俺のことを聞いた誰かが、早くも薬を見せろと言って
       きたかな?
        メールを見ると、相良からだった。
        >夕飯もうすんだ?いっぱい話すことがあってくたびれちゃった*
         明日学校で<
        「・・・・・・・・・」
        これは返事が必要なんだろうか?
        苦手なんだよな、俺。
        考えてたら、再びメール。
        >相良からメールきた?きたら絶対!!返事かえせよ!!<
        能島からだ。
        やっぱり返事が必要か・・・・・・
        >ご飯は食べた<
        というのは、来たメールの返事としては正しいんだろうが・・・
        ちゃんと相手の質問にこたえてるだろう?
        でも、これじゃダメだということは、さすがの俺でも判る。
        男同士なら、こんなメールがきたら別に返事する必要もないし、
       そのまま無視でいいんだけどな。
        マサヤみたいに
        >今日の豚マン、超大当たり!肉たっぷり!!<
        とかいって勝手に送ってきたメールに返事をくれなかったとブー
       たれる奴もいるけど。

        結局、北崎にメールできいた。
        断っておくが、俺だってしばらくはちゃんと考えたんだ。
        しかし、これは数学の問題より難解だぞ。

        北崎は
        >無難なところでいいんじゃない?初めてだしさ。
         **食欲満点。食べ過ぎかも?これからよろしくな**
         短くて、お前らしくていいだろ?<
        だってさ。
    
        これって、俺らしいのか?


    
       




    

ゆうきのサバイバル日記(78)

2010-07-11 | Weblog
       熱狂と興奮、悲哀と挫折、希望とロマンの夜が明けて・・・・

       今朝の食堂は、ちょっと微妙な雰囲気だった。
       昨夜、いったい何組の告白があったかしらないが、大井や俺の
      ような「メル友からはじめましょう」というペア(?)はともか
      く、カップリングしちゃったペアは、ほとんど学年中に知れ渡っ
      ているようだった。
       そして、「撃沈」した奴(ペアとはいえないよな)も同じよう
      に知れ渡っているようだった。
       さすがに傷口に塩をぬるような奴は(ともかく今朝は)いない
      ようで、いたわりと励ましの雰囲気に満ちていた。

       食後、前もって注文していた土産物を受け取り、荷物をまとめる。
       病院でもらった風薬は、あと4日分残っている。
       ホテルのゴミ箱に捨てていくのも、国際親善の観点から考えると
      止めておいた方がいいよな・・・。
       「誰か、この風薬、記念にいるか?」
       一瞬の静寂。
       「俺にひとつだけくれ!」   やっぱりな。
       「えーー!?お前そんなもん、どうするんだよ?」
       「一応薬だぞ。飲むのか?」
       「違うって。
        家へ持って帰って、みんなに見せてやるんだよ」
       「あーー!それいいかも。
        普通じゃ、手に入らないからな」
       「そっかぁ!
        伊東、俺にもひとつくれ!」

       さすがに俺の友達だ。
       3人がひとつずつバックの中に、韓国の総合病院の風邪薬を
      そっとしまった。

       修学旅行は・・・・・まあまあかな。
       日本と韓国は、本当に近い!
       心残りは・・・・・・
             
            ・・・・機内食を食べられなかったこと、かな。  

ゆうきのサバイバル日記(77)

2010-07-07 | Weblog
       それはまさしく、「怒涛のように」とか「なだれ込むように」
      とかいう表現がふさわしい光景だった。
       おれの周りで盛り上がっていた6人に、さらに7人が加わって
      何やら叫びあっている。
       俺はすぐ側にいながら、テレビ画面を見ているような感じだ。
       「撃沈」とか、「こっぱ微塵」とか物騒な単語の合間に「やりっ」
      とか「ぎょぇっ!?」とか、文字にしずらい奇声が飛び交っている。
       そして、みんなの中心が大井に移り、やがて大井と俺を囲む形に
      なった。
       「そうか、伊東と大井はこれから青春しろよな。
        ま、未熟ながら俺たち先輩が相談にのってやってもいいから、
        安心しろよ」
       作本が、偉そうに俺たちの肩に手を乗せ言った。
       去年同じクラスだけど今は2組だぞ。
       1組と2組の男子は、別館に部屋があるんだが・・・・
       まあ、いいけどさ・・・・。
       「これからじゃない!
        もう、俺たちは青春まっさかりだよな、伊東」
        大井は、俺の手をそのふくよかな手でガッチリ握り、
       「頑張ろうぜ!」と言うと、
        「他の奴らに教えてやらなくちゃ」と、出ていった。


