日常学的私論序説

要するに好きなことを書いているだけである。

運転室に息子入れクビ…「厳しい」と抗議430件

2005年11月12日 01時08分57秒 | コメント付
東武鉄道で興味深い事件が起きたようだ。
以下、「バトルトーク」のサイトから引用。
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問題が起きたのは今月1日、
運転士の勤務終了後、一緒に買い物にいくために、
妻と長男(3)長女(2)の3人が、
運転士の運転する東武野田線の先頭車両に乗っていました。
しかしその途中、3歳の長男が運転席の窓を叩き、せがみました。
父親である運転士は、途中の駅で停車した際に、
なだめようと客室側の扉を開けたところ、長男が入り込んで来ました。
そこで追い出そうとしたのですが、泣いてしゃがみ込んでしまいました。
運転士は「運行を遅らせるわけにはいかない」と思い、
そのまま電車を発車させ、約2キロ離れた隣駅で、
長男を妻に引き渡したということです。

この行動に気づいた乗客が通報。
東武鉄道は「重大な服務規定違反」だとして、解雇するとしています。
東武鉄道では、運転中に第三者を運転室に入れることを禁止しており、
違反者は処分するとしています。



第三者を運転室に入れたことで運転士を処分するというのは、
東武鉄道では初めてだということです。



ちなみに、東武鉄道の懲戒処分は、
「解雇」「職級降下」「停職」「減給」「けん責」の5段階があり、
どんな行為がどの処分に当たるかの明確な基準はないそうです。

解雇の方針を明らかにした後、東武鉄道には昨日夕方までに、
電子メールや電話など430件の抗議が寄せられています。
ですが、東武鉄道は
「重大な規則違反で解雇の方針は変えない」としています。
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今日はこの処分の妥当性について考えてみたい。

「東武鉄道では、運転中に第三者を運転室に入れることを禁止しており、違反者は処分する」とされている。そして、「東武鉄道の懲戒処分は、「解雇」「職級降下」「停職」「減給」「けん責」の5段階があり、どんな行為がどの処分に当たるかの明確な基準はないそうです。」ということから考えると、服務規程に違反した者をどのような懲戒処分に処するかは東武鉄道の裁量に委ねられているということができる。

しかし、この東武鉄道の懲戒処分についての裁量も全く自由である考えるのは妥当でなく、当該違反者の違反行為の態様、違反の程度、当該違反が電車の運行に与えた影響、その他当該違反に関連する一切の事情を考慮して社会通念上相当といえる程度を逸脱していると判断される場合には、当該懲戒処分は裁量権の逸脱ないし濫用として違法と認定されなければならない。特に解雇は、それが違反者の職を奪う重大な処分であることから、違反の程度が著しく、当該違反者を解雇に処さなければ今後の電車の運行の安全の確保や運転士の服務規程違反の抑止、乗客の信頼回復を行うことが困難であるという事情が認められる場合に限り許されると解するのが相当である。

これを本件についてみるに、本件で運転士は自分の長男を運転室に入れており、服務規程に違反していることは明らかである。したがって、運転士は懲戒処分を受けなければならないといえる。

しかし、運転士が服務規程に違反したというのはそのとおりであるが、その違反の態様はあまり悪質なものではない。

すなわち、本件において運転室に長男が入ってきた経緯を見ると、長男が運転席の窓を叩きせがむので、運転士は停車中になだめようとして扉を開けたところ、長男が入り込んできたという事情が認められるのであって、運転士が積極的に長男を運転室に招き入れたというわけではない。

さらに、運転士は長男を追い出そうとしたが、泣いてしゃがみ込んでしまったので、運転士は「運行を遅らせるわけにはいかない」と思い、そのまま電車を発車させたというのであって、第三者を運転室に入れたまま電車の運転をしたという点についても、、不可抗力であったとまではいえないものの、時間通りの運行も運転士としての重要な役割であることを考慮すると、運転士の違反の態様・程度は軽微なものにとどまっているということができる。

しかも、約2キロ離れた隣駅で、長男を妻に引き渡しているのであり、運転室に長男を入れていた時間はごくわずか(おそらく数分程度)であって、運転士としても違反状態を以後も継続しようという意思は無かったとかんがえられるのであり、長男が運転室にいたために運転に何らかの支障が生じたという事情も見受けられない。

以上を総合的に考慮すると、運転士の違反は懲戒処分としてもっとも重大なものである解雇を受けなければならないほどのものだったとは到底いえないといわなければならない。したがって、本件における東武鉄道の解雇処分は違反行為に対してあまりにも重いと認められるのであり、社会通念上相当とされる範囲を越えた違法な処分といわざるをえない。

本件において、運行に何らの支障が生じなかったのは偶然に過ぎないのであって、運転士の違反は電車の運行に対し重大な危険を生じさせる可能性があるものであることは間違いないのであるから、本件解雇処分は正当であるとの主張もあろう。

確かに、長男を運転室に入れて電車を運行することは、子供が不測の行動をすることを考慮に入れれば電車の運行の安全、ひいては乗客の生命・身体を危険にさらす重大な違反であって、解雇をもって臨むべきものであるともいえなくもない。

しかし、本件においては、長男は泣いてしゃがみ込んでしまっているのであって、好奇心から運転室内の機器に触れるなどの行動に出ていないことから考えると、電車の運行に重大な危険を生じさせる可能性は低いと考えられる。そして、そのような抽象的な危険では解雇という重要な処分を正当化することはできないというべきである。