Cafe シネマ&シガレッツ

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★髪結いの亭主

2006-12-04 | 映画1990年代
「カッコイイから聞いて、聞いて!」とRちゃんがCDを買ってきた。青い表紙にターバンを巻いた髭の優しげな男。タシッド.タハの「Diwan 2」というCD。彼はアルジェリア人ロック歌手。聞いてみると超がつくほどカッコイイ! 特に1曲目の「エクート.モワ.カマラード」は異国情緒たっぷりなうえにアレンジがお洒落。タンゴのセステート.マジョール楽団の演奏聞いた時みたいにお尻の辺が落ち着かない気分にさせられました。

てな事で、アラブ系音楽が強烈だった「髪結いの亭主」を再見。
この映画、数年前にDVDを借りて見て感動!
再び見て。。。こんなに奇妙な映画だったけ?!
とかいいながらやっぱり最後、いい意味で何ともいえない気持ちになりました。こんな恋愛してみたい。。。ヒロイン、マチルド役のアンナ.ガリエナは特別美人じゃないけど絶世の美女!ルコントマジックです。そしてもう一人のマジシャンは、主人公アントワーヌ役のジャン.ルシフォール。この人に変質的純愛を演じさせたら右に出る者なし!ルコント映画「タンゴ」にチョイ役で、愛する嫁さんのためにホテルの下働き。彼女の浮気を手助けするうえに浮気相手にその情事を聞く男。そんな役をやってるんですが説得力ありすぎでした。そこまで女房が好きか?って。
「髪結いの亭主」にてジャン.ルシフォールの魅力炸裂!!

お話は、現実なのに不思議が帯びています。主人公アントワーヌの世界がちょっと変わっているから。青空のもと、アラブ系音楽に乗って変な踊りをしている少年。これぞアントワーヌ12歳!母親の編んだサクランボのボンボンのついた海水パンツが擦れるおかげで、股間のタマへの関心が高まった頃。。。彼は絶世の美女(といっても化粧が濃いふくよか肉体派で体臭がきつい)独身の床屋さんにはまってしまい、床屋通い。ある時、うっとり気分でシャンプーしてもらっていると。。。偶然にも彼女のボタンが外れていて、そのふくよかな乳房を目撃!何も手につかないほどの陶酔!この時からアントワーヌは髪結いの亭主になるんだ!と心に決めました。ま、この辺まではよくある少年期の思い出で済まされるんですが。。。彼女が薬を飲み過ぎて死んじゃうんです。しかもアントワーヌは、ガラス越しに悩ましいその死体を目撃!白衣の下の白くて豊満な太もも、強烈です。この日から彼は彼女を思って生きて行きました。
そして30数年後。
会ってしまったんですね。次なる恋し愛す床屋の女性。運命の女性マチルドに!
不思議な事にマチルドも彼の突飛なプロポーズをあっさり承諾し、めでたく結婚。父親はショックで心臓麻痺で死去。うわっ、ありえない展開。美容院で式を挙げていたんですが、アントワーヌがあのアラブ音楽に合わせて踊り始めます。あの12歳の夏の彼のように!同席していた伯父さんや兄夫婦はきょとんと呆れ顔。マチルドは受け入れる笑顔で微笑んで見ています。マチルドってホント不思議。親戚縁者、過去もない女。あるのは美容院と愛だけ。まさにアントワーヌの望んでいた女性なのです。
こんな2人だから、これより先の結婚生活10年はもっとありえない生活なのでした。店が閉まれば美容院は2人だけの世界。子どももいらない、ともだちとの交遊も旅行もいらない。アントワーヌはいつでもマチルドを愛おしい目で追い、マチルドは笑顔と官能で応える。。。
ところが、マチルドはある時から客の一人が年をとった事を気にし始めます。客の一人から詩の一遍を聞かされます「魅力ある物も,それがなくなる日が来る。。。薔薇の香りのような甘い苦悩。。。」マチルドの胸には塵が積もるように不安が積もってゆきます。
そんな時、2人には一度きりの些細ないさかいをします。眠れないアントワーヌが煙草を吸っていると、これもまた眠れないマチルドが起きて来て。。。仲直りに2人で煙草を吸い、お酒の代わりに店にある色とりどりのオーデコロンやらアフターシェーブやらブレンドして大騒ぎ!楽しそうな事!幸せそうな事!あの踊りを踊り、2人は体を重ね愛し合う。マチルドは「今世界中でどれだけの人がセックスしているかしら?でも誰よりあなたに抱かれている私が一番幸せ!2人が別れるときは死ぬ時だけ...」
朝、目覚めると、窓から覗いている12歳の少年アントワーヌ。。。何故?
天井のヒビ。。。
老人ホームに入ったアントワーヌの叔父を訪ねると「ここは死の世界さ」と老人の醜さを見せつけられ、仲良さそうな老夫婦さえ「そんなモノじゃない」と否定され。。。
客の「死は突然訪れる」という会話。
夕立(マチルドは何故か夕立が来そうと外を眺めます)
自らアントワーヌの体を求めるマチルド。見ている私の不安を吹き飛ばすようなマチルドの満足そうな微笑み。
そして突然、マチルドは雨の中傘もささず買い物だと言って飛び出します。濁流を見つめるマチルド。。。愛し過ぎて愛されすぎて、未来が怖くなったマチルドは。。。!?突然の展開に驚くと同時に、突然すぎてポッカリと心に空洞が出来たみたいです。一人残されたアントワーヌのように。
アントワーヌは美容院でポツンと一人、クロスワードパズルを解いています。マチルドの自殺を知らないアラブ人が飛び込みの客。アントワーヌはあの踊りを披露し2人で踊ります。体をくねらせテンション高く!いつも床屋さんの女性の官能と結びついていたあの踊り。でもそこには彼女は、もういない。
ふと思い出したようにアントワーヌは言います。
「妻はじきに帰ってきます...」
長い沈黙の中、何事もなかったようにクロスワードパズルをしながら彼女を待つフリをするアントワーヌは...いと、哀れなり。胸が痛く涙が出ました。そのくせこんな恋愛してみたいと思うのでした。いい映画です。しばし放心。。。

(1990/仏 監/パトリス.ルコント)




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