絵本は恋人

デジタル絵本作家 奥村律子の絵本レビュー

銀河鉄道の夜

2007年07月26日 10時56分06秒 | 【レビュー】絵を楽しみたい時の絵本


銀河鉄道の夜
宮沢 賢治 原作
藤城 清治  影絵と文

 今回は真夏の夜を彩る幻想的な絵本をご紹介しましょう。
 『銀河鉄道の夜』。宮沢賢治の原作を藤城清治さんが影絵を使いみごとにリメイクした作品です。初めてこの絵本に出会ったとき、こんな表現の仕方があるのかと驚きました。原作には挿し絵がないけれど、もし絵をつけるならこの影絵しかないと思わずにはいられないほど、物語にぴったり合っています。

 全ページ光と影のコラボレーションに思わずうっとり。夕暮れの活版所、祭りのテントや花火、黒い丘、銀河鉄道を走る汽車、それと寄り添う天の川、星座や惑星…。影と重なりあう光のグラデーションが幻想的な情景をつくっています。

 でもその美しさが余計に何かが潜んでいることを暗示しているような気がしてくるのです。川の流れが美しければ美しいほど、天の川が美しければ美しいほど・・・・・。いつもうつむいているジョバンニ、遠くをみるカンパネルラ、うなだれる博士・・・。最初から最後まで、美しいけれども胸にぐっとくるような物悲しさを感じずにはいられません。

 最後のページは原作と少し違っていますが、宮沢賢治の言葉をそのまま伝えています。



 「 世界がぜんたい
    幸福に
    ならないうちは
    個人の幸福は
    あり得ない
           賢治  」

 このページは藤城清治さんのリメイクですが、カンパネルラの死の意味やそれを通してジョバンニ自身に起こった変化、幸福とは・・・がまとめられていて、絵本の役割として子どもにもわかるようにするには必要なページかなと思いました。

 ところで、藤城清治さんといえば、影絵作家の第一人者。名前は知らなくてもその作品を誰もがどこかで目にしていると思います。

「暮らしの手帳」の連載が有名ですが、私には子どもの頃によくテレビなどで見た小人の絵が印象に残っています。表情があまり無いせいか目がすごく大きいせいか、幼心に恐さと寂しさのようなものを感じていました。ところが大人になってあらためて見ると、哀愁があってなかなか可愛い小人たちではありませんか。どこか淡くて切ないノスタルジックな気持ちになってきます。大好きなテレビ番組「ケロヨン」('66)の作者だと知ったときは驚きました。

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銀河鉄道の夜
宮沢 賢治 原作
藤城 清治  影絵と文
講談社 
¥1,995(税込)
ISBN: 4-06-200395-3


なつのほし

2007年07月06日 13時53分27秒 | 【レビュー】科学に触れたい時の絵本


なつのほし
かこさとし 作

 「天の川ってどこにあるの?」長男が幼稚園に通っていたころ七夕祭りの後、夜空を見上げながら聞かれました。残念ながら天の川は見る事ができず、代わりに織り姫星と彦星を見つけながら帰りました。そんな折、偶然であったのが、かこさとしさんの「なつのほし」という絵本です。息子が丁度星に興味を持ち始めたところだったので、なるべく科学的好奇心を満たすものがいいと思い買いました。

 美しい写真とイラストを用いて、宇宙に浮かぶ星や星座、織り姫星と彦星の伝説や七夕祭りの由来、銀河系や流れ星、地球の自転についてなどが盛り込まれています。

 この本の一番の魅力は、子ども向けの絵本とは思えない程きちんと科学として説明されているところ。例えばアンタレスというさそり座を作る星については、夏を代表する星で大きさは太陽の230倍もあるが600光年も離れていので、地球からは太陽に比べるとずっと小さく見えるということや、織り姫星と彦星については、民話では一晩で出会うことになっているけれども、実際にはこの二つの星は16光年離れているので、たとえ光の速さの宇宙船に乗ってもまん中で出会うのは8年もかかってしまうのだということなど、数値を使ってシンプルでわかりやすい図で教えてくれています。

