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シリアとレバノンが外交関係を樹立することで合意したそうです。

2008/07/16 14:55
シリアとレバノンが国交正常化へ
【パリ=古谷茂久】地中海連合の首脳会議のため仏を訪れていたシリアのアサド大統領とレバノンのスレイマン大統領は12日、パリの大統領府(エリゼ宮)で会談し、両国が外交関係を樹立することで合意した。互いに大使館を設置する。シリアは2005年まで隣国レバノンに軍を駐留させ政治的に強い影響を及ぼしており、対等の二国間関係になっていない。
日経ネット

これはけっこう驚きのニュースですよね。レバノンは様々な民族宗派が混在する複雑な国ですが(たとえばキリスト教マロン派、イスラム教スンニ派、シーア派が主要なグループで、それぞれ決まった数の国会議員の議席、主要ポスト(大統領、首相、国会議長)を配分し、微妙なバランスを保っている)、これらの宗派対立とは別の次元で、シリアとの関係が一つの対立軸を形成しています。シリアには大シリア主義という考えがあり(これも興味深いテーマですがここでは割愛します)、レバノンを自国の領土とみなして、軍隊を駐留したり、要人を暗殺しまくったり(疑惑ですが、少なくとも米国などは確信をもっています)あの手この手でちょっかいを出し続けてきました。レバノンの中の人々は、そのちょっかいに合わせて親シリア派と反シリア派に分かれて激しく対立してきたわけです。現在のレバノンのリーダーであるセニオラ首相は反シリア派の代表であり、暗殺されたハリーリ前首相の遺志を継ぎ、正当に国民から選出されたリーダーとして国際社会から支持されています。ラフード前大統領は親シリア派の代表であり、ほとんど国を分断する勢いでセニオラ首相と衝突してきました。もっとも、昨今のシリアに対する国際社会の非難もあり、2005年にシリア軍のレバノンからの撤兵が実現してからシリアの影響力は低下し続けていたようです(ラフード大統領の後任として混乱の末ようやく選出されたスレイマン将軍は中立派です)。

(余談ですが、この撤兵が実現した2005年は、エジプト、サウジ、パレスチナ、イラクで立て続けに選挙が実現した年であり、中東にも民主化の嵐がきたとか、ブッシュ大統領の民主主義外交の勝利だとか『エコノミスト』誌などに称えられたものでした。今は昔・・・の趣です。)

国際社会との関係に目を向けると、米国とシリアの関係は相当悪化していました。米国にとって最大最強の敵はイランですが、シリアは、中東でその次にうるさい、というか不愉快な存在なのではないかと思います。具体的には、イラク国境の管理(テロリスト流入の防止)とテロ(ヒズボラなど)支援が最大の問題となっており、レバノンへの介入がどれほどセンシティブな問題か分かりませんが、それも相当米国、特にブッシュ政権の気分を害する問題であることは確かです(この点は民主党政権になるとちょっと変わるかもしれません)。欧州との関係でいえば、シリアとレバノンに最大の影響力をもっているのは旧宗主国のフランスで、特にシラク前大統領は故ハリーリ首相と貴族の盟友同士のような関係にありましたから、フランスはこの問題に並々ならぬ関心を払ってきたわけですが、政治事情もあり、どうもコミットメントが低下している様子でした。

そんな状況の中での今回のニュース。なにしろシリアは長年にわたりレバノンを完全に自分の一部としてさんざん見下してきたのに、ここでいきなりレバノンを対等の相手と認めるわけですから、これは相当な驚きです。ただなんとなく理解できそうな気はします。シリアのレバノンにおける影響力の低下はシリアに新しい外交姿勢を考えさせる要因になるでしょうし、米国との関係についても、イラクが安定化しつつある中で(外国軍隊の駐留、イランとの関係などの新しい問題が深刻化していますが)、中東和平にリソースの大部分を割く現在のブッシュ政権にとってシリア・レバノン・トラックが大きな要素になると見えたかもしれません。モメンタムが停滞していたフランスも、活発な外交を志向するサルコジ大統領の強いリーダーシップが見えるようです。これからの展開がどうなっていくか興味深いところです。ついでに日本との関係を言えば、北朝鮮とシリアの核開発協力疑惑ですよね。米国が動かなければ日本としては検証のしようもない話ですし、もう風化しつつあるようですが、気にせずにはおれません。

話がそれますが、たまに思うのは、日本の新聞記事にこういうバックグラウンドの解説がほとんど見られないことです。だいたい断片的な事実の伝達のみで、その事実と他の事実がどうリンクして、どのようなストーリーが描かれるかまで書かれることはほとんどありません。中東の動きは世界全体から見れば非常な重みをもつイシューであり、日本にとっても、エネルギーの観点からも対米関係の観点からも重要です。また、新聞はこれからのネット社会の中で生き残れるのか?というテーマがよく取り上げられますが、考えられる方向性は、信頼できるファクトを迅速に提供するという瓦版的な役割と、ネットメディアにはない知的蓄積を活かした高度な論評の二つがあるのではないかと個人的には思っています。後者の分析的な記事は、特派員や専門家とのコネクションという資産を擁する大手メディアでこそまさに強みを発揮できるところで、私なんかのような素人のスカスカな記事より、もっと厚みがあってスッキリするような論評を書けるのではないかと思います。もちろん紙幅の限界があるのは分かるのですが、どうでもいい日々の政局に毎日大きなスペースを割くのではなく(誰も興味のない内輪話ばかりですよね)、もっとこういうところに機動的に紙面を使っても良いのではないかと思います。

最後に、シリアとレバノンは、旅行先としても非常に魅力的なところです。シリアにはパルミラ、アレッポ、レバノンにはビブロス(「バイブル」-ラテン語で「書物」の意味-の語源となった地名)、バールベックといったすばらしい世界遺産があり、ダマスカス、シドン、ティルスといった古代史に登場する歴史的な都市があります。これらは聖書ゆかりの地でもあり、そのイメージを抱いて見てもワクワクしてきます。また、かねてから「中東のパリ」といわれてきたレバノンはもちろん、シリアもバース主義もあって世俗化が進んでおり、中東の国にしては違和感薄めで、なんとなくイスラム的なものになじみにくい人にも敷居が低いと思います。女性も開放的なファッションで、とてもきれいです。私は97年に訪れた折、町で見かけるお姉さんたちの写真をとったりしたものですが(←何やってるのか)、みんな笑ってポーズしてくれました。政情不安からくるリスクはありますが日常の治安については問題ない方です(一般的にはイスラムの国は治安が良い)。シリアではゴラン高原に見学にも行きました(UNDOFの軍人が案内してくれます)。もっともレバノンは内戦直後だったので旧市街が破壊され尽くされており、残念でした。一度行ってまた訪れたいと思う国は思ったより少ないものなのですが、この二つの国は、また行ってみたい、そう思わせるところです。

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