日本庭園こぼれ話

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Random Talks about Japanese Gardens

日本庭園の中の「見立て」・・・②蓬莱山

2017-07-24 | 日本庭園

日本庭園は、その草創期から「祈りの場」としての要素を含み、平安時代後期には、浄土思想に基づき、庭園の中に仏教の極楽浄土の再現を試みた「浄土式庭園」が数多く造られました。

「蓬莱山」もまた、その延長線上にあるもので、中国の神仙思想が反映されています。それは、遠い海上に、不老不死の仙人が住む島があり、そこに聳える山が「蓬莱山」であるというもの。

この「蓬莱山」を象徴した造形が、日本庭園の中には実に多く登場し、庭園の景の主役になっています。

上の写真は「小石川後楽園」(東京)。前回「亀島」としてご紹介した島ですが、実はこの島は「蓬莱山」も兼ねています。そして下の写真は「六義園」(東京)。池に浮かぶアーチ型の「洞窟石」は庭園のシンボル的存在ですが、これが「蓬莱島」と呼ばれています。

湖東三山の1つに数えられる「西明寺」(滋賀県)の庭も、前回「鶴亀の庭」としてご紹介しましたが、 背後にある築山の石組群が、仏たちを表しているという具象的な「蓬莱山」になっています。(下の写真)

このように、蓬莱山を中心に、長寿のシンボルである鶴や亀を意味する造形が加わっている庭園も多く見られます。

同じく滋賀県の坂本にある「滋賀院門跡」の庭園でも、池の対岸に石組と植栽で表された「蓬莱山」があります。(下の写真)

余談ですが、坂本は「穴太衆(あのうしゅう)」と呼ばれる石工集団による石垣でも有名です。

上の写真は「根来寺」(和歌山県)の「池泉式蓬莱庭園」。格調高い石組に定評があります。

下の写真の玉泉寺庭園(山形県)もまた、池の対岸の築山が「蓬莱山」を象徴。池前には、礼拝石が据えられています。

 また、池の中には、点々と飛び石が配されているのですが、これは「夜泊石」と呼ばれるもので、「船泊まりを重ねて、理想郷へと向かう」様子を表しているとか。

庭の中の「蓬莱山」は、上記のように、池の中島、あるいは対岸の築山に石組と植栽で表現されているものが多いのですが、中にはかなり抽象的な「蓬莱山」もあります。

 上の写真は、大石武学流の代表的庭園「盛美園」(青森県)。円錐台形の中島が「神仙島」を表し、そこに配された松が「蓬莱の松」と呼ばれています。

次にご紹介するのは、大徳寺と東福寺(京都市)に見られる「蓬莱山」です。

上の写真は「大徳寺・瑞宝院」の方丈前の庭。「独座庭」と命名されているもので、打ち寄せる荒波に、もまれながらも悠々と独座している「蓬莱山」が表現されています。

下の写真は「東福寺・方丈南庭」。荒波を象徴した砂紋の中に、林立する巨石群で構成された石組は、「蓬莱」を初めとする霊山を表しているとのことです。

どちらも、近代造園の巨匠・重森三玲作の庭園です。

そして最後は、粉河寺(和歌山県)の庭園。

本堂前、3メートルほどの高低差の擁壁を兼ねて築かれた庭園は、「枯山水観賞式蓬莱庭園」と呼ばれているもので、大量の巨石を積み上げた豪壮な石組と、サツキの刈込み、ソテツなどの植栽で構成されています。

以上、これらはごく一部の例ではありますが、庭園に写された「蓬莱山」を通して、造庭者の表現力の豊かさを感じていただけたでしょうか?

* 浄土式庭園については本ブログ中に「浄瑠璃寺庭園 (2021/06/13)」、「毛越寺庭園(2021/06/18)」、「称名寺庭園 (2021/6/25)」をご紹介しています。興味のある方は、ご参照ください。


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