今回は真夏の夜を彩る幻想的な絵本をご紹介しましょう。
『銀河鉄道の夜』。宮沢賢治の原作を藤城清治さんが影絵を使いみごとにリメイクした作品です。初めてこの絵本に出会ったとき、こんな表現の仕方があるのかと驚きました。原作には挿し絵がないけれど、もし絵をつけるならこの影絵しかないと思わずにはいられないほど、物語にぴったり合っています。
全ページ光と影のコラボレーションに思わずうっとり。夕暮れの活版所、祭りのテントや花火、黒い丘、銀河鉄道を走る汽車、それと寄り添う天の川、星座や惑星…。影と重なりあう光のグラデーションが幻想的な情景をつくっています。
でもその美しさが余計に何かが潜んでいることを暗示しているような気がしてくるのです。川の流れが美しければ美しいほど、天の川が美しければ美しいほど・・・・・。いつもうつむいているジョバンニ、遠くをみるカンパネルラ、うなだれる博士・・・。最初から最後まで、美しいけれども胸にぐっとくるような物悲しさを感じずにはいられません。
最後のページは原作と少し違っていますが、宮沢賢治の言葉をそのまま伝えています。
「 世界がぜんたい
幸福に
ならないうちは
個人の幸福は
あり得ない
賢治 」
このページは藤城清治さんのリメイクですが、カンパネルラの死の意味やそれを通してジョバンニ自身に起こった変化、幸福とは・・・がまとめられていて、絵本の役割として子どもにもわかるようにするには必要なページかなと思いました。
ところで、藤城清治さんといえば、影絵作家の第一人者。名前は知らなくてもその作品を誰もがどこかで目にしていると思います。
「暮らしの手帳」の連載が有名ですが、私には子どもの頃によくテレビなどで見た小人の絵が印象に残っています。表情があまり無いせいか目がすごく大きいせいか、幼心に恐さと寂しさのようなものを感じていました。ところが大人になってあらためて見ると、哀愁があってなかなか可愛い小人たちではありませんか。どこか淡くて切ないノスタルジックな気持ちになってきます。大好きなテレビ番組「ケロヨン」('66)の作者だと知ったときは驚きました。
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銀河鉄道の夜
宮沢 賢治 原作
藤城 清治 影絵と文
講談社
¥1,995(税込)
ISBN: 4-06-200395-3