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やじゅんのページ/The World according to YAJUN



新しい仕事を始めて3ヶ月。だいぶ環境に慣れてきました。
短い期間ですが、毎日新しい経験ができて、恵まれた環境にいると感じています。一つ一つの仕事について自分の力量に依るところが非常に大きくて、何をやるにせよ、自分のしたことがそのままダイレクトに結果につながる。それが目に見える。こういったところが良いですね。これは前職ではなかなか味わえない経験でした。

仕事といえば、「何をするか」という内容はもちろん大事ですが、それとともに、あるいはそれ以上に、「誰とするか」が大事ともいいますね。
これは、今の自分の状況に照らしても、何となく分かるというか、共感するところがあります。
今の仕事のいいところは、各人の目指す方向や目標が千差万別で、それぞれが自分なりの道を追求できるところです。自分はかくありたいと思うモデルを見つけることもできる。一方で、この人は自分の行きたい方向とは違う、でも尊敬はできるし、刺激を受ける、と感じることもできる。みんなが一方向を目指す(前職のような)環境に比べると、お互いの個性を尊重し、刺激し合うことができる環境にあると思います。

今思うと、これまでの人生においても、人との出会いは自分にとって大きな意味をもってきました。

先月は15年ぶりくらいに高校時代からの旧友と再会しました。彼は、英会話スクールGABAを創業した後、海外に住んで核融合エネルギーを支援する投資家になっていました。

私は、どっちかというと、大企業の経営者や官庁の幹部のように、社会的に尊敬されたり、成功者と言われるよりも、小さくてもいいから、今まで誰もやったことがないようなことをやる人に惹かれるんですね。誰とも比較されないような、オリジナルな存在になりたいと思う方なのです。
大きい組織を離れて新しいキャリアを追求したのも、前にいた場所では、どこまでいっても自分の先輩に追いつくのが精一杯で、今まで誰もなったことがないような人になることはできない、ということが分かったからでした。
そんなこともあって、この旧友に対しては深い尊敬の念を抱いています。もう自分には手の届かないような大きな存在になってしまいましたが、幸いにして、会えば高校時代に戻った頃の感覚をおぼえます。気楽に話しながら、色々刺激を受けました。

同じように、独自の道を追求しながら立派な仕事をされていて、接するうちに、自分にとって人生の師匠のような存在になった方に、このHPでも何度となく言及してきたぐっちーさんと阿川尚之さんがおられます。

ぐっちーさんのことは、もはや今さら書くこともないので省略しますが(笑)(最近は著書も売れて絶好調ですね。)、阿川さんは、ソニーで勤務した後、米国にJD留学し(米国人向けロースクールプログラム)、米国と日本でロイヤーとして活躍した後、作家として米国論などの著作を手がけ、慶応教授になった方です。ワシントンDCで外交官の経験もしています。

※米国留学のときのご経験を書いたのが『アメリカン・ロイヤーの誕生』。これから留学する方に特にお勧めしたい本ですが、留学を終えた人、そうでなくとも、米国に多少とも関心のある人であれば、誰に対しても新鮮な刺激を与えてくれる名著です。また、米国大使館駐在時の経験を書いたのが『マサチューセッツ通り2520番地』。この本の中には私も数か所登場します(笑)。

妹さんはテレビにも登場する阿川佐和子さん。
先月、日経新聞の夕刊に自らの半生を語る連載がありましたが、面白かったですね。ご本人がおっしゃっていることですが、何か一つのことについて、ものすごい専門的知見があるわけではありません。それでも、文章にせよテレビでの振る舞いにせよ、印象に残る発信をして、見る側に何か考えるヒントを与えてくれます。
阿川尚之さんも、書かれている本は、もちろんいずれも優れた作品であり、専門的な知識や思考が詰め込まれているのですが、玄人の視点から一つ一つのことを拾い上げれば、それほど斬新なことが書かれているわけではないことにありません。目を開かされるような新しい発見や凄い資料があるわけではないのです。それでも、いったん読めばグイグイ引き込まれます。本当に重要なエッセンスをしっかりと確認することができます。何よりも、読んでいてワクワクするのです。

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かつて、自分は、専門的知識をきちんと提供できる文章を書かないといけない、そういう自分が「本物」と自信をもっていることでなければ言えないし、価値もない。それに、今までどこにも書かれていない新しい何かを書かないといけない、と思っていました。このブログでもそういう葛藤を何度となく書いたことがありました。でも考えてみたら、読書にせよ話を聞くにせよ、人のプロダクトを鑑賞することは、一種のコミュニケーションなんですよね。

以前「本をたくさん読む方法」という記事で、書かれた情報をそのまま吸収するタイプの読書(passive reading、ショーペンハウアーが批判した読み方)と書かれた情報を自分の思索の一材料とする読書(active reading)という分け方を述べました。前者の読書についていえば、細かく正確な知識を効率的に整理した本が重要ということになります。私の仕事で関係する専門書はそういうものですし、レファレンスブックもそういったものです。一方で、後者についていえば、細かさや知識の先端性は、必ずしも不可欠なものではありません。むしろ、それが読み手の思索の妨げになるなら取り除いた方が良いこともある。逆に、読み手の思考を刺激するなら(前者の本の場合には無駄とされて省かれるべき)物語を持ち込んだ方が良い。重要な点を絞り込んで骨太でシンプルにしたり、逆に無駄なエピソードなど盛り込んだ方が役に立つわけです。

