
どうやらファンに戸惑いが起きているらしい。
2014年12月14日、O-EASTで開催されたEspeciaのツアー最終公演。そのアンコール明けにEspeciaのメジャー・デビュー決定が本人たちより告げられた。2015年2月18日、ビクターエンタテインメント内レーベル〈VERSIONMUSIC〉からミニ・アルバム『Primera』(プリメーラ)をリリースして、メジャーへ進出すると。
湧き起こる歓声。そのミニ・アルバム『Primera』収録曲から2曲披露することになり、1曲目は、当日バックコーラスも務めていたRillsoul作曲の「West Philly」。前回の記事でも書いたが、タイトルよろしくフィリーを意識しブラコン要素を加味したアーバン/メロウ・ソウルといった感じの、ディアンジェロやらザ・ルーツ(要するにクエストラヴ)風なドラムとディープなネオソウルが絡み合った“黒め”のナンバーだ。
ここまではよかった。問題は次から。

次に紹介されたアルバムのリード・トラックといえる「We are Especia~泣きながらダンシング~」は、プロデュースが湘南乃風の若旦那。冒頭から暗めのトーンでリーダーの冨永悠香が朗読を始める。“私は小さい頃から歌うことが夢でした”……、夢を追いかけることの期待とそれ以上の不安、葛藤、苦悩。もがき苦しむだろうけど、それでも叶うならば夢へ歩み続けたいという彼女らの赤裸々な言葉を飾ることなく吐露した冒頭からの展開が、痛烈な印象を与える10分弱の大作だ。
自分たちの思いを吐露するフレーズは、若旦那のソロ曲スタイルの魂のメッセージを押し出すような作風だったため、それまで80~アーリー90'sのAOR/フュージョンや、シティポップ、ソウル・ポップといった路線が好きでEspeciaのファンになった人たちの多くは違和感を持たざるを得なかったようだ。
自分もライヴ終了直後のフロアや会場周辺で「若旦那プロデュースの曲は違うな」「ああいう「W.W.D II」みたいなのはEspeciaにはいらない」(※「W.W.D II」…前山田健一=ヒャダインが手掛けた、でんぱ組.incの楽曲)などの声を少なからず耳にした。そして、ツイッターなどのSNS上でも、この件に関しては多くのコメントが寄せられていた。もちろん一方的ではなく、賛否どちらの意見もあったのだが、発表から間もないということもあって、否定的な意見が多かったように思う。

そのようななかで、この「We are Especia~泣きながらダンシング~」を手掛けた本人、若旦那がこの楽曲への想いや理解を汲んで欲しいという旨のツイートを投稿。
■ wakadannna @waka__danna
エスペシアへのプロデュースはやはり賛否分かれております!
俺は俺で、今年一番の情熱を捧げました!
何回もエスペシアの現場に通って、車の中でもエスペシアを聴いて、ツイッターとかでも毎回言葉をチェックしました!
ペシストさん達の気持ちも考えました!
■ wakadannna @waka__danna
メジャーが決まってメンバーの一人が辞めることについて、1人1人から手紙をもらいました!
俺たち湘南乃風もそうだった。
メジャーが決まってメンバーが抜けた!
はじめて、エスペシアのメンバーの声を生々しく歌にすることに決めました!
どういう気持ちでメジャーに勝負していくのか
■ wakadannna @waka__danna
自分達にもペシストさん達にもそして、これから新しくファンになってくれる人達にも!
決意表明的な曲です!
いろいろ賛否ありますが、俺というフィールドで曲を見ないでください!
若旦那的な曲とかはいらないんです。
彼女達の本音を聞いてあげてください!
■wakadannna @waka__danna
別れ、出会いの繰り返しの人生のなか
大きな大きな一歩を歩もうとしてる20歳前後の彼女達
彼女達の本音を聞いてあげてください
そして、これからくるであろう沢山の試練という山を登る彼女達を決意を聞いてあげてください
言葉、音は彼女達の手紙の生の言葉であり音は横山君と共作しました
(※横山君=Schtein & Longerの横山佑輝)
■wakadannna @waka__danna
どうか、彼女達をよろしくお願いします!
エスペシアへのプロデュースはやはり賛否分かれております!
俺は俺で、今年一番の情熱を捧げました!
何回もエスペシアの現場に通って、車の中でもエスペシアを聴いて、ツイッターとかでも毎回言葉をチェックしました!
ペシストさん達の気持ちも考えました!
■ wakadannna @waka__danna
メジャーが決まってメンバーの一人が辞めることについて、1人1人から手紙をもらいました!
俺たち湘南乃風もそうだった。
メジャーが決まってメンバーが抜けた!
はじめて、エスペシアのメンバーの声を生々しく歌にすることに決めました!
