知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

試験研究の抗弁(特許法69条)

2011-03-15 19:44:26 | 特許侵害訴訟

1 特許法69条の趣旨

特許法69条の趣旨について、東京高裁平成10924日判決(判時1668126頁)は、「試験又は研究として行われる特許発明の実施が特許権者の経済的利益を直接害するということも通常は考えられないことから、特許法は、特許権の効力が及ばない範囲の一態様として、右691項を設けたものと解される。」旨判示している。これに対して、学説上は、特許法69条の趣旨は、単に、「試験又は研究として行われる特許発明の実施が特許権者の経済的利益を直接害するということも通常は考えられない」というだけではなく、技術の進歩を目的とする試験・研究又は特許発明の特許要件の調査をするための試験・研究は、特許の制度趣旨に合致することを理由とする見解が強い。後者の見解(以下「必要説」)に立つと、名目は試験・研究であっても、技術の進歩又は特許要件の調査を目的としないものについては、特許法69条の適用を否定すべきことになる。以下、技術の進歩又は特許要件の調査を目的とすることを特許法69条適用の要件としない見解を不要説という。

 

2 平成11年判決の内容及び下級審判例の状況

(1)下級審裁判例の状況

後発医薬品の製造承認申請に関する下級審判例としては、後発医薬品の製造承認申請のための各種試験とそれに供する製剤の製造は、同法691項に当たらないと判断した大阪地裁平成927日決定(判時1614124頁)などがあったものの、その後は、東京地裁平成9718日判決(判時161634頁)、東京高裁平成10331日判決(判時16313頁)、大阪地裁平成10416日判決(判タ998232頁)などが、同法691項に当たると判断して特許権者の請求を棄却した。その後は、多くの下級審判決で同様の判断が続いていた。

 

(2)本判決の内容

本判決の1審である京都地裁平成9515日判決(民集534670頁)は、特許期間が終了していることを理由としてXの請求を棄却し、本判決の2審である大阪高裁平成10513日判決(前掲民集725頁)は、Yの行為は特許法691項に当たるとして、Xの請求をすべて棄却した。Xから上告受理申立てがなされ、最高裁は上告を受理した上、次のとおり判示し、上告を棄却した。

「特許権の存続期間終了後に特許発明に係る医薬品と有効成分等を同じくする医薬品(以下「後発医薬品」という。)を製造して販売することを目的として、その製造につき薬事法14条所定の承認申請をするため、特許権の存続期間中に、特許発明の技術的範囲に属する化学物質又は医薬品を生産し、これを使用して右申請書に添付すべき資料を得るのに必要な試験を行うことは、特許法691項にいう『試験又は研究のためにする特許発明の実施』に当たり、特許権の侵害とはならない」。

「特許制度は、発明を公開した者に対し、一定の期間その利用についての独占的な権利を付与することによって発明を奨励するとともに、第三者に対しても、この公開された発明を利用する機会を与え、もって産業の発達に寄与しようとするものである。このことからすれば、特許権の存続期間が終了した後は、何人でも自由にその発明を利用することができ、それによって社会一般が広く益されるようにすることが、特許制度の根幹の一つであるということができる。」

「薬事法は、医薬品の製造について、その安全性等を確保するため、あらかじめ厚生大臣の承認を得るべきものとしているが、その承認を申請するには、各種の試験を行った上、試験成績に関する資料等を申請書に添付しなければならないとされている。後発医薬品についても、その製造の承認を申請するためには、あらかじめ一定の期間をかけて所定の試験を行うことを要する点では同様であって、その試験のためには特許権者の特許発明の技術的範囲に属する化学物質ないし医薬品を生産し、使用する必要がある。もし、特許法上、右試験が特許法691項にいう『試験』に当たらないと解し、特許権存続期間中は右生産等を行えないものとすると、特許権の存続期間が終了した後も、なお相当の期間、第三者が当該発明を自由に利用し得ない結果となる。この結果は、前示特許制度の根幹に反するものというべきである。」

「第三者が、特許権存続期間中に、薬事法に基づく製造承認申請のための試験に必要な範囲を超えて、同期間終了後に譲渡する後発医薬品を生産し、又はその成分とするため特許発明に係る化学物質を生産・使用することは、特許権を侵害するものとして許されないと解すべきである。そして、そう解する限り、特許権者にとっては、特許権存続期間中の特許発明の独占的実施による利益は確保される」。

かかる最高裁の判断により、実務上は不要説が採用されることで決着が付いた。

本判決が不要説を採用した主たる理由は「特許制度は、発明を公開した者に対し、一定の期間その利用についての独占的な権利を付与することによって発明を奨励するとともに、第三者に対しても、この公開された発明を利用する機会を与え、もって産業の発達に寄与しようとするものである。このことからすれば、特許権の存続期間が終了した後は、何人でも自由にその発明を利用することができ、それによって社会一般が広く益されるようにすることが、特許制度の根幹の一つであるということができる。」という点であり、特許制度の意義について、発明公開の代償として特許を付与することにより、技術の進歩を促すという点を重視するものといえる。

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後発医薬品
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