 また、なぜ天の川が見えるのかについての説明では、迫力ある絵が印象的で、親子共々銀河系についての好奇心を掻き立てられました。この絵本は子どもだけではなくて、むしろ私のように子どものころあまり星や宇宙について勉強しなかった大人にこそ読む価値のある絵本かもしれません。

 数年前の夏、キャンプ場に泊まった夜に空を見上げると星、星、星!そして天の川。プラネタリウムがそっくりそのまま...いや違う、こっちが本物。天の川のあっちとこっちには織り姫と彦星がいる。長年知っていて当たり前だと思ってたことでも、実際に見ると新鮮で感動するものです。天の川もただぼんやり見るのでは無くて、絵本で見た銀河の形を空一面に思い描き、しばらく宇宙に想いを馳せました。

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なつのほし
かこさとし 作
偕成
¥1260(税込)
ISBN: 4034430206


あめふり

2007年06月26日 10時17分43秒 | 【レビュー】子供に返りたい時の絵本


あめふり
さとうわきこ 作

 梅雨の季節ですね。雨が好きという人もいますが、主婦にとってはやっかいなもの。洗濯物は乾かないし、買い物には傘がいるし、特に我が家は先月食中毒騒ぎがあり神経質にならざるをえません。もちろん元気な子ども達だって外で遊べない雨降りは嫌ですよね。

 さて、そんなじめじめした思いを一掃する絵本をご紹介します。さとうわきこさんの「あめふり」。「ばばばあちゃん」という前代未聞の元気なおばあさんを描いたシリーズのひとつです。ばばばあちゃんの豪快な行動や、雲の上のかみなりたちがとても楽しく描かれていて、雨の日の気分転換にもってこいの絵本です。

 毎日毎日雨続き。ばばばあちゃんと同居している子犬と子猫は外に出られなくて退屈していました。ばばばあちゃんは二匹のために空に向かって「あめふらしさん ときどき やすんじゃくれないかね」と頼みます。ところが意地悪なかみなりたちは、「やなこった」と返してきてバケツの水をぶちまけたような雨を降らしてきました。さらにかみなりがゴロゴロなりだし、いなびかりまでピカリ ピカリ。カンカンに怒った、ばばばあちゃんは「ようし、こっちにも考えがあるよ」と言って、暖炉とスト-プの火をせっせと燃やします。家にあるいらないものを次から次へとただひたすら燃やし続けるばばばあちゃん。さあ、一体どんな作戦なのでしょう。

 私の予想も付かなかった反撃は痛快で、気分爽快。いじわるなかみなりたちも相手がばばばあちゃんだったのが不幸のはじまりでした。十分懲らしめられますが、にもかかわらずかみなりたちの顔はなぜかさわやか。ばばばあちゃんの人柄が感じとれます。裏表紙の絵でかみなりたちは手を振ってばばばあちゃんに別れを告げているところも必見です。内容的には「目には目を、いじわるにはいじわるを」なので、「ちょっと・・・」と思う人もいるかもしれませんが、単純に楽しんでもよいではないでしょうか。

 「ばばばあちゃん」のシリーズはどれも突拍子も無い発想と展開で読み手を圧倒しストレートに楽しむことができるので、子ども達に大人気の絵本です。私自身も読むたびにエネルギーをもらっています。

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あめふり
さとうわきこ 作
福音館書店
¥840(税込)
ISBN: 4834003302


ロボットのくにSOS

2007年01月26日 11時52分59秒 | 【レビュー】子供に返りたい時の絵本


ロボットのくにSOS
たむらしげる:作

 ルネ君のおもちゃのロボットが壊れてしまい動かなくなってしまったので、直してもらうためにフ-プ博士の家にいきました。フープ博士はちょっと変わった科学者です。おもちゃを直してもらっていると博士を訪ねてぜんまい仕掛けの本物のロボットがやってきました。地下600メートルのところにある「ロボットのくに」が地震のために発電機が壊れて大変な事になっているので助けてくれというのです。一行はぜんまいで動く飛行機に乗って、「ロボットのくに」へと向かいました。地下の世界では電気ヒトデに出会ったり恐竜に出会ったり不思議な体験をしながらロボットのくにに辿り着きます。「ロボットのくに」の横には恐竜が住んでいるとはなんて面白い発想でしょう。でも感心ばかりしていられません。「地上の人間たちの騒ぎがきらい」「ひっそり きままに暮らしたい」という恐竜の言葉にドキッとさせられました。

