太陽光発電シニア

太陽光発電一筋、40年をはるかに過ぎたが何時までも興味のつきない厄介なものに関わってしまった。

後味の悪い忖度

2017-03-30 09:44:48 | 日記

久し振りに暖かく潮回りも良さそうなので何時もの場所に釣りに出掛けた。昼過ぎに現場に到着したが夕方が満潮なので少し早い。それでもまぐれアタリもあるかもと思い1本だけ竿を出す。置き竿にして潮に乗ってやって来るセイゴを待ち構える。小一時間経ったがやはり何も無い。そこに私が哲学者と勝手に名前をつけている顔見知りがやってきた。名前は知らないが話し相手である。外観はぼさぼさ髪と無精ひげ、衣服は年期の入ったどちらかと言うと粗末である。釣り道具は全てが古く、手作りの仕掛けも多く、餌は買うのではなく、干潮の時に砂浜を掘ってゴカイを採ってくるという。時々、砂浜で敗れた網とか、捨てられたバッテリーとか拾ってくる。近くの竹林で竹を切って竿らしきものを作っていることもある。風采が上がらないという典型のようだが、やはり2,3本の置き竿をして静かにアタリを待つスタイルだ。哲学者と勝手に名付けられていることは勿論知らない。所以はアタリを待つ間何か文庫本を良く読んでいるからだ。内よりも無駄なことは一切自分からは言わない。それでも話しかけると随分丁寧な言葉で無駄なく返してくる。それでいて釣りのことはやたら詳しく、かつ上手である。

その内にこれまた顔見知りの自衛隊がやってきた。何時もの自転車で。これも雑談の中で元自衛隊員(整備の方)であることを知った。勿論本人は自衛隊員と識別されていることは知らない。何の事情か分からないが自衛隊を辞めた後、一人暮らしで兄貴の家に居候を続けているようだ。殆ど毎日この近くを自転車で徘徊して顔見知りの釣り人を見つけては話し込んでいる。本人は1本だけ竿を持っているが、あまり釣れることは無い。聞けば魚自身が嫌いで食べることは無い。青臭さが嫌なようである。釣りが好きな訳ではなく、家に居づらい事情があって出掛けて来るようだ。お喋りが大好きで雑談を仕掛けてくるが、何か寂しさの裏返しのようである。最近は釣れなくて釣り方を忘れてしまったよと言うと昨日は何処そこで何匹釣れていたとか、何曜日に××㎝が上がったとかやたら釣り場情報に詳しい。私より一つ年下だが5、6歳上に見える。1年半くらい前から顔を合わすと話すようになった最も古い男だが、当時私は沢山釣っていたので彼は私を「名人」と読んでいた。最近は住んでいる地名をとって××の大将と呼ぶ。

2時間ばかり経ったところに一番年寄り(85歳)の顔見知りの爺さんが電動三輪車でやって来た。元大工の棟梁で今は御隠居の身、これで顔見知りが全部揃った。最近この爺さんが良く話しかけてくる。少し耳が遠いので近くまで寄ってゆっくり大きな声で話すようにしている。バナナを取り出してみんなに配り始める。爺さんも1週間くらい前大きなセイゴを釣ったとのこと。魚は自分で捌き刺身にして酒を飲むのが大好きとのこと。

そこにこれまた顔だけは知っている男が自転車で通りかかり、どうだい、と声を掛けて来る。自衛隊が7本も竿が出ているのにアタリさえ来ない駄目だよ。××の大将も昔は名人だったけど最近は釣り方も忘れたらしいよと軽口を飛ばす。哲学者が魚がいないんじゃあ名人も素人も同じだよ。待てば来るよと。爺さんが釣れなくても良いよ暖かい日にここに居るだけでと。それぞれが雑談で1か所に集まったり散らばったりしながら時間が過ぎる。その時、珍しく自衛隊が「掛った」と大きな声を出す。釣り場を右に左に移動しながら必死に釣り上げようとする。かなり大きい。哲学者がすかさずタモを持って水辺に寄る。うまく掬いあげる。最後にやってきた男が釣り上げた魚をメジャーで計る。48㎝のかなり立派なサイズである。背びれも大きく鋭い。地方によってはこのサイズはフッコと呼ぶと説明を始める。魚体は傷一つなく美しい。自衛隊がちょっとドヤ顔で爺さんに持って帰るかいと言う。時々爺さんは人が釣ったモノを貰うことがある。しかし、××の大将が持って帰りなよ、最近釣って無いんだろうと言う。私は爺さんが気を遣っていると思い、いいですよ、そっちが持って帰ってまた酒の肴にしたらと断る。暫く、いえそちらこそどうぞと譲り合う。自衛隊が誰も要らないならリリースするよと言って本当に逃がしてしまった。

自衛隊はその後平静を装いながら背を向けて堤防の遠くに歩きだした。ちょっと現場に気不味い沈黙の時間が合って、最後に来た男が、「喜ぶと思っていたのに誰も貰ってくれないから気をわるくしたんだ」と言った。私は自分が釣ったものは殺生をしたお返しに美味しく食べるのが義務と思っており、あまり人からは貰わない。ここは一つ爺さんに肴にして貰う方が供養になると思っていた。きっと爺さんの方は私が最近釣って居ないのを気の毒に思い譲ろうとしている、本当は自分で捌きたいのを我慢していると思った。互いにどちらかが最後は貰うことになると思っていた間に自衛隊は本当にどちらも持って帰らないのだと悲感してリリースしてしまった。自衛隊が歩いて離れている間に気不味い沈黙は親切をアダで返してしまったという悔悟の念が覆った。互いの気持ちを慮っての、善意の忖度が逆に自衛隊を傷つけてしまったと皆が思った。帰りの車で、どうみても風采の上がらない世捨て人のように釣り場に集まる孤独な初老の連中でも感性の点では大人で常識的なんだ、世の中捨てたものじゃない、捨てて良い人など居ないと思った。

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