どういう気持ちでメジャーに勝負していくのか
■ wakadannna @waka__danna
自分達にもペシストさん達にもそして、これから新しくファンになってくれる人達にも!
決意表明的な曲です!
いろいろ賛否ありますが、俺というフィールドで曲を見ないでください!
若旦那的な曲とかはいらないんです。
彼女達の本音を聞いてあげてください!
■wakadannna @waka__danna
別れ、出会いの繰り返しの人生のなか
大きな大きな一歩を歩もうとしてる20歳前後の彼女達
彼女達の本音を聞いてあげてください
そして、これからくるであろう沢山の試練という山を登る彼女達を決意を聞いてあげてください
言葉、音は彼女達の手紙の生の言葉であり音は横山君と共作しました
(※横山君=Schtein & Longerの横山佑輝)
■wakadannna @waka__danna
どうか、彼女達をよろしくお願いします!
若旦那とEspeciaの関係はこれまで多からずもあったようだ。たとえば、メンバーの森絵莉加が湘南乃風好きから始まって、若旦那の楽曲「ツンデレ」のMVに出演したり、若旦那自身もEspeciaのファンとして複数回ライヴ観賞へ訪れているという。そのような交流があったなかで、Especiaのメジャー進出の話を聞いた若旦那が、自身の経験談も踏まえて応援したいという気持ちから逆オファーしたというのが経緯のようだ。
ところで、この楽曲は10分弱と長いが、3分30秒以降はホーン・セクションが高鳴るソウルフルなディスコ・ポップとなっていて、そこはSchtein & Longerのアレンジ力が活かされた作りとなっている。そう考えると、単純に3分30秒以降“だけ”を聴いたならば、若旦那プロデュースだと言われたとしても、従来のファンはほとんど違和感を持たなかったのだと思う。
では、何が従来のファンが引っ掛かりを持つのだろうか。
やはり大きいのは二つ。従来のEspecia路線ではないサウンド(若旦那テイストの情熱握りこぶし&吐き出し系)が一曲全体ではなくてもあるということ。そして、彼女たち自身はもちろん、リスナーの現実に照らし合わせてみても小説・ドラマ的日常=非日常と近似値といえる“スタイリッシュ”や“アーバン”といった要素とは対極的な湘南乃風、若旦那的作風が入ってしまっているということだろう。
彼女たちはアイドル・グループではなくガールズ・グループと名乗る。ゆえに、事実上の行動範囲ではアイドルと区分けされてきたが、その質の高い楽曲によって“楽曲派”として括られてきた(このあたりはO-EASTの記事にも書いてあります)。それゆえ、純粋ないわゆる王道アイドルとは異なる、穿った言い方をすればアーティスト畑(個人的にはアイドルだろうがバンドだろうが、音楽家は音楽家という同じフィールドにいると考えるタイプだが)との対バンや交流もあって、楽曲の質で楽しめるグループとして愛着があったのだと思う。
つまり、そこを愉しみとしてEspeciaを聴いてきた人たちにとっては、単に“若旦那が嫌”というのではなく、結果として求める楽曲と大いに異なっている要素が含まれていたことに不自然さを感じとったのだと思う。
同様に“アーバン”や“スタイリッシュ”な楽曲で綴られる詞世界はアダルトな恋愛模様やラヴ・ソングが常套句のごとくあって、そこには赤裸々に自分の思いの丈を吐き出すようながむしゃらさは皆無だったから、そのアーバンな世界観を若旦那に崩されてしまった……という感情も強かったのかもしれない。
さらにもう一つ付け加えるならば、この楽曲がメジャー・デビューの端緒となる楽曲という時期的な問題もあるだろう。メジャー進出は喜ばしい。だが、メジャーとなったことで、制約を受け、“メジャーに対応するため”という、旧来のファンにとっては時に理不尽とも思える理由で方向性を転換させられ、成功に至らなかったという事例も多く知っているはずだ。そのようなファクターも、不安要素に拍車をかけてしまったのではないか。

個人的には、この問題はPerfumeの経緯と多少似ているのかとも感じた。Perfumeは海外ツアーも成功させた今や説明不要の3人組テクノ・ポップ・ユニットだが、彼女らは何はともあれ中田ヤスタカなしでは語れない。当初はいわゆるアイドル路線で鳴かず飛ばずだったが、中田ヤスタカという“打ち出の小槌”とも言うべきサウンドメイカーを手に入れると、彼が手掛けた楽曲のクオリティが“アイドルだから”という偏見を取り払い、ステータスを押し上げた。
