Dr. 讃井の集中治療のススメ

集中治療+αの話題をつれづれに

人工呼吸にweaningは存在しない

2011-08-22 04:39:55 | 呼吸

どっかで聞いたような表題でごめんなさい。ユタの田中竜馬先生が中心になって主催されている「若手医師のための人工呼吸器ワークショップ」のtwitterで紹介されていた論文のretweetです。

http://respiratoryworkshop.blogspot.com/

フリーアクセスの論文でないので申し訳ありません。以下読んでいただければ、少しは内容がお伝えできるかもしれません。

Hess DR, Macintyre NR. Ventilator discontinuation: why are we still weaning? Am J Respir Crit Care Med 2011;184:392-4

2714人の人工呼吸患者の離脱の困難に関わる臨床的因子を調べたコホート研究[1]のエディトリアルですが、著者がこの世界の大御所二人なのがすごい。

要は、人工呼吸器離脱を図る患者は大多数がSBTでdiscontinuationすればよく、weaningつまり徐々に減らしていくというプロセスは必要ない、という考えをHess先生、MacIntyre先生はお持ちであり、これに関しては多くのRCTで明らかにされ、ガイドライン[2]、SSCG 2008[3]でも推奨されているのに、なぜみんな使わないのだろう、SBTってこんなに良いのに、という嘆きのエディトリアルです。

ちなみにSBTとはある一定の条件を満たせば(端的に言えば患者さんが人工呼吸器が必要なさそう、と判断したら)、それまでの設定に関わらずいきなりT-pieceまたはCPAP(± 最低限のPS)にして人工呼吸器が必要かそうでないか判定することです。少なくとも7~8割はそれで成功し、PSVやSIMVに比べ人工呼吸器時間を短くできることが示されている[4]。

Hess & MacIntyreは、このエディトリアルの中で

・Weaning:the latter is the process of gradual reductions in the level of ventilator support as tolerated 耐えられれば徐々にサポートを減らしていくこと
・Discontinuation:termination of ventilation 中断、中止

と用語を区別すべきであると主張しています(議論の基本でしょうね、定義をきっちりしておくことは)。

分類上、

・最初の1回で成功すればsimple weaning、
・1週間未満に成功すればdifficult weaning、
・1週間以上かかるとprolonged weaning

と呼ぶグループもいて[5](慈恵医大 CE 奥田くんのスライド「ウィーニングプロトコール」でも言及されています。わかりやすい。JSEPTICホームページからダウンロードできます[6])、エディトリアルの対象となった研究[1]でもこの分類が使われた。

そもそも、この分類のようにweaningというコトバを使うこと自体がHess & MacIntyreは好かん(Unfortunately, this group used the term weaning interchangeably with the discontinuation process)。しかも1回目は失敗した患者で2回目以降の“discontinuation”プロセスでSBTが使用されたのが50%以下で、それ以外は"weaning"で離脱を図った、つまりは徐々に設定を下げたと嘆いておられる。ちなみに1回目SBTで失敗した患者の2回目のトライアルにおいてもSBTが最も早かったということも古典的研究で明らかにされています[4]。

なぜ私たちはweaningが好きなんでしょう。PCPS、IABP、血管作動薬、みんなそうです。個人的には、何でもいきなりやってみるのが好きなので痛い目に合い、しばしば看護師に「ほらー、先生、血圧が.....」って怒られますが、それって減量のモダリティーの選択やプロトコールが悪いのではなく、患者さんの準備ができていないから、という要素の方が強いはず(もちろん私も薬剤などweaningする場合はありますよ)。患者の準備ができていれば、やり方は関係ないかもしれません(ECMOのオン・オフテストもSBTに近い発想でしょう)。私たちはしばしば「こないだはちょっと早くやり過ぎて失敗したので、今度はちょっとゆっくり1週間かけてウィーニングしたいと思います」なんて平気で言ったり、「やっぱりそーですよねー」なんて平気でスルーする。私たちはreturn[後戻り]やfailure[失敗]という単語を屈辱ととらえがちで、「discontinueしてだめなら戻ればいいじゃないか」という発想をなかなか受け入れられないのかもしれません。

似たようなことをHess & MacIntyreも述べています。

・呼吸器の中止プロセスでは、人工呼吸器の設定をいじることではなく患者が人工呼吸器を必要とする背景疾患を治療することにエネルギーを注ぐべき(The ventilator discontinuation process should focus on treatment of the underlying disease process rather than manipulation of the ventilator settings)だし、

