*六甲山登山(上)から続きます。
中秋の名月は段々と西へ傾き、空にはオリオン座などの冬の星座がちりばめられている。山頂まであと少しだ。照明のない道をゆっくりと進む。月の光が明るい。夜の山道なのにこんなに呑気に歩いていられるのも、きっとここが六甲山だからに違いない。他の山だったら確実にアウトだろう。
山Cによるともうちょっと先に山頂がある、とのことだった。
山頂が近づいてくるにつれ僕たちはいつの間にか歌い始めていた。多分、角ちゃんが歌い始めたんだと思うけど。しかも、なぜか童謡ばかり。なぜ童謡。すると六甲山頂を指し示す道と標識が見えた。頂上はもう少し。でも、僕らは無視してまっすぐ進んだ。
しばらくして、またしても六甲山頂を指し示す道と標識を確認した。でも、僕たちは構わず無視して突き進んだ。
誰かが「あれ?この道さっき通った道じゃ…」と言い出した。
世にも奇妙な物語。
違う。そんなんじゃない。確実に木の高さが低くなってきている。山頂に近づいている証拠だ。
そしてまたしても六甲山頂を指し示す道と標識を見つけてしまった。今度ばかりは、もう無視していられない状況だ。みんな疲れているようだ。日の出まであと一時間ほど。僕らはその道を選択した。
―僕らはみんな生きている。生きているから歌うんだ―
もう、足が攣りそうだった。でも、あと少し。
―僕らはみんな生きている。生きているから悲しいんだ―
構わず進み続ける。
―手のひらを太陽に透かしてみれば―
太陽出てねえよ。
―真っ赤に流れる僕の血潮―
脚の付け根が痛い。それをかばいながら登る。
―ミミズだって、オケラだって、アメンボだって―
見えてきた!!
―みんなみんな、生きているんだ―
―友達なんだ~―
着いた。ここが六甲山頂なのか。さすが山頂。何もない。でも、僕は充実感でいっぱいだった。みんなもそうだったに違いない。
六甲山最高峰。海抜931m。
思いつきで登れてしまうんだな。
しばらくして、ちらほらと西に沈みそうな満月を見ながらお団子を食べ出すひとが…。じかし残念ながら僕はお団子は持っていなかった。だからお団子の代わりにおにぎりを食べた。山頂で食べるおにぎりは最高だ。
でも疲労は最高潮に達していた。地べたに寝そべる人が続出。寒かったけど、それはそれでいいのだ。
そして待つこと一時間。
カップルが現れた。
別に待ってたわけじゃあないけど。
それはカップルにとって最悪の事態に違いなかった。
被害者Aさんの証言
―あなたが見たという、その集団について話をお聞かせくださいますか?
A:ええ。僕にとっても久しぶりの休暇だったんです。敬老の日で。ですから彼女を連れて車で六甲山頂まで行ったんですよ。山頂で朝日を見ようと思って。思ったより早く着いたみたいで日の出まで山頂の近くにあるベンチで少し休んでいました。でも、しばらくすると歌声が聞こえてくるんですよ。「僕らはみんな生きている~」って。何事かと思いましたよ。
―い、一体何が来たんですか?
A:その時はよく見えなかったんです。暗かったですし。それで、後で何だったのか見に行こうっていう事になって…。
―見に行ったんですね?
A:はい。そうです。一時間後に山頂へ向かいました。
―彼らの正体は何だったのでしょう?
A:分かりません。登山部とかじゃあないと思いますよ。明らかに山をナメた格好でしたから。僕が山頂に行った時多くの人が同じ方向に倒れていました。
―倒れていたんですか?
A:ええ。全員ではありませんが。歩いてきたんでしょうね。
―それで、その後どうされたのですか?
A:一緒にいるのも気まずかったので彼女と一緒に少し離れたところに行きました。
彼女は「絶対にアレ宇宙交信部よ!」と言ってましたね。
―なぜでしょう?
A:なんか、あの中のメンバーが大空に向かって交信をしていたって言うんです。
―ますます、謎ですね。六甲山に集まる謎の集団について伺いました。ありがとうございました。
もう、空は白くなってきていた。朝だ。でも、まだ太陽は見えない。しかし、みんなモーニングエクササイズをしていた。
「きえがおらな踊れんわ」
確かに。
でも実を言うとそうこうしているうちに太陽はいつの間にか姿を表していた。
いつの間に…!!
どうやら雲が太陽の姿を隠し続けていたようだ。まあ、出てくる瞬間は見えなかったけど綺麗な日の出だ。
感動した。
あのカップルも別のところでこの朝日を眺めているのだろう。
満足だ。よし、下山しよう!!次なるターゲットは有馬温泉だ!!
