その後どうだっただろう、と目の前の松山君の顔を見上げながら彼女は考えました。
今現在まで、平野さんが野原さんの前で松山くんの事を口にすることはほとんど無く 、野原さんも彼に対しては無頓着でした。
また、彼の社内での目立つ態度は今でもそう変化はないのですが、入社当時のように、驚くような騒ぎを起こすことは無くなりました。相変わらず松山君の声は通るのですが、周囲の皆がその事に慣れてしまった感じです。またかと言う風で気に留める者は無く、他の彼等のグループの声にも、特にそちらへ視線を向ける者はありません。皆何時もの事と声だけ聞き流しているのでした。
彼らのグループにしても、あまり目に余る行為には会社から一言あったようでした。事実、入社して例の一騒動が在った翌日、野原さん自身が自分の耳や目で、彼等が社長室の前で訓示を受けているのを直に目撃したのでした。
社長直々とは如何にも大袈裟なように見えました。が、野原さんにとっては、会社の総責任を担う社長自らが、直に自分の社員を律するというその姿に打たれました。
『安心できる会社に入ってよかった。』彼女にとっては、自社に対する愛社精神が芽生える１件となりました。
