JETの読書雑記

夢中になれる本を求めて、あれこれと読んでいこうと決意!一言感想と雑感をメモすることにしました。

「大統領のクリスマスツリー」 (鷺沢 萌)

2007-01-11 | Weblog
 大統領のクリスマスツリーとは、何かの比喩ではなくホワイトハウスの前の芝生の敷地にたった1本植えられた、さほど高くもないもこっとした木。クリスマスになると、枝のすべてが色とりどりに飾られる。
 物語は、アメリカ留学中に知り合った香子と治貴が、惹かれあい留学中に同棲し結婚、経済的な苦労を乗り越え治貴は希望通り弁護士になり、子供を持ち、家を手に入れ・・・・と、アメリカでの暮しを、苦労と喜びとともに追っていく・・・・
・・・・すべて香子の追想として。
 二人が夜のドライブをしている時に、彼女が思い出していくという形をとっているのだ。時々現在の車の中での会話がはさまれるが、読んで行くうちにすっきりしない違和感を感じるようになる。 お互いに言いたいことがあるのに、口に出せない・・・そんな雰囲気。そして、香子の気持ちとしてもそれが語られる。彼女は治貴の言いたいことが分かっている、けれど聞きたくはない・・・と。
 それは、治貴からの「さよなら」だ。
 自分の前だけを、目標だけを見つめ続ける治貴。初めは香子も同じ物を見ていた
 そのために努力し、協力し、励ましあってきた。そして、一つずつ夢を叶えてきたのだった。
 しかし香子は、守るものが増えてくると時折後ろを、過去の思い出を愛おしく懐かしむようになった。そして、治貴の前には彼と同じ一流の弁護士を夢見る女性が彼の愛を求めたのだった。
 別れ話を切り出せないまま帰ろうとした時、光に彩られた大統領のクリスマスツリーが目の前に!
 そのとき香子は「ああ、そうか・・・・」と、悟ったのだった。
 何もない黒い木に、ふたりの日々の出来事のひとつずつが、灯りをともしてきたのだと、何もなかったこの木を飾ってきたのだと!
 「クリスマスは終わったのだ」なんて、「心が強くなった」だけで片付けていいのか? 最後は感動的だった。
 この大統領のクリスマスツリーは、場所が場所だけに、決して止まって鑑賞することはできない。それもこのモチーフに計算されているのだろうか?
 しかし、治貴のように前しか見ない人間というのは、「目標に向かってひたむきな努力家」という素晴らしいイメージか、「自分の目的達成しか考えない自己中」というイメージか、どちらを思い浮かべるだろうか?
 彼は、香子がその全てを愛したように、「前だけしか見ない」という(それもひどく偏っている)1点を除けば、実に魅力的な人物なのだ。それが悲劇のもとでもあるのだが・・・・・
 大人の物語だろうが、せつないね・・・・・・・。
ジャンル:
小説
キーワード
大統領のクリスマスツリー 「さよなら」 ホワイトハウス
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