       このあとのやり取りをいちいち書いていたら、俺は腱鞘炎に
      なってしまうので、簡潔にまとめる。
       つまり、大井は他のクラスの津田っていう女子(俺は知らない)
      に告って、「お友達から始めましょう」ってことで、メル友にな
      った。
        大井といっしょに部屋になだれ込んできた奴らは、物陰に隠れ
       て成り行きを見守った。美しい友情ってやつ?
        そして「撃沈」したのは、なんとバスケ部の和田・・・・。
        部屋になだれ込んだ第2陣は、和田のほうを見に行っていたと
       いうことだ。
        俺のほうにだれもいなかったのは、気をきかせたわけじゃなく
       もう、結果が分かっているから。
        修学旅行の最後の夜っていうのは、「告白」ブームの第1波な    
       んだそうだ。
        そういう話をなんとか聞き出しているところに、また2つ「告
       白」の結果が飛び込んできた。
        1勝1敗。
        とりあえず(俺も1勝として)今夜入った情報では、3勝2敗
       ということだ。
        ちなみに、大井という奴は同じクラスで、たぶん学年で一番で
       かい奴。身長では大井に勝つ奴はいるだろうが、重量では勝てる
       奴はいないはず。超重量級といか、超デブい。
        それなのに剣道部員だ。
        小学校のころから剣道をやっているそうで、おれ達の間では
       剣道の腕前よりは、奴の身体が収まる胴着、防具があることが   
       話題になる。部のなかじゃ一番の腕前らしい。
        もっとも、現在部員は大井を入れて4人なんだけど。

        しかし、と俺はやっと静かになった部屋で(消灯時間をかなり
       過ぎている)思う。
        なんだかお祭騒ぎで、ロマンもなにもないのでいいのかな?
        俺の場合は・・・・・
        騒がれても、静かに(秘かに?)でも、ロマンは・・・・? 

ゆうきのサバイバル日記(76)

2010-06-27 | Weblog
       俺の困惑をまったく無視して、他のやつらが大井を囲む。
       「奇跡だぜ、き、せ、き」
       「は、は、は・・。明日は雨かもな」
       「まだ、信じられないぜ、全くさ」
       「そうだ、そうだ。津田はきっと博愛主義者だ」
       「なんとでも言え」
       大井はおれの肩をガシッとつかむと
       「伊東、外野がなんて言おうが、無視だ、無視!    
        俺たち、いっしょに青春だもんな」
       と、潤んだ目で俺の顔を覗き込む。    
        「おおーー!!
         強気の発言じゃないか」
        「お前、舞い上がりすぎだぞ」
        「そうだぞ、メル友だろ。
         メル友。とりあえず」
        「バッキャローー!!
         いいか!?健全な高校生はだな、メル友から始めるもん
         なんだ。  なあ?伊東?」

       今まで、俺をほとんど無視して勝手に盛り上がって、最後は
      俺に振るのか?
       そうは思ったが、少ししか話が見えていない俺は、
        「まあ、そうかな?」
       と、言葉をにごしておいた。
        「だよな?
         お前が、相良とペアになったって聞いてさ、俺ひとり取り
         残されたらどうしようかと、あせったのなんの・・・・」
        「そのおかげで、思い切って津田に告ったんだから、よかった
         じゃないか」
        「しっかしさ、うまくいく確率は50%だったよな」
        「俺なんか、30切ると予想してたけどな」
        「いやぁ、十人十色とは良く言ったもんだな」
        「ほんと、感動モン!!」
        「うるさいんだよ。
         俺と伊東も、今日からはお前達と同レベルだからな。
         なあ、伊東?」
        「ひぇーー!?
         お前、いきなり、俺たちといっしょかよ?」
        再び盛り上がりを見せた時、またもやドアが。  
       

ゆうきのサバイバル日記(75)

