*『死の淵を見た男』著者 門田隆将 を複数回に分け紹介します。58回目の紹介
『死の淵を見た男』著者 門田隆将
「その時、もう完全にダメだと思ったんですよ。椅子に座っていられなくてね。椅子をどけて、机の下で、座禅じゃないけど、胡坐をかいて机に背を向けて座ったんです。終わりだっていうか、あとはもう、それこそ神様、仏さまに任せるしかねぇっていうのがあってね」
それは、吉田にとって極限の場面だった。こいつならいっしょに死んでくれる、こいつも死んでくれるだろう、とそれぞれの顔を吉田は思い浮かべていた。「死」という言葉が何度も吉田の口から出た。それは、「日本」を守るために戦う男のぎりぎりの姿だった。(本文より)
吉田昌郎、菅直人、斑目春樹・・・当事者たちが赤裸々に語った「原子力事故」驚愕の真実。
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**『死の淵を見た男』著書の紹介
第18章 協力企業の闘い
「男泣きに泣いた」 P282~
(前回からの続き)
目の前で泣く阿部の姿が、佐藤はありがたかった。
「原防の阿部さんが、ボロボロと涙を流してPHSで話していました。こっちは、行ってもらいたいんですけど、協力会社の方ですので、自分の判断で行くことができなくて・・・。阿部さんが泣きながら、そう言ってくれるのは、本当にありがたかったです・・・」
しばらく経って、原防の社長に連絡がついたが、やはり社長は「社員の命を守る立場にある。阿部一人を出せばその次も、と結局は大勢を現場に戻らせることになりかねない。そこまで協力企業がやらなければならないことはない。答えは、「阿部さん、ここは(行くのを)我慢してくれ」だった。
つながりにくいPHSで何度もGMに指導を行っていた阿部に、社長から許可が下りたのは、よく16日の朝のことだった。
「もう、なんとかしてやらんきゃならん」
泣きながら訴える阿部の願いを、ついに社長が受け入れてくれたのである。
「阿部さん悪いけど、じゃあ、行ってくれるかね」
社員の命を心配する社長を、阿部の熱意が揺り動かした瞬間だった。
「すみません、迷惑かけてすみませんでした。ありがとうございます」
阿部は、やっと福島第一の現場に戻ることができたのである。危険な現場に向かうというのに、阿部の気持ちは「ありがとう」だったという。
「社長も、こっちの命を心配してくれて、苦しかったと思うんですよ。でも、許可が出て、嬉しかった。何度も阿部GMから夜中に相談があって、その中には、”消防車から放水をして、30メーターぐらいの高さに水を上げて、建屋の中に水を入れる、ということもやりたいんだが、できるでしょうか”というような内容もあったんですよ。圧力にもよるけど、25メートルとか27メートルくらいまでは有効射程ですから、”その範囲であれば、できます”と私は答えました。(略)
(次回は「異空間のように孤立」き)
※続き『死の淵を見た男』~吉田昌郎と福島第一原発の500日~は、
2016/5/19(木)22:00に投稿予定です。