体系的・目の前の課題の克服に役立つという意味で実践的な知識を効率的に得ることはもちろん大事です。でも、断片的・間接的であっても、読む人に刺激を与え、次の行動や思考を促進する文章であれば、一つのコミュニケーションの形としてそれなりの意味があるのかもしれません。最近そう思うようになりました。
そんなわけで、何となく自分のしたいことに向けて一歩を踏み出そうかなと思うようになりました。
とかなんとか言いながら、一方で、仕事があわただしくなってくると、こんなことをあれこれ考える余裕もなくなってくるような気もしています。
今現在自分がすべきことは、何より目の前のことに一生懸命向かうことです。だから、これはこれでいいのかな、という気もしています。
いつにもまして何を言っているのかよく分からない文章になってしまいました(笑)。すみません。そのうちもっとクリアーに話すことができるよう精進を続けたいと思います。

何はともあれ、とりあえず、今回の記事は今年8本目。去年の記事本数を上回るという初期の目標を達成したということで、良しとしましょう。

※この記事を書いたあと気づきましたが、RSSリーダーの登録数が急激に増加していました。更新の頻度が上がったからでしょうか。それにしても、日々の閲覧数に変動はないので、どこかに紹介されたとも思えず、ちょっと不思議。何にしても、閲覧数より購読者数が目安になると思っている自分には励みになる発見でした。

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最近読んだ本。

■ ダニエル・カーネマン 『ファスト&スロー』
ノーベル経済学受賞者が語る人間の判断と意思決定の理論。
行動経済学(意思決定)の古典として扱われるであろう本書だが、何と言っても面白いのはベースをなす心理学(判断)の部分。人間のバイアスは感情ではなく認知装置(連想記憶に基づく現実世界モデルの構成、驚き、因果関係、自動反応という脳の働き)そのものに内在する。連想、見たものがすべて(個から全体を考えるプロセス)、置き換えとレベル合わせ、記憶の書換えといった認知の特性(分かりやすさと一貫性、因果関係の呪縛は、タレブ『ブラック・スワン』でも語られるテーマ。カーネマンもタレブから大きな影響を受けたという。自由意志と因果関係という普遍的な問いに対しては、物理的因果関係と意志的因果関係を切り離すことで解答を試みる。)、そこから導かれる代表性(事前確率の無視、標本サイズの無視、偶然性の誤解、予測可能性の軽視、妥当性の錯覚、回帰の誤解)、利用可能性、アンカリングといったヒューリスティクス。日常何となくおぼえる違和感を言語化し、それを支える精緻な理論とデータが続く。その論の運びは重厚にして鮮やか。例えば相関と平均回帰のクリアーな説明は、統計になじみのない人には衝撃を与えるだろう(最近出た西内啓『統計学が最強の学問である』は、統計に興味をもった人にとって良い導入となる。)。
直感、スキルとはつまるところ記憶(認識)であり(ハーバート・サイモン)、何が真に信頼できるスキルなのか深掘りするパートも面白い。『ビジョナリー・カンパニー』『エクセレント・カンパニー』といったビジネス書や政治評論の不毛を一刀両断する切れ味の凄さは痛快ですらある。
前半の「判断」と比べると、後半の「意思決定」(合理的主体・期待仮説への批判、参照点と損失回避)は、これが行動経済学の神髄部分ではあるのだが、新鮮味が少なかった(もっとも最後のパート「経験する自己」と「記憶する自己」は面白い。)。
キャス・サンスティーンのOMBでの仕事、ヒューリスティクの弊害防止の観点からの組織の意義、アルゴリズムの威力など、行動経済学がどう実践(政策)に生かされるか具体的に説明される部分は読み応えがあった(ファイナンスへの活用についてはマルキール『ウォール街のランダム・ウォーカー』にも優れた言及があった。)。エコンではなくヒューマンを支える思想としてのリバタリアン・パターナリズム(自由に伴うコストへの社会による対応)は、行動経済学が法学と接続するポイントでもある。法学者であるサンスティーンとリチャード・セイラーの『実践行動経済学』も紹介される。単独評価と並列評価の不一致に関連して、陪審員の並列評価の禁止の逆説性が一例として挙げられるが、法に関わる人には考えさせられる問題提起だろう。

■ ジャレド・ダイアモンド他 『知の逆転』
ジャレド・ダイアモンド、ノーム・チョムスキー、オリバー・サックス、マービン・ミンスキー、トム・レイトン、ジェームズ・ワトソンという、このHPでも何度となく紹介してきた知の巨人たちのインタビュー集。
この6人を選んだセンスは素晴らしい。もっとも、インタビュー集という性質の限界もあり、これらの人々の著作になじみのある読者にとって内容面での刺激は乏しい。人生の意味やインターネットを主題にするインタビュアーのこだわりも自分にはしっくりこなかった。とはいえ、まったく知らない人にとっては、新しい知の世界のとっかかりとなり、読むべき文献を手っ取り早く知る上で使いやすいガイドとなるだろう。

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