2010-06-17 | Weblog
        部屋にはだれもいなかった・・・・・。
        俺は、ベッドの上に(まちがいなく)自分のТシャツがあるのを
       確認したものの、一応廊下に出て、ルームナンバーを再確認。
        まちがいない。
        それではと、となりの隣の部屋をノックしてみた。
        応答なし。
        ドアに耳を当ててみたが、やはり人の気配はないみたいだ。
        まったくおかしい。
        自分の部屋にもどってはみたものの、落ち着かない。
        しょうがないので、シャワーでもしようかと、ノロノロ用意し始
       めたときだった。
        「バーーーン!!」
        勢いよくドアが開き、
        「おおおおーーーっ!!
         いとうーー。
         いとうー、いとう、いとうーーーー」
        何がなんだかわからない。
        俺はガシッ!と羽交い絞め(抱きしめるとはとてもいえない)さ
       れ、ほとんど息ができないくらいなのだ。
        俺の名前を連呼するこのでかい声と、俺の上半身をのみこもうと
       する肉の量からすると、同じクラスの大井だとは思うのだが・・・

        酸欠でボーーッとしてきた俺を、ようやくその分厚い胸から離す
       と、
        「いとうーー、俺も同じ仲間だ。
         いやぁー、よかった、よかった。
         お前に置いていかれるかと、あせったぜ。
         ああ、よかった。
         いや、実によかった。
         俺たち、いっしょだもんな。
         仲良くしようぜ」
        大井は、おれの顔につばを飛ばしながら、一方的にしゃべりまくる。
        何の話か、俺には全く見えてこない。
        俺はとにかく、酸素を補給することを優先した。
   
       

ゆうきのサバイバル日記(74)

2010-06-11 | Weblog
        相良とわかれた俺は、部屋へもどろうとした・・・・


        ずいぶん空白があったからって、跳んだわけじゃない。
        まあ、日記とはいえ俺にもプライバシーっていうものが
       あるわけで・・・・・・。

        部屋ではきっとみんなが、首尾を無理やりにでも聞き出
       そうと待ち構えているにちがいない。気が進まないが、ホ
       テルから出ることは禁止されているし、しかたがない。
        むしろ、誰も覗きにこなかったことを、ほめてやらなきゃ
       いけないのかも。みんな完全に面白がっているんだから。

        「伊東君」
        階段を下りかけた俺の背中に声がかかった。
        思わずギクッとするよな。森崎だ。
        「伊東君」
        俺に近づいた森崎は、もう一度俺の名前を呼んで肩に手を
       置いた。
        「???」
        「もう、あんたって・・・・・」
        「????」
        「はーぁぁぁーーーーー」
        と、大きな深いため息。何なんだよ?
        「まあ、しょうがないか。伊東君だもんね」
        そういってまたため息。
        「?????」
        森崎は踵を返すと、そのままスタスタと去っていく。
        「??????」
        そして、あれ??なぜか夏目がいる。
        森崎と何やら話して、ふたりであっちのほうへ歩き出した。
        「???????」
        廊下の曲がり角で、夏目がちょっと片手をあげた。
        どういうこと?
        なんだかよくわからない。

        部屋のドアの前で俺は深呼吸をする。
        これからまた一騒動だ。
        なんだかんだ聞かれても、話すことはほとんどないんだけど。
        ほとんど相良がしゃべっていたといっていい。
        いつまでもドアの前で立ちんぼしてるわけにもいかない。
        俺は覚悟を決めて、ドアを開けた。


        「・・・・・・・・
         ???????????」
        部屋を間違えたわけじゃない。
        部屋にはだれもいなかった・・・・・・・・。

ゆうきのサバイバル日記 (73)

2009-07-21 | Weblog
      伊藤は相良を嫌いじゃない。
      どちらかといえば、好感を持っているほうだ。
      積極的に付き合いたい!というまでの気持ちはない・・・今の
     ところは・・・・・・
      
