いっぴつけいじょう(仮)

いつまで続くか,出たとこ勝負の行き当たりばったり!

“名手”の贈り物:読書メモ(2/3〜2/9)

2008-02-14 23:11:04 | Weblog
 短篇の名手と呼ばれる作家は,洋の東西を問わず,どうやらたくさん存在するらしい。数のうちには,出版社の宣伝もあるだろうが,その呼び名にふさわしい力量の作家も少なくはないはず。とはいえ,この“名手”と呼ぶ作家は,いったいどんな基準で決められているのか。これには大いに疑問を覚える。そこでためしに『広辞苑』で引いてみた。「すぐれた腕前の人。妙手。名人」とある。なるほど,“すぐれた”というのが基準なわけだ。ではその“すぐれ”具合はどれくらいか……。なんてやっていたらきりがない。たとえば“短篇のうまい作家といえばだれ?”なんてアンケートをやったらどうだろう。そこで選ばれたなら,少しは客観的な根拠のある“名手”と呼べるかもしれない。ところで,もしこんなアンケートがあったとして,私ならばだれの名前を投票するのか? あれもいいなぁ,これもいいなぁと,いろいろ悩んではみたけどやっぱりこの人しかないか。

O・ヘンリー『O・ヘンリーミステリー傑作選』(小鷹信光編/訳)河出文庫
〈収録作品〉省略

 O・ヘンリーといえば,たしか小学校か中学校の国語の教科書に「最後の一葉」が掲載されていた。たぶんこれが,私にとってO・ヘンリーの短篇を読んだはじめてのこと。別の教科書か副読本には,「賢者の贈り物」も載っていた。たしかにこの2作品はよくできた話しで,なかなか感動的である。そのためか,O・ヘンリーの代表作のような感じになっている。そのため私は,長いことO・ヘンリーを人情話専門の作家だと思い込んでいた。この2作品を読んで,私と同じように思っている人は,もしかしたらけっこういるかもしれない。そんな人にとっては,本書で読むO・ヘンリーの作品の数々は,ちょっとしたカルチャーショックかもしれない。まず目を引かれるのは本書のタイトルである。だって,「ミステリー傑作選」って……。あの方ってミステリ作家でしたっけ? と思うことだろう。そんな釈然としない気持ちのままページをめくると,目次を見てまた驚くに違いない。“ミステリにこれほど多種多様な題材があるなんて!”

 さて,ここで一言断っておく必要があるだろう。ミステリ傑作選だからといって,不可能犯罪バリバリ,超絶トリック炸裂,ドンデン返ししまくり……。なんてコテコテ,ゴリゴリの本格ものを期待してはいけない。だからといって,小粋なセリフでまくりのベタベタのハードボイルドなんかもないけどね。本書に収録されている作品は,編者の小鷹信光も解説で断っているように,ミステリをかなり広く捉えている。目次を眺めながら,各編に示された作品の題材を眺めていくと“えっ,これがミステリなの”と思う作品もないわけでもない。「浮浪者」とか「放浪者」という言葉に,即ミステリを連想する人は少ないだろう。また,「列車強盗」なんて言葉は“西部小説なんじゃないの”という疑問もわいてくる。そういう意味では,ミステリ傑作選というよりは,(法律違反という意味での)犯罪小説集というほうがしっくりくるかもしれない。とくに「ある列車強盗の告白」などは,実録犯罪小説の趣である。

 とはいえ,バリバリのミステリ作品もないわけではない。たとえば,誘拐ものの傑作「赤い酋長の身代金」などはその筆頭。この作品は是非,一読の価値がある。ほかにも暗号ものの「キャロウェイの暗号」や宝探しの「隠された宝」などは,よりミステリ的な作品といえるだろう。そして極め付けなのが,「名探偵シャムロック・ジョーンズ」もの。一目見て明らかなように,かの名探偵シャーロック・ホームズのパロディ。これなど,ある意味,ミステリの王道ともいえるだろう。しかし,もっともミステリとして洗練された作品としては,詐欺師ジェフ・ピーターズを主人公とした一連の作品がある。一流の腕前を誇る詐欺師のピーターズ。彼の関わった事件の顛末が,本人によって語られる。個人的には,世紀の独占事業を画策する「孤島の事業主」がよかったが,「豚の教え」もなかなかにおもしろかった。本書を読むと,O・ヘンリーという作家の作風の多様さが知れて興味深い。

 O・ヘンリーは,生涯に300篇もの小説を残したとか。広くは知られていない傑作が,まだまだ存在するのかもしれない。そんなお宝作品を捜し求めたとしたら……。これこそ,O・ヘンリー最大のミステリとなるのかもしれない。

(その他読了本)
ジョン・ダニング『幻の特装本』(宮脇孝雄訳)ハヤカワ・ミステリ文庫

木村晋介『キムラ弁護士、ミステリーにケンカを売る』筑摩書房



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