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やじゅんのページ/The World according to YAJUN



ワールドカップ。ついにベスト4が出そろいましたね。

日本代表の惜敗、ブラジルのまさかの敗退、マラドーナの「神の手」を思い出させるウルグアイの劇的なハンド(*)、アルゼンチンの大敗など、見どころ満載で寝不足が続く状態ですが、私が大会冒頭からダントツに注目してきたのは「無敵艦隊」ことスペイン。

(*有名な86年メキシコ大会のイングランド戦でのゴールの場面ではなく、90年イタリア大会のソ連戦でのゴール前守りの場面でのハンド。実はマラドーナは2回「神の手」を使っている。もちろん両方ともファウルはとられていない。さすが「神の子」である。)

EURO2008を制した戦士たちを中心とする今大会のスペイン代表は、おそらくこの大会で最もスペクタクルなサッカーを見せてくれるチームです。
パス、シュートはもちろん、ポジショニング、トラップ、ボールコントロール、タッチすべてが別次元のすごさ。特にパスワークは、近年はブラジルですらお目にかかれなくなってしまった華麗なもので、その美しさはまるで別のスポーツをやってるのかと思わせるほど。ワンタッチの連続で全選手が有機体のように動くのは圧巻です。
技巧派ぞろいの選手たちの中でも、170センチのひときわ小柄な体格ながら、圧倒的な存在感を見せるのが司令塔のシャビ。チームのリズムを自在に操るゲームメーク、ノールックで繰り出す流麗なパス、一瞬のモーションから放たれる意表をつくシュート、この選手の所作一つ一つはすべてが神業。ボールが近くにあるだけで何かが起きそうで、目が離せません。
そして超絶技巧の個人技を見せるミッドフィルダーのイニエスタ。この人も小柄で痩身ですが、ドリブルを始めると一流のディフェンダー数人が束になっても止められない。低い位置からのパスも絶妙。ポルトガル戦・パラグアイ戦ともこの人の切り崩しから決定的なチャンスがいくつも生まれました。
他、ビジャ、シャビ・アロンソ、セスク、ピケなど、どのポジションの選手も凄まじい技量を見せます。控えの選手も層が厚く、まさに全員サッカー。
そのプレーは点が入らずとも見る者を魅了しますが、ポルトガル戦とパラグアイ戦での流れるような連携からのゴールは本当にすごかった。これから何度も再演されるでしょう。

しかし、華麗さが必ずしも強さにつながらないのが勝負の残念なところ。
ゲームを支配しているのは明白なのに、点が入らない、逆に一瞬のカウンターでやられる、そんなあやうさがつきまとうチームでもあります。

これに対し安定感抜群の強さを見せるのがドイツ。
若手の主力に経験豊富なベテランが補完し、チームのバランスはほとんど完璧。
ドイツというと、フィジカルの強さ、パワーとスピードにものを言わせ、無骨な攻めとガッチリした守りで堅実に勝つという、失礼な言い方をすると、なんか面白くないサッカーをやるというのが伝統的な印象ですが、今回はその堅実さに加え、あっと驚くような美しさがあります。
カウンターのスピード、正確さ、中盤のパス回し(!)、エジルというドイツらしからぬ技巧派の存在が大きいのでしょう。正直、ドイツの試合をもっと見たいと思うのはちょっと驚き。笑

そのドイツとスペインが次は当たりますね。EURO2008の決勝と同じ組み合わせ。これはもう間違いなくこの大会の天王山。
普通に見ればドイツでしょうが、個人的にはスペインのファンタジーが結果につながることを期待したいです。
そして、もしスペインが勝てば、もう片方のブロックはおそらくオランダが来るでしょうから、どちらが勝っても初優勝。盛り上がりますね。メッシという最大のスーパースターを失ったとはいえ、90年以降、最も面白い大会に属するように思います。

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最近読んだ本です。

■ 佐々木健一  『美学への招待』 
2004年に出た本。最近の議論までフォローしている。

■ 佐々木健一  『美学辞典』 
東大の講義ノートとして書かれたもの。辞典といっても個別にテーマを絞った読み物に近い。厳密で中立的な記述。竹内敏雄『美学事典』と合わせて読むとより面白い。

■ 三浦篤 『まなざしのレッスン』
こちらも東大の講義をもとに書かれたもの。続編が読みたい。

■ 辻惟雄 『日本美術の歴史』
多摩美術大学の講義ノートをもとに書かれたもの。概説書だが一人で書き下ろしたものだけに読み物らしさがある。これだけの図版があってこの値段は安い。