  ラストで、ぜんまいロボットが自分の発電機を譲るシーンはなんとも言えず淋しいです。でも淋しいだけではなくて大切なメッセージが込められているように思いました。

  ぜんまいロボットはロボットのくにのために発電機を渡しました。自分はもうロボットとして生きられなくてもロボットのくにを存続させることを選んだのです。次の世代のために何を残してあげられるか・・・。それはまさに私たち大人に向けられている課題ですね。

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ロボットのくにSOS
たむらしげる:作
福音館書店
¥840(税込)
ISBN: 4-8340-1199-2


かいじゅうたちのいるところ

2006年12月15日 18時21分15秒 | 【レビュー】子供に返りたい時の絵本


かいじゅうたちのいるところ
モーリス・センダック 作

  しばらくぶりに友人の家に遊びにいくことになり、3才の男の子がいるので絵本をお土産にと考えました。友人の話では3才ぼうやはかなりのやんちゃ坊主。お母さんが絵本を読んであげてもちっともじっと聞いてなんていないのだそう。だったらこの本しかないと、「かいじゅうたちのいるところ」を用意しました。 アメリカの代表的な絵本作家、モーリス・センダックの作品です。お薦め絵本としてよく挙げられるのでご存じの方も多いと思います。

 家の中で大暴れしてお母さんにしかられたマックスは、夕御飯ぬきで寝室に閉じ込められました。ちょっと後悔するマックス。でも寝室中に木がにょきにょきはえてきて、たちまち森や野原に様変わり。「しめしめ。また大暴れしてやるぞ」なんていう顔をして、さあここからマックスの世界に突入です。ボートに乗って波の上を1年と1日航海し、着いたところは「かいじゅうたちのいるところ」。かいじゅうたちの王さまになったマックスは、かいじゅうたちと一緒にかいじゅう踊りをおどります。楽しかった時間も過ぎ、またボートに乗って1年と1日、部屋に戻ったマックスにはあたたかい夕食が待っていました。

 ストーリーはいたってシンプルですが、全体を通してなぜか心を惹かれる不思議な魅力をもった作品です。色彩は落ち着いていて好みなのですが、実は私の第一印象は、「きもち悪い」。特にかいじゅうたちの気持ちの悪さには圧倒されます。でも子どもたちに何度も読んでとせがまれ読み聞かせているうちに「きも・かわいい」になり、そのうちに「かわいい」に変化していきました。 マックスの顔も生意気でかわいくない。でもそれは子どもの素直な表情だと思います。大人の読者に媚びてないところがかえって好感がもてます。

 作者はこの作品に様々なメッセージを織り込んでいるような気がします。かいじゅうたちの大きさは大体オトナの大きさ。ということはマックスはいつも自分を叱るオトナ達を家来にして、「してやったり!」ということなのでしょうか。

 ただ一つとても謎めいているのは寝室の窓の外の『月』なのです。大人の感覚で考えれば、このストーリーはマックスが寝室で夢をみていたんだろうぐらいですが、「かいじゅうたちのいるところ」へ遊びに行く前は欠けていた月が、戻って来た時は満月となりしかも同じ場所にある。月は動くし1日のうちでは形は変えません。作者はそれくらいわかっているはずですから『月』については意図的でしょう。何度読んでも新鮮に感じられる不思議絵本です。

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かいじゅうたちのいるところ
モーリス・センダック 作
冨山房
1,470(税込)
ISBN: 4572002150


さむがりやのサンタ

2006年12月15日 17時37分49秒 | 【レビュー】笑いたい時の絵本


さむがりやのサンタ
レイモンド・ブリッグズ 作
すがはら ひろくに 訳

 12月24日はサンタクロースの一番忙しい日。けたたましく鳴り響く目覚まし時計で、夏のバカンスの夢を壊されたサンタさんは、ベルを憎々し気にぱちんと止めて、不機嫌顔で開口一番「やれやれ またクリスマスか」。こともあろうに、このサンタさんは寒さが大の苦手なのです。のっけから「いつも笑顔の優しいおじさん」という、サンタのほどんど固定されていたイメージがぐらぐらと崩れていきます。