中田ヤスタカはおそらくPerfumeの3人に対して“ヴォーカリストとして”の向上だとかスキルアップをそれほど求めてはいない。彼が創作する世界観をさらに濃縮するためのパフォーマンスの向上は求めていたとしても。エフェクト・ヴォイスにサンプリングなど、少なくとも歌い手としてスタートした者たちからすれば、ヴォーカルを最優先しないということは自身の否定にも繋がることになる。その葛藤たるや、語れないところも大いにあったと思う。
だが、中田ヤスタカは“売れる”という結果を出した。歌うことに完全な自由がなくとも、中田ヤスタカについていけば結果を出せるという信頼が彼女たちのなかに芽生えた。そのことが、彼女らがパフォーマンスを軸に奮闘しようと思える下地となったと言えなくもない。
一方、Especiaも“楽曲派”と称されるにふさわしい制作陣とともにメジャー進出まで漕ぎ着けた。だが、問題はメジャーに進出することではなく、メジャーに定着し、ヒットを放つことだ。
楽曲のクオリティが高いというのは、これまででは強みにもなっていたかもしれない。80's~アーリー90's、フュージョン/AOR、ブギーファンク、ヴェイパーウェイヴ……といった曲風を、それらを知る世代とは全く違う世代の10代、20代の女子が歌い踊るというコンセプトは面白い。
だが、その良質な楽曲だけで果たして売れるかどうかは疑問だ。少なくとも(というか残念ながら)ヒットは楽曲の良し悪しと比例している訳ではない。これまでのファン以外に多くのファンを獲得したり、注目を浴び続けていかなければならないのがメジャー定着の大いなる命題だ。そこで知名度の高い若旦那を起用するというのは、決してマイナス要素ではない。しかも、若旦那自身がEspeciaのファンだと公言しているのだから、作者としてはこれほど思い入れを感じる者もなかなかいないだろう。
カギとなるのは、Especiaのメンバー、特に個人的にこのグループの命運を握っていると思われるリーダーの冨永悠香と脇田もなりがこのまま歌わされ続けることに満足するかどうかだと思う。多くの楽曲を歌い、Especiaが醸し出す詞世界は何となくではあるが解かっているだろう。だが、作詞する機会が増えていったり(これまでには、三瀬ちひろが「Mount Up」の作詞を担当)、自分の気持ちを歌いたいと思うことは多々出てくるはずだ。そんな時に自分たちの言葉で、自分たちが自分たちに帰れる場所となる楽曲の一つがあってもいいのではないか……そう考えられれば、多少は「We are Especia~泣きながらダンシング~」の存在意義を胸に収めることが出来るのではないだろうか。

よく聴いてみると、後半のラップ・パートやメンバーコールのフレーズなどは、さすがオーディエンスを煽ることには慣れている若旦那の強みが発揮されていると思うし、ライヴでは興奮必至の楽曲になるはずだ。もちろん、ストリート感を押し出したとしても、いわゆるフォーレターワード(俗語、MVでは消音となっているが、たぶん“マザファッカー”)を組み込んだりしなくてもいいのではという意見もあるだろうし、関西弁のフレーズやベタなラップもアーバンとは異なる感覚といえば、そうだろう。それでも、彼女らの出身やアイデンティティを感じさせるコテコテなところが少しくらいあってもいい。それらを上手くプラスに変えられる懐の深さを持っていなければ、メジャーを勝ち抜いていけないのではないかとも思う。
と、個人的に受け入れようという指向で綴っているものの、本音のところは受け入れられるか否かは半々だ。ただし、直ぐに答えは出てこないし、正解が何かというのは、結果が出てみなければ解からないことだ。
これからメジャーという大きな壁に立ち向かう……立ち向かっていくのは彼女ら自身なのだから、“私たちこそがEspeciaなんだ!”という意気込みを吐露した楽曲があってもいいだろう。考えてみれば、まだメジャーとしての楽曲は2曲しか聴いていない。ここは、いろいろと思いを巡らせながら、2月のメジャー・デビューを待ち、アルバムを通して聴いた上で判断しても遅くはない。元来、シングル・カットで受ける路線ではないことは、ファンも多くが承知しているところ。アルバムを通して、どこまで成長しているかを見極めるのが、ファンのあるべき姿なのかもしれない。
Perfumeも今やバキバキのハウスやテクノが多くなっているが、ライヴでは自身を冠した「perfume」や初期の「ジェニーはご機嫌ななめ」を歌ってメンバーコールを求める。前後の楽曲との質感はかなり異なるが、それでも彼女らのライヴには欠かせない楽曲として幾度もセット・リストに組み込まれている。
Especiaが初めて自分たちの決意を生々しくも示した「We are Especia~泣きながらダンシング~」含めたデビュー・ミニ・アルバム『Primera』の全容が明らかになるまでは、いましばらく時間もある。いい意味で裏切られることを期待してみるのも大人の嗜みだと感じて、2月を待ちたい。