・SBTが患者が人工呼吸を必要とするかしないかを見極める安全で最も適切な方法であり(SBTs are safe and they are the best way to determine when ventilation can be discontinued)

・discontinueしてだめなら元の快適な設定に戻ればいいじゃないか(Those who do not tolerate an SBT are returned to comfortable ventilator settings and the SBT is repeated after the reasons for failure are explored and corrected)

・SBTが患者が呼吸器が不要であるか否かを判定できるのだから、かえって徐々に下げていくのは、人工呼吸離脱プロセスを遅くするだけ(Indeed, if an SBT identifies ventilator discontinuation readiness, a gradual support reduction approach can only prolong the process.)、

などです。

ああ、そうか。SBTは離脱法のひとつと考えるのではなく、呼吸器が必要か否かを判断する検査、ストレステストと考えればいいのか。1週間以上かかるprolonged weaningの患者でさえ、「患者さんが行けそうな顔をしていたら」まずはSBTをやってみると、みなさんも意外に「行ける」ことを感じるはずです。

さらにHess & MacIntyreは、後半、この研究ではコホートの25%以上の患者でSIMVが使われた(More than 25% of patients received SIMV in the study)と述べ,SIMVが登場して40年以上、なぜこんな時代遅れかつ、ベネフィットがないモードがいまだに使われるのか、嘆いておられます。さらに過激に(いいですね!)、このモードで"weaning"するプラクティスを捨てる時がやって来たとも述べています(Perhaps it is time to abandon this mode for which evidence is lacking for benefit. It is time to stop weaning from the ventilator and to start weaning old-fashioned ideas)。

さて、以下反省。

個人的には、weaningという用語をdiscontinuationの意味も含めてずっと使ってきた気がします。おそらく、周囲のみんながウィーニング、ウィーニングって何の気なしに使い、人工呼吸離脱に相当する良い日本語が他に見当たらず、きっと「理解してくれている」と想像し、SBTもウィーニングというイメージ(≈ 離脱?)の中に含めて使ってきたのだと思います。

だから、実際、朝の回診でレジデントが「本日は呼吸器のウィーニングを行います」としゃべるのを自分の中で「きっと昼過ぎには抜管する予定なんだろうな」と解釈してうっかり突っ込み忘れると、朝 FiO20.4、PEEP8、PS12、PSVの設定で、4時間おきにPSが下げられ、夕方の回診時にもPSが8に下げられただけ、という場面に遭遇する。その場で、SBTがどういう行為で、SIMVやPSVよりも人工呼吸からの“ウィーニング”に相応しい方法であることを説明するはめになる(嫌だと言ってるわけじゃありまんよ。同じことを恐れずに手をかえ品をかえ言うのは、わかってもらうための基本ですよね)。レジデント君のアタマの中では“ウィーニング”はweaningとして正しく使われていたわけで、私の使い方がよくなかっただけです。

よーくわかりました。レジデントに「通常の人工呼吸患者にweaningという行為は存在しない」ということや、SBTという「いきなりdiscontinueする」発想を理解してもらうには、まずweaningというコトバ自体を捨ててしまえばいいんだ。この2つのことばを明確に使い分ければいいんだ、ということが。よくぞ言ってくれました、Hess先生、MacIntyre先生。

しかし、「じゃあ今日は“ディスコンティニュー”の日です」としゃべるのも何かピンときませんね。ウィーニングがもつ「徐々に」というイメージを完全に払拭する代わりの良い日本語はないのでしょうか。

世界中の集中治療医、ナース、呼吸療法士の慣れ親しんだ用語、習慣、文化を変えるのは難しいですが(そのくせ私たちは企業のランチョンセミナーで推奨される謎の多い薬を気軽に使います。恐いですね)[7]、とりあえず「同じことを恐れずに手を替え品を替え言いつづけよう」と思います。

Hess先生、MacIntyre先生ありがとう。田中竜馬先生ありがとう。

参考
1. Penuelas O. Characteristics and Outcomes of Ventilated Patients According to Time to Liberation from Mechanical Ventilation. Am J Respir Crit Care Med 2011[Epub ahead of print]
2. MacIntyre NR. Chest 2001;120:375S–395S
3. Dellinger RP. Crit Care Med 2008;36:296-327
4. Esteban A. N Engl J Med 1995;332:345–350
5. Boles J-M. Eur Respir J 2007;29:1033–1056
6. Clinical Q&A 2011/06/27. ウィーニングプロトコール. http://www.jseptic.com/journal/clinical.html
7. http://blog.goo.ne.jp/jseptic/e/f004c5f5b91abd842e6e32daabdbcbcf


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