 「煙突なんてなけりゃいいのに!」と悪態ついたり、子どもがもてなしてくれたジュースを見て「ふん、なんだジュースかい」と文句言ったり、ソファーでお酒を飲んだり。一見性格悪そうだけど、牛乳屋さんに挨拶したり、女王一家が在宅なのを確かめてプレゼントを届けたりして、なかなか礼儀正しいところもあるようです。それにぶつくさ文句は言うものの、行動はテキパキしていて、寒さの中きちんと仕事をやりとげるし、家では紅茶を入れたり家事もスマートにこなしいてます。またペットたちには特に深い愛情を込めて世話をしているようで、ペットに話しかける表情といったら、悪態をついているときとは大違い。とっても頑固そうな、でも憎めない、どこかにいそうな人間的味たっぷりのおじいさんです。

 この絵本は、普通の絵本とスタイルが違っていて、漫画のようなコマ割で一日が進んでいきます。漫画というと語弊があるかもしれません。文字は少ないのですが絵が緻密なので、例えば、起きてすぐ紅茶を入れるためのお湯を沸かし、ペットたちに餌をやり、ラジオを聞きながら紅茶をすする老人の優雅な暮らし振りがほとんど言葉がなくてもうかがえます。すなわち絵を読む本なのです。

 一度目は一連のストーリーを楽しみ、二度目以降は絵をじっくり眺めて読んでみる。何度読み返しても新しい発見がある読みごたえ抜群の絵本です。大人にもお薦めです。

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さむがりやのサンタ
レイモンド・ブリッグズ 作
すがはら ひろくに 訳
福音館書店
¥1,260(税込)
ISBN: 4834004368


急行「北極号」

2006年12月11日 10時38分58秒 | 【レビュー】子供に返りたい時の絵本


急行「北極号」
C・V・オールズバーグ:作
村上春樹:訳

 クリスマスイブの夜、サンタを待つ少年のもとに白い蒸気につつまれた謎めいた汽車があらわれます。その名は急行「北極号」。少年が汽車に乗り込むと、サンタの国「北極点」までの幻想的な旅が始まります。パジャマ姿の子どもをたくさん乗せたその汽車は、オオカミ達の森を抜け、山を越え、丘を越え、猛スピードで北へ北へと走り続け、ついに北極点へ。そこで少年は夢を叶えるのです。

 子どものころサンタを信じていた人たちは少なくないと思いますが、大人になった今でも信じる心があれば存在し続けるっていうお話です。「こういう気持ち、忘れちゃったなあ…」という大人も、読んでいるうちに、子どもの頃の純粋さを思い出せるかもしれません。シンプルで小さいお子さんにもわかりやすいストーリーですが、絵や文から受ける印象は荘厳かつ優雅。あまり子ども向けという感じはしません。絵は深みのあるパステルで描かれていて、暗い色調ですが聖夜の場面らしい温かさが隅々に感じられ、これでもか~と言うくらいクリスマス気分を掻き立てられます。子ども時代に読んでおけばよかったと思う絵本は何冊もあるけれど、この絵本ほど強くそう感じたものはありません。 この作品は1986年度 コルデコット賞を受賞しました。  ご存じの方も多いかと思いますが、この絵本は現在公開中の映画「ポーラー・エクスプレス」の原作本です。主演のトム・ハンクスは、この絵本を子どもの為に読んでやっているうちに、自らとりこになってしまい、ゼメキス監督に映画化の話をもっていったそうです。確かにこの絵本には、見開き一杯に広がる美しい絵を映画館のスクリーンで見てみたいという気持ちにさせられるような魅力があります。映画の公式HPから予告編が見られますのでご覧になってみてください。私自身は映画は見ていないのですが、この予告編を見る限りでは、ジェットコースターに乗っているような迫力あるシーンが多くて原作のイメージとちょっと違うなと思いました。それでも絵本の魅力を損なわないようにということでしょうか、実写ではなくCGで作られていて、端々にその気づかいが見られます。人物の動きはパフォーマンス・キャプチャーという最新技術で精密に作られているそうです。「つくりもの」という感じが幻想的な雰囲気を強くしていて、なかなか良いのではないでしょうか。