     「と、伊藤君の気持ちを整理するとこんなところかな?」
      夏目が眼鏡を中指でそっと持ち上げながら、数学の演習問題を
     解説するときと同じような口調で言った。
     「・・・んーーー、まあそうかな」と俺。
     「じゃあ、ここは定番の ‘いいお友達になりましょう‘かな?」
     「えーーー!?
      そんなんでいいのか?
      伊藤、相良は結構いいぞ。可愛いしさ。
      お前もそう思うだろ?な?」
      能島が俺の肩をつかみ、下から俺を覗き込む。
     「え? うん、まぁ・・・」
     って、俺は顔が熱くなるのを感じた。なんなんだよ!困る!
     「だろ? お前チャンスじゃないか。
      付き合え、付き合え。
      青春しなきゃ、男だろ」
     そうは言われても、やっぱ、曖昧な気持ちで付き合い始めていい
     のか?確かに相良はまともだし、かわいいし・・・・
      何言ってンだ!そもそも俺にそんな気持ちはないわけだし。
      確かに男女交際だのガールフレンドにデートって興味がないわけ
     じゃないけど・・・
      いけない、能島にコントロールされそうだ・・・・。
     「まあ、お友達でいようか、付き合ってくれか、伊藤君の気持ち
      次第だね」
      騒がしい能島になんら影響されることなく、冷静な声で夏目。
      どっちもなんか違う気がするんだけどな。
     「伊藤、深く考えるな。
      お前さ、ひょっとするとこれが高校生活で唯一のチャンスかもし
      れないんだぞ」
     「う・・、ぃいや、でも・・・」
     「まあ、その中間ていうのもないではないけどね」
      なんだと!?
      なにもったいぶってやがんだ。
      夏目は柱にもたれ、唇のはしが少し持ち上がっているのをさりげな      く隠している。
      こいつは完全に面白がっている!
      笑いをかみ殺すときの癖を俺が見逃すか!
      しかし、ここはあくまでもへりくだって・・・・
     「その中間ていうのは・・・・?」
     「簡単さ。`友達から始めましょ‘」
     「へ?」
     「違いがわかるかな?
      特に伊藤は国語はからきしダメだもんな」
     今度は口元がほころぶのを隠そうともせず、楽しそうに夏目は続けた。
     「‘友達でいよう‘はずっと友達のまんま。
      ‘友達から始めましょう‘は、先がどっちに転ぶかわからない」
     「それって、いいかも・・・・」
     「だろ?
      伊藤君、微妙な違いだからね。
      緊張して言い間違えると大変だよ。
      中味は全く違うんだからね」
     「うぅーーん!
      さすがは夏目!決まりだな」
     お前が決めるな!という思いをめいいっぱい込めて能島を見たけど
     鈍い奴はだめだ。全く感じていない。 
     「じゃぁ、僕はこれで」
     夏目は相変わらず口元をつりあげて、去っていった。
     あいつは食堂の方に曲がったら、きっと笑い転げるに違いない。
             

ゆうきのサバイバル日記(72)

2008-09-28 | Weblog
    2年になって、クラス替えになって縁が切れたと思っていた
   森崎がこれまた同じクラスだった青島と俺たちのそばにやって
   来て、
    「相良さんはあまり派出なのはすきじゃないわよ。
     それにもうちょっと品が良くないとね」
   と、棚のストラップを物色し始めた。
   当然、能島の手にしているストラップは無視だ。
    「あ、これ!」
    森崎はひとつのストラップを取り上げると
    「これがいいと思うわ。
     きっと、相良さんの好みだわ。
     相良さん、喜ぶわよ」
    そう言って、森崎は俺の手にストラップをのせると、
    「夕食の後で、伊藤君が呼んでるって言っておくわね」
    小さく手を振りながら、さっさと行ってしまった。
    俺はストラップを手にあっけにとられていた。
    能島も同じくストラップを手に呆然としていた。
    北崎は、残念ながら?空手で唖然としていた。
    俺たちはしばらく「森崎ショック」で、時間が止まった状態。
    ようやく立ち直って
    「まあ、とにかく、それに決まったよね?」
    と、北崎。
    「えーーっと、俺は母さんにこれ買っていこうかな?」
    と、能島。
    「そうだな」
    と、俺。
    完全に我に返ったのは、金を払ってバスに乗る頃だった!!
    げっーーーぇーーーー???!!!
    どうするんだ?これ?
    俺が相良に渡すのか?
    何て言えばいいんだよ?
    
    韓国最後の夕食が終わって、部屋へもどろうとしたとき
    「おい、伊東。
     森崎が8時に3階のロビーにって言ってたぞ」
    能島がささやく。
    「ち、ちょっと・・・」
    俺は能島の腕をつかみ、人気のない所へ。
    「相良に何て言って渡せばいい?」
    「何てって・・・、俺も相良のこと好き!じゃダメか?」
    なんだと?!
    バカやろーー。
    そんなんじゃないから、相談してるんだろうが!
    俺は必死に首を振る。
    勿論、横にだ!
    「えーー!?
     そんじゃあ・・・・?
     あ、ちょっと待て」
    能島が駆け出す。
    見てると、トイレから出てきた夏目の腕を引っ張って、何か耳打ち
    している。
    能島が夏目を連れて戻ってきた。