ルシアン・フロイド
原題「レイ・ボーリー」
一旦終わったが、また20世紀以降の芸術でおもしろいものが見つかれば語ることにしよう。
ルシアン・フロイドは人間の肉体の虚偽に、それとなく気付いていたらしい。それをきつい感じでまじめに描いている。
これは偽物の人間の一例だが、大きな人間の姿を、もっと小さい人間がかぶるとこうなるという例である。まさに、ぬいぐるみの中身が薄くなるという感じで、肉体が崩れてくるのだ。
昔から、他人から姿を盗み、嘘の自分になるということを人間は繰り返してきたのだが、近現代においては、その中身と外見の差が大きくなりすぎ、肉体にぼろが出て来はじめた。
人間の肉体そのものが、むごたらしい嘘になってきたのだ。どんなによく見ようとしても、美しいと感じることができない。何か得体のしれないものが、肉襦袢を着て人間になりすましているかのようにも見える。
中にいる人間も人間なのだが、他人の姿を盗んで着ているということをやっている限り、タヌキに等しいと思われても、反論することはできない。
まさにこれは、タヌキの類が化けている、嘘の人間なのである。いやなことばかりする。嘘で立派なことをしているように見せかけているが、言い訳にもならない痛いことばかりしている。
何もわからないのに、立派な人間の姿をしているからだ。