 とはいえ、絵本と映画は別物と考えた方がよいかもしれません。絵本の醍醐味は、たった15枚の絵だけでイメージをを膨らませ、空想を楽しむことにあるのですから。

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急行「北極号」
C・V・オールズバーグ:作
村上春樹:訳
あすなろ書房
¥1,575(税込)
ISBN: 4751519999


おもいでのクリスマスツリー

2006年12月08日 18時42分27秒 | 【レビュー】人生を考えたい時の絵本



おもいでのクリスマスツリー
グロリア・ヒューストン:文
バーバラ・クーニー:絵
よしだしんいち:訳

クリスマスの装飾やルミネーションが美しい季節になりましたね。

最近は街だけでなく一般の住宅でもよく見られます。夜には庭先の木々を取り巻く沢山の小さな光が家の窓から漏れる明かりと重なり合って、いっそう温かさをまして目に映ります。

日本では小振りなイミテーションのツリーを部屋に飾り、庭を電飾するのが無難で一般的ですが、アメリカでは(多分他の国でも)ツリーには生木を使うのだそうです。
部屋の天井まで届きそうな本物のもみの木、それも鉢植えでなくすぱっと根元から切ってあるものを毎年12月に市場で買い求め、数週間楽しむのだそうです。
ですからクリスマスを祝う国々では公共の場所に飾られる大きくて形のよいツリーを探すということは1年がかりの重要な仕事なのでしょう。

今回はそれにちなんで、『おもいでのクリスマスツリー』という絵本をご紹介します。
グロリア・ヒューストンの文に、私の大好きなバーバラ・クーニーが絵を添えました。

北米アパラチア山脈の奥にある<松が森>という小さな村では、教会に立てるクリスマスツリーを毎年村人が交替で用意するという古くからのならわしがあります。今年はルーシーの家の番です。 
春、父親とルーシーは最高の木を見つけるために、険しい山奥まで探しにいきました。そして高い崖のてっぺんにある立派なバルサムモミを選び、リボンで目印をつけました。 しかし、夏になると父親は兵士となって戦地へかりだされてしまい、母親とルーシーは経済的にも精神的にも苦しい生活を強いられます。

ルーシーは毎晩ベッドで「パパをクリスマスまでにおかえしください」と祈ります。ところがその祈りもむなしく、クリスマスイブ前夜になっても父親は帰ってきません。ツリーに選んだバルサムモミはまだ山奥の崖のてっぺんに植わっています。 
その晩牧師さんから、今年のツリーは他の家に用意してもらうよう申し出がありました。ところが母親はそれをきっぱり断ったのです。 
その後母親のとった行動は……。 そしてルーシーの願いは叶うのか……。

続きは絵本を読んでいただければ、と思います。 
一家の名誉を守ろうとした母親の勇気、そして娘への愛情。キリスト教徒でない私には読み取ることのできない心情も、もしかしたらあるかもしれません。
それでも母親のあり方はまっすぐ伝わって来ます。

ストーリーと絵は別の作家ですが、とてもよく合っていてさらに感動を呼びます。 
大人の女性向けの絵本といってもよいでしょう。クリスマスに限らず手元に置いておきたい一冊です。

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おもいでのクリスマスツリー
グロリア・ヒューストン:文
バーバラ・クーニー:絵
よしだしんいち:訳
ほるぷ出版
ISBN:4-593-50277-2
¥1456(本体)


にぐるまひいて

2006年12月04日 12時30分43秒 | 【レビュー】人生を考えたい時の絵本


にぐるまひいて
ドナルド・ホール:文
バーバラ・クーニー:絵

 秋もだんだんと深まってきましたね。街を歩いていると、街路樹の紅葉にさえどこかもの寂しさというか切なさを感じさせられます。なんとなく「うつくしい絵を見たい」という気持ちになるのもこの季節です。さて、そんな時お薦めの絵本をご紹介しましょう。今回は詩人ドナルド・ホール&バーバラ・クーニーの生み出した傑作、『にぐるまひいて』。1980年コールデコット賞受賞作品です。

