言われた仕事はやるな! - 石黒 不二代(朝日新書)

言われた仕事はやるな! (朝日新書)
石黒 不二代
朝日新聞出版

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2008年5月30日 第1刷 朝日新聞出版

著者は石黒 不二代。ネットイヤーグループ代表取締役兼CEO。スタンフォード大学でMBA取得。シリコンバレーでコンサルティング会社を設立。2000年よりネットイヤーを設立。

言われた仕事はやるな!とは、言われたことをやっているだけでは「自分のモチベーションの維持ができない」「責任感がおろそかになる」「効率が悪い、成果が低い」ということ。さらに「自分で自分のレールを引け」そうすればもっと自由に効率よく成果があがるということらしい。自分のレールを引けというのもわかりづらいが、自分のスタンス、スタイルとでも言うのだろうか。ようするに会社からやらされるか、自分からやるかだ。

著者がスタンフォード大学でMBA取得したのは36歳の時。この時点で4歳の子供がおり、母子家庭になっていた。アメリカに渡る以前、著者には日本での立派な学歴と職歴があるのだが、それに満足できず、全て捨ててアメリカに渡る決意をする。この決心は多分に著者自身の育ち方から来ているのかとも思う。庇護されながら自分自身の進路の決断を親や他人に依存してきた育ち方では、なかなかできることではないと思った。

このことは著者自身がそう考えているようで、「言われた仕事はやるな!」などと言い切ることができるのは、自信の表れでもある。著者はこの本の中で、自分自身の人生の棚卸をすることを勧めている。「振り返り」と言った方がわかりやすいか。実際、著者はアメリカの大学を受験する前に、過去自分はどうであったのか、現在はどうか、そして未来はどうであるべきかということを、何度も多方面から(父親は、母親は、友人は、自分は)考え整理したそうだ。これはアメリカの大学に入学するために課せられる小論文がそういう内容を求めていたからでもあるらしいが、この本の中でも著者は淡々と、その時その時、どのように自分の生活に整理をつけてきたかということを述べている。




アメリカは組織で動く社会だそううだ。多様な人種と価値観が混在する社会では、そうなるのも分かるような気がする。個々の価値観を尊重しながらも、割り切ったルールで動かないと身動きの取れない膠着した社会になってしまうから。日本の場合は人の能力に期待して動く社会だとあった。

なるほど。

この箇所を読みながら、第二次世界大戦でアメリカと戦った日本の戦闘機パイロットの自伝を思い出していた。日本のパイロットは文武両道に長けたエリートだった。アメリカはどうかというと、捕虜になったパイロットを見ていると、どう見ても普通の人にしか見えない。実際、元の職業を聞いても、徴兵された普通の会社員だったりするわけだ。選抜されたエリートと普通の人。なのに戦いは互角。組織で動くアメリカvs人の能力に頼る日本。結果、物量で押されて日本は負ける。

しかし物量以外にもアメリカが日本に勝っていたことがある。個人個人の能力のアベレージだ。アベレージが高いからこそ、個人を意識することなく組織で動ける。パイロットの訓練期間は日本と変わらないかもっと短い。その短期間の訓練で何故アメリカは普通に戦闘できる要員の育成が可能だったのかと言えば、それは日本よりはるかに工業化された社会だったアメリカの国民が、機械に関する知識を前提として持っていたからに他ならない。日本と言えば飛行機どころか自動車も知らず、エレベータも知らず、動くものと言えば大八車程度しか知らない若者に、いくら知力体力が優れているといえ、いきなり戦闘機を乗りこなすことを教えるわけだから、アメリカにかなうわけもない。

しかし、組織で動くということは非情でもある。戦闘の恐怖で精神が委縮しするのは日米の戦闘員もかわらない。アメリカは一回戦闘を経験したパイロットはすぐに後送され、新たな補充員と入れ替えられる。次の戦いで日本のパイロットが相手をするのは、戦いの恐怖をしらない無鉄砲なパイロットになる。これはアメリカが今でもイラク等で行っていること。組織で動くということは、割り切ったものだ。

日本で起業するということは、そんなに簡単なことでもない。今となっては、会社員でいるのも起業して会社を興すのも大差ないかなと考えることもある。しかし失敗して会社をたたむことの辛さより、一緒に失業する自分が雇った従業員やその家族のことを考えると、何か辛い。実際、知り合いで起業した人など「従業員がかわいくてかわいくて仕方がない」などと酒の席で言ったりする。だから路頭に迷わせるわけにはいかないと。ちょっと自慢話っぽいなと聞き流すが、自分がそうだとしても同じ思いかもしれない。

日本はまだまだウェットな世界だ。(私がそうなのだろうけど・・・)

著者はアメリカで起業することはリスクの少ない「職業」であるという。失敗しても自分が失うものは少しの資産にすぎない。ほとんどの資本は資本家(vc)が出すから。そして失敗を許す風土がある。資本家はそれを経験としてとらえてくれる風土も。そして同じ人間が次に企業するときに、また資本を出してくれるのも、最初に組んだ資本家(vc)が多いという。一度失敗した人間は同じことで失敗する危険性が少なくなるからだという。

アメリカはドライな世界だ。

最後に肝心な話。アメリカでは1980年代、起業はアイデアであり芸術だった。現在はどうか。今は起業は学問、科学になったそうだ。アイデアではなく普通のことをどう効率よくうまく収益につなげていくか・・・ということのようだ。これは正しいと思う。




・・・おまけ。

先日あるTV局の番組で、今アメリカで最も注目されている企業家、多くの資本家(vc)から多額の資金を集めた人物が紹介された。何を考えて資金を集めたかというと、電気自動車の充電池に、ガソリンスタンドのようなチャージスタンドで充電するには時間がかかって非効率で実用的でないから、充電池の規格の統一し、チャージするのではなく充電池自体を交換するようにするシステムを実現させようとしているらしい。これは観ていて笑ってしまった。私も何年も前に同じことを考えたから。私が考えたということは、誰もが考えたということで、実に凡なことを真面目にやっているもんだと。

これを実現するには、規格の統一の他に充電池を運ぶロジスティックの問題、充電池の在庫調整の問題もあると思うのだが、どうするつもりなのだろう?そっちの方が大問題だと思うが。

ものすごく男前でカッコイイ外観をしたその人物を見ていて、詐欺師か・・・とも思ったし、さも重大事のように「日本は後れをとる」と、いつもの決まりセリフを吐くTV番組にもあきれた(笑)

(2009年2月 西図書館)
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