*** june typhoon tokyo ***

JOE@Billboard Live TOKYO


 ファンへの感謝に溢れた70分。

 R&Bの本質を追い求め、エレガントに、セクシーに、ロマンティックに歌い綴って来たシンガー・ソングライターのジョー・ルイス・トーマスことジョーのライヴを観賞。日本を懇意にしており、来日も多いのだが、個人的には2008年以来、久しぶりのジョーのライヴとなった。
 
・2007/09/04 JOE@Billboard Live TOKYO
・2008/10/21 Joe@Billboard Live TOKYO

 2008年以降の彼のライヴへ足が遠ざかっていた理由は、一つは情けないかな1万を優に超えるミュージック・フィーへの出し渋り、一つは観客へのライヴ中の丁寧過ぎるファンサーヴィスだ。ファンサーヴィスが丁寧過ぎることがなぜ足を遠ざけることになるのかいまいちピンと来ない人もいるかもしれないが、ジョーは曲の最中にフロアへ飛び出し、握手やハグ、サインなどをしながら巡るので、その間ステージはシンガーがいない状態のまま進行する。それが結構長い間続く(曲にして3曲分くらいはフロアを巡っている)ので、ジョーと実際ハグしたり、間近で見られる観客にとってはこの上ないパフォーマンスだが、上層フロアにいる観客からすると「それなら、もっとじっくりと歌が聴きたい……」と感じてしまうこともあるのではないか。かく言う自分がそう思っていたのだが、これまでアルバム毎にガラッと楽曲構成を変える訳ではないことは予測出来たゆえ、来日が発表される度に直前まで行くかどうかを悩んだ末、観賞をパスしてきた経緯がある。

 だが、前回観賞した年から10年近く経ち、単純に“生ジョー”を欲していたのと、セルフ・タイトルを冠した今回のアルバム『#マイ・ネーム・イズ・ジョー・トーマス』を出して以降は引退するとほのめかしたと噂されることもあり、今年こそはと観賞を決め、夜の六本木へと足早に向かった。

 

 ステージ左からキーボードのジャスモン・チャマール・ジョイナー、日本人ギタリストのヒロノブ“カッパ”タナベ、ドラムのウィリー・パーカー・Jr、ベース兼キーボードのアンソニー・タート・ネンハード、右にキーボードのデイヴィッド・S・ブラウン・Jrが暗転のなかで陣取り、今や遅しと多くの観客がステージに目を注いでいると、スポットライトがステージとは異なる場所を照らし、場内が騒めく。アデルのカヴァー「ハロー」の歌声が聴こえると同時に中二階の階段へと歩みを進めるジョーが登場。その階段の踊り場で足を止め、挨拶代わりか観客を見渡すようにして歌い上げると、早くもあちらこちらで歓声が沸き起こる。シックなスーツとエナメルの黒の革靴のジェントルな姿もクールだ。早速ファンとのハグや握手をかわしながらステージへと辿り着くと、すぐさま50セント「イン・ダ・クラブ」などをサラッと仕込みながら彼の代表曲の一つでもあるグルーヴ・ダンサー「スタッター」へ。続いて「ドント・ワナ・ビー・ア・プレイヤー / スティル・ノット・ア・プレイヤー」「ライド・ウィット・ユー」とヒップホップ・アプローチでフロア熱を高めると、マイケル・ジャクソンの「ロック・ウィズ・ユー」でコール&レスポンスとシンガロングを呼び起こしていく。さらにはメイズ・フィーチャリング・フランキー・ビバリーのカヴァー「ビフォー・アイ・レット・ゴー」をかましつつ、アウトロにベル・ビヴ・デヴォー「ポイズン」のフレーズを組み込むなど、ほぼメドレー形式で一気にスパーク。決して歌を押し付けてくることはないが、観客自らがステージのジョーへ気持ちを近づけていくような絶妙な距離感で惹きつけていく。もちろんそれは彼が数多くのヒットを得たキラー・チューン自体のポテンシャルもあるが、ジョーが醸し出すパッションとロマンティックとの比類なきバランス感覚によって、その一挙手一投足に惹きつけられていくということだろう。



 中盤では“ナーナーナー”とフロアにシンガロングの渦が生まれる「モア&モア」でハートウォームなムードを作り出すと、椅子に腰掛けギターを手に弾き語りへ。「オール・ザット・アイ・アム」「ノー・ワン・エルス・カムズ・クロース」は実に味わい深く、シンプルだが直に心に届く歌唱で演じる。その前にジャケットを脱ぎ、ネクタイを緩めたジョーだが、その何気ない仕草にも熱い視線が注がれている。女性陣はもちろんのこと、男性は嫉妬をも起こせないほどの圧倒的なダンディズムがメロウなメロディとテンダーなヴォーカルで紡がれるのだから、たまらない。

 終盤はやはりフロアを練り歩いてのハグ&握手&サイン&撮影会と化したエピローグへ。女性ファンから次々と赤い一輪の花を受け取りながら、感謝のハグを続けていくジョー。前回同様に「じっくりと歌が聴きたい……」との思いが頭をもたげると考えていたが、今回はそう感じなかった。何故なのか。それは、観客と接しながらも手に持ったマイクを離さず、しっかりと歌い続けているからなのではないか。ファンとの接触に夢中になって完全にバンドによるインスト・セクションにはならず、「アイ・ワナ・ノウ」「ザ・ラブ・シーン」「オール・ザ・シングス」などをフロアを巡りながらしっかりと歌っているのだから、恐れ入る。そして、その練り歩きは中二階を越えて自分も座していた2階(会場呼称としては4階)にも訪れ(別日には会場呼称では5階相当の3階まで巡ったとか)、ジョーからの感謝の“ハッピー・アワー”がフロア所狭しと渦巻いていた。



 アンコールのメイズ・カヴァー「キャント・ゲット・オーヴァー・ユー」まで徹頭徹尾のファンサーヴィス。各曲がやや短い尺でのものが少なくない、デュエットの女性ヴォーカルのパート(ケリー・ローランドとの「ラヴ&セックス・パート2」だったか)をはじめバックコーラスなどの多くがオケを使用、毎度の観客と触れ合った後のステージアウト……など言おうと思えば満たされない部分も出てくるのだろうが、それは野暮というもの。むしろ、ここまで観客と触れ合いながらスウィートでメロウな声色で歌い届けるシンガーがいるだろうかと考えると、なかなか答えに窮するのではないか。

 特段テクニカルなステップや踊りをする訳でもなく、絶唱パートを繰り出す訳でもないが、しっかりと根付く上質な音とセクシーなグルーヴを無理なく体現する手合いには、ただ頷くしかない圧倒的な説得力が存在していた。R&Bの旨味成分を十二分に凝縮してドロップした円熟のステージ。ロマンティックが薫るジェントルなエスコートを一度受けてしまうと、足繁く何度もライヴに通いたくなるのも無理はない。ジョーが奏でるR&Bの虜になったのであれば、その想いは男女問わずだ。

 久しくジョーの公演を静観していた自分に悔やみながらも、それを補って余りある今回のステージに酔いしれ、彼のアルバムや楽曲に耳を傾ける……そんな日々がしばらくは続きそうだ。



 
◇◇◇

<MEMBER>
Joe(vo)

Jasmon Chamar Joyner(key,MD)
David S Brown Jr(key)
Hironobu "KAPPA" Tanabe(g)
Anthony TURT Nembhard(b)
Willie Parker Jr.(ds)



◇◇◇




















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