■ 中井正一 『中井正一全集3巻 現代芸術の空間』 
「美学入門」「映画論」等を所収。著者は深田康算の高弟。熊野純彦『日本哲学小史』での位置づけも参考になる。

・・・
ところで、芸術といえば、最近著作権法を勉強しているのですが、著作物の種類の中には、美術の著作物というものがあります。
そこでは純粋美術(fine arts)と応用美術(applied arts)という分類が重要な意味をもちます。
この分類は著作権の世界に限らず通用するものなのですが、「fine arts」は実はもともと造形芸術を指す言葉でした。「ミューズ的芸術」(musische kunste)と対比されます。
純粋芸術はむしろ「liberal arts」で、「mechanical arts」と対比されます。
西洋芸術史においては、伝統的に造形芸術、mechanical artsの地位は低く、liberal artsこそが高尚とされました。

人文学と科学を扱う学部や大学院を米国ではarts & sciencesと呼ばれますが、artとscienceはギリシャ語のテクネーとエピステーメーに由来します。
古代において、テクネーは、techniqueの語源としても分かるとおり、技術・技芸を意味します。ポイエーシス(制作)を扱いながら、事物の本性をとらえ理論化するという営みであり、ここに技術と芸術の区別はなかった。
そしてテクネーの中でも手仕事(奴隷の労働)から解放された「自由」人が扱うものが「純粋技芸」として特別視されます。
テクネーは中世のars(=英語のart)に受継がれ、artes liberalesは、自由人が哲学と神学を学ぶための前提とされ、教育メソッドとして確立する。
(ちなみに元々「技巧」の意味しかなかった「ars」にテクネーの意味を添加させたのはキケロ。キケロはギリシャ語の借用を通じて多くの造語を生み出し、ギリシャ文明のラテン語化を実現させた。「近代の普遍的文明の創造者の一人」(A.メイエ)と称された理由はここにある。『ラテン語の世界』参照。)

その裏表として、artes mechanicaeがartres vulgaresとして格下とみなされる技芸観も継承される。これが前述の造形芸術の地位(純粋芸術と異なり、ミューズ(女神)の割当てもない)につながる部分です。
米国の名門カレッジで今なお教えられるリベラル・アーツは、このartes liberalesの教育メソッドの延長にあります。Master of Arts(MA)、Bachelor of Arts(BA)といった学位における「art」も同様の文脈にある言葉です。

一方、自然を扱う学的知識であるエピステーメーは、scientiaを経て今日のscienceとして確立します。最初に述べたarts & sciences、MAに対比されるMaster of Scienceもこの文脈にあるわけですね。
ついでに言えば、scientiaが近代科学、フランシス・ベーコンのいう、自然を拷問して口を割らせ、これを改造する術(「scientia potentia est」)に発展する契機は、自由人の理論(特に数学)と非自由人たる高級職人の経験(実験)との融合にあります。
そして、こうした高級職人は造形芸術の「職人」でもありました。つまり、ここ(ルネサンス、近代市民社会)において、実践を重視する職人が「科学者」か「芸術家」となり、テオリア(観照)に徹する「自由」人との優劣はなくなっていくわけです。

こういう話を念頭に置いて、アリストテレスの『詩学』やニーチェの『悲劇の誕生』など読むと(「ギリシア悲劇」の記事でも触れましたが)、なるほどと思う点が多々あります。

コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )



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コメント
 
 
 
Unknown (Alice)
2010-07-05 02:21:20
 やっぱり、スペインとオランダは人気ですね。
 私は、時代遅れにドイツを応援している変りものです・・・。

 でも、なんとなく、今回神の祝福はスペインにいってしまいそうな気もします。
 大会が始まる前は、「落ち目扱いのドイツに分があるかも」と予想していましたが、大会が始まってからやたらと勢いがありすぎるので、こういうときは、かえって危険な気がします。

 それはともかく、美術における分類や概念の発達の御話面白かったです。

 ファイナンスとかマーケティングとか経営学やっている人がよく「××はartsであり、sciencesであるのだ」と言っていたのを思い出します。
 経済学が第2次世界大戦後、ポール・サミュエルソン等の働きによって、数学の応用の側面を強め、ファイナンスがさらにそれを昇華する中で、経営学など他の社会科学もそれを追っていきます。
 でも、結局、社会科学は人文科学同様、「自分はこう思う」という側面を排除することは不可能でした。
 そういった事情が、自らの誇りと結びついて、「××はartsであり、sciencesであるのだ」という発言になっていったのでしょうね。

 余計な脱線で恐縮ですが。
 そういう脱線を除いても、興味深いお話ですよね。学問の発展における人間の認識の変化が凝縮されています。

 蒸し暑いし、豪雨は襲ってくるし、体壊しやすい季節ですが、御身体にお気をつけ下さい。それでは。
 
 
 
ありがとうございます。 (やじゅん)
2010-07-12 23:14:27
不安的中で、スペインが優勝してしまいましたね。笑
でもドイツもドイツで、魅力がありました。

社会科学が価値や主観をどう扱うかというのは、本当に難問ですね。その難問にどう答えようとしてきたのかを知るのもとても面白いです。Aliceさんのご指摘どおり経済学もその文脈から興味を感じます。
 
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