  物語は秋から始まります。ニューイングランドに住む家族4人が一年を通して作り上げた様々な品物を荷車一杯につめ、お父さんは牛と共にポーツマスの市場へと旅立ちます。 丘を越え、谷をぬけ、小川をたどり、農場や村をいくつも通り過ぎ、10日がかりの旅をします。
 市場では荷車につめた品物から空き箱、空き袋まですべてを売り、さらには荷車とかわいがっていた牛と手綱なさえも売ります。すべてをお金に変えるとまた市場を歩きまわり、今度は家族のこれからの一年間の必需品とお土産を買い、家路につきます。また季節はめぐり、家族にとって新たな一年が始まるのです。  ストーリーはシンプルですが、作者のホールが従兄弟から聞いた話で、その従兄弟はある老人から聞き、またその老人は子どものころに大変なお年寄りから聞いたのだそうです。経済が発達し二度と戻ることのない時代の話ではあるけれど、語り継がなければならないこと・・・、自然と共に生きる人間本来の姿、生きていく上で無駄なものなど一つも無かった古き良き時代があったことを、ホールは詩に表したのです。彼は自分の作品を朗読して国中を歩いたそうです。

 それにしても、クーニーの絵はいつ見ても目の肥やしになります。 まるで画集のようです。ホールの詩とみごとに調和していて、この時代に生きた人々の誠実さが、やさしくじんわりと伝わってきます。風景画もさることながら、牛にキスをする絵と荷車の青い色も印象的です。

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にぐるまひいて
ドナルド・ホール:文
バーバラ・クーニー:絵
ほるぷ出版
¥1,470(税込)
ISBN: 4593501393


14ひきのあきまつり

2006年11月10日 18時19分50秒 | 【レビュー】絵を楽しみたい時の絵本


14ひきのあきまつり
いわむらかずお 作

 週末車で街を走っていると、太鼓の音が響きハッピ姿の人たちを見かけました。秋祭りのシーズンです。もともと秋祭りには「神に豊作を祈る」という意味があるのでしょうが、だんだん祈願する気持ちが薄れてきているような・・・。でも新しいものが次々と生み出され、今までのものが一瞬にして風化してしまう現代、このような伝統行事が毎年受け継がれていることにほっとします。

 秋祭りといって思い出す絵本が、「14ひきのあきまつり」。先月に引き続き、今月もいわむらかずおさんの「14ひきシリーズ」なんですが、絵がとても綺麗で秋を実感できると思うので、みなさんに是非見ていただきたくご紹介します。

 14ひきのねずみの兄弟が森の中でかくれんぼをしています。他のみんなは見つかったのに、ろっくんだけが見つからない…迷子になったのかな?と、ろっくんを探しに森の奥深く探しに行きました。すると突然くりたけ(キノコの仲間)兄弟がかけだしました。行ってみるとなんとカエルやどんぐり、キノコたちが、お神輿をかついでいるではありませんか!なんと不思議な光景でしょう。他にもたくさんの生き物が集まってきます。「せいや、せいや」のかけ声とともに、絵本から飛び出してきそうなくらい元気一杯、色鮮やかなお祭りが始まりました。

 美しい絵に堪能しながら是非気に掛けて見て欲しいのが、登場する多くの生き物たち。カエルやへび、トンボやバッタ、それに植物なども、デフォルメされておらず正確に描かれているのです。図鑑で探したらきっと見つかるでしょう。実際に森に足を運び、観察したものを精密に描こうとする作者の姿勢が感じられます。ちなみに主人公のねずみたちはトガリネズミといって、鼻先が尖っっているのでこの名前がつけられ、ほ乳類の中でもっとも小さいといわれている。どちらかというとモグラに近い部類だそうです。

 トガリネズミと同じ視点となり、現実に見える森の中の様子を空想の世界に展開していく。その豊かな観察力にと想像力には頭が下がります。今回はキノコの種類も沢山あり勉強になりました。


上の写真はいわむらかずおさんのサインで、息子がいただいたもの。
生き物大好き、絵が大好きな息子の宝物です。

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14ひきのあきまつり
いわむらかずお 作
童心社
¥1260(税込)
ISBN: 4-494-00857-5