六甲山頂付近から眺めおろす山々は神秘的だ。まるで仙人が住んでいるかのような光景だ。雲の形はまさに芸術的といってよかった。
(つづく)
次回予告
六甲山登山(下)有馬温泉編
中秋の名月は段々と西へ傾き、空にはオリオン座などの冬の星座がちりばめられている。山頂まであと少しだ。照明のない道をゆっくりと進む。月の光が明るい。夜の山道なのにこんなに呑気に歩いていられるのも、きっとここが六甲山だからに違いない。他の山だったら確実にアウトだろう。
山Cによるともうちょっと先に山頂がある、とのことだった。
山頂が近づいてくるにつれ僕たちはいつの間にか歌い始めていた。多分、角ちゃんが歌い始めたんだと思うけど。しかも、なぜか童謡ばかり。なぜ童謡。すると六甲山頂を指し示す道と標識が見えた。頂上はもう少し。でも、僕らは無視してまっすぐ進んだ。
しばらくして、またしても六甲山頂を指し示す道と標識を確認した。でも、僕たちは構わず無視して突き進んだ。
誰かが「あれ?この道さっき通った道じゃ…」と言い出した。
世にも奇妙な物語。
違う。そんなんじゃない。確実に木の高さが低くなってきている。山頂に近づいている証拠だ。
そしてまたしても六甲山頂を指し示す道と標識を見つけてしまった。今度ばかりは、もう無視していられない状況だ。みんな疲れているようだ。日の出まであと一時間ほど。僕らはその道を選択した。
―僕らはみんな生きている。生きているから歌うんだ―
もう、足が攣りそうだった。でも、あと少し。
―僕らはみんな生きている。生きているから悲しいんだ―
構わず進み続ける。
―手のひらを太陽に透かしてみれば―
太陽出てねえよ。
―真っ赤に流れる僕の血潮―
脚の付け根が痛い。それをかばいながら登る。
―ミミズだって、オケラだって、アメンボだって―
見えてきた!!
―みんなみんな、生きているんだ―
―友達なんだ~―
着いた。ここが六甲山頂なのか。さすが山頂。何もない。でも、僕は充実感でいっぱいだった。みんなもそうだったに違いない。
六甲山最高峰。海抜931m。
思いつきで登れてしまうんだな。
しばらくして、ちらほらと西に沈みそうな満月を見ながらお団子を食べ出すひとが…。じかし残念ながら僕はお団子は持っていなかった。だからお団子の代わりにおにぎりを食べた。山頂で食べるおにぎりは最高だ。
でも疲労は最高潮に達していた。地べたに寝そべる人が続出。寒かったけど、それはそれでいいのだ。
そして待つこと一時間。
カップルが現れた。
別に待ってたわけじゃあないけど。
それはカップルにとって最悪の事態に違いなかった。
被害者Aさんの証言
―あなたが見たという、その集団について話をお聞かせくださいますか?
A:ええ。僕にとっても久しぶりの休暇だったんです。敬老の日で。ですから彼女を連れて車で六甲山頂まで行ったんですよ。山頂で朝日を見ようと思って。思ったより早く着いたみたいで日の出まで山頂の近くにあるベンチで少し休んでいました。でも、しばらくすると歌声が聞こえてくるんですよ。「僕らはみんな生きている~」って。何事かと思いましたよ。
―い、一体何が来たんですか?
A:その時はよく見えなかったんです。暗かったですし。それで、後で何だったのか見に行こうっていう事になって…。
―見に行ったんですね?
A:はい。そうです。一時間後に山頂へ向かいました。
―彼らの正体は何だったのでしょう?
A:分かりません。登山部とかじゃあないと思いますよ。明らかに山をナメた格好でしたから。僕が山頂に行った時多くの人が同じ方向に倒れていました。
―倒れていたんですか?
A:ええ。全員ではありませんが。歩いてきたんでしょうね。
―それで、その後どうされたのですか?
A:一緒にいるのも気まずかったので彼女と一緒に少し離れたところに行きました。
彼女は「絶対にアレ宇宙交信部よ!」と言ってましたね。
―なぜでしょう?
A:なんか、あの中のメンバーが大空に向かって交信をしていたって言うんです。
―ますます、謎ですね。六甲山に集まる謎の集団について伺いました。ありがとうございました。
もう、空は白くなってきていた。朝だ。でも、まだ太陽は見えない。しかし、みんなモーニングエクササイズをしていた。
「きえがおらな踊れんわ」
確かに。
でも実を言うとそうこうしているうちに太陽はいつの間にか姿を表していた。
いつの間に…!!
どうやら雲が太陽の姿を隠し続けていたようだ。まあ、出てくる瞬間は見えなかったけど綺麗な日の出だ。
感動した。
あのカップルも別のところでこの朝日を眺めているのだろう。
満足だ。よし、下山しよう!!次なるターゲットは有馬温泉だ!!
六甲山頂付近から眺めおろす山々は神秘的だ。まるで仙人が住んでいるかのような光景だ。雲の形はまさに芸術的といってよかった。
(つづく)
次回予告
六甲山登山(下)有馬温泉編
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