Jun日記(さと さとみの世界)

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ダリアの花、93

2017-03-20 09:25:54 | 日記

 「もう1度兄さんが亡くなった時の事を思い出してみてくれないかい。」

父は落ち着いて、お前にとっても嫌な事だろうけれど、としんみりと訴えます。

「思い出すと言ったって、私は幼かったし、母さんに聞けばいいのに。」

私より当時大人だった母さんの方が、物の判断はきちんと出来るでしょうに。そう娘は父に言って、

早々と父の元を去り母を呼びに行く気配です。父はその娘を急いで引き止めました。

 「母さんの方じゃなく、お前の方に聞きたいんだよ。」

当時お前は兄さんの事をどう思ったんだい。どう思っていたでもいいんだが、そう聞いて、

父は娘の表情の変化を一つも見落とすまいと、確りと娘の挙動を見つめるのでした。

 父のこの真剣な表情と重々しい口調に、娘は今までにない父の真剣な気持ちを汲み取るのでした。

「お父さん、何だか変よ。」

今更そんな話、今日がお盆だから、亡くなったお兄さんの事を思い出したんでしょうけれど、

私にしても当時のあの事は思い出したくない事件なんだから。と、彼女は足元に目を落とすのでした。

 「私が自分で泳げたらこんな事にはならなかったんでしょうけれど…。」

娘も兄の死には何かしらの責任を感じる事件ではありました。

「でも、兄さんも悪いのよ、あんな事するから。」

彼女は急にムッとした表情になりました。

当時の事を思いだしたのです。彼女の目は三角になり、瞳には怒りの炎が窺えます。

そして、一瞬瞼を閉じると、しんみりとした表情になり、肩の力は抜けて

「それはそれでよかったんだけど…知らなかったから。」

と、目はうるうるとして涙が浮かび、彼女は手で口元に触れると、

当時はそんな事知らなかったものだからと蚊の鳴くような声で呟くのでした。

  お父さん、お兄さんは全然悪くないのよ、当時の私はそんな救助法なんか全然知らなかったものだから、誤解したのよ。

今から思えばお兄さんに悪いことをしたわ。意地悪な兄だと思ったの。お母さんもそうなのかも。

「母さんの事は後で母さんに聞くから。」そう父は娘の言葉を遮ると、

「今はお前の話なんだ、お前の思った気持を聞いているんだよ。当時のね。」

そう注意するのでした。

 兄さんが亡くなって直ぐに如何思ったんだい、お間の素直な気持ちを聞いているんだ。

父の言葉に娘はスンと鼻を啜ると、しゃんと背筋を伸ばしてして、思い切ったように

「嫌な兄、意地悪な事ばかりして、あんな兄亡くなってせいせいしたわ。」

確かにそう思ったわね、ちっとも悲しいと思わなかったわ。それに最後まで意地悪であんな事までしてと思ったのよ。

 やっぱりそうか、と父は合点します。

「よく正直に言ってくれたね、次は母さんと変わってくれないか。」

父の言葉に、娘はそれ以上何を話す事も無く、言われた通りその場を離れるとすぐに母を呼びに行ったのでした。

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