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2017年から「マタハラ防止措置」事業主に義務化、「脱長時間労働の突破口に」

2017-01-25 13:01:21 | 労働
 セクハラやパワハラの認知が広がるなか、近年新たに注目されているのが、妊娠・出産などに関する嫌がらせ「マタハラ(マタニティハラスメント)」だ。2017年1月1日には、マタハラ防止措置が盛り込まれた改正育児・介護休業法が施行された。

 法改正によってマタハラの被害を防ぐことはできるのか。そもそも、マタハラにあたるのはどのような言動、対応なのか。マタハラ問題に取り組む圷あくつ由美子弁護士に聞いた。(取材・構成/ライター・吉田彩乃)

法改正のポイント

――「マタハラ」をめぐる法改正とは、どのような内容なのでしょうか?

 近年、職場の上司・同僚から妊婦に投げかけられるハラスメント言動などが「マタハラ」として社会問題化しました。これを受け、2016年3月、均等法・育児介護休業法が改正され、いわゆる「事業主のマタハラ防止措置義務」が新設されました。

 これは、事業主に対し、マタハラにあたるような上司・同僚らの言動を防止する措置を具体的に講じなさいと義務付けるものです。事業主は、この措置を2017年1月1日から始めなければなりません。

――具体的には、事業主はどんな措置を講じる必要があるのでしょうか?

 (1)事業主自らがトップダウンで、職場でのマタハラは許さない、マタハラを行えば厳正に対処するという方針を明確に打ち出すことや、(2)適切に対応できる相談窓口などを整備すること、(3)相談が来たら、事実確認から行為者処分まで迅速かつ適正に対応することなどが義務付けられています。

 これらは既にセクハラについて義務付けられているものですが、マタハラの場合、上記に加え、独自の措置義務として、新たに「業務体制の整備など、事業主や妊娠等した労働者その他の労働者の実情に応じ、必要な措置を講ずること」という内容が加わっており、この点は注目です。

――なぜ「業務体制整備」の措置義務について注目すべきなのでしょうか?

 妊婦のいる職場において、妊婦が長期間休んだり、妊婦の業務が軽減された場合、事業主が何の措置も講じなければ、そのしわ寄せをまともに受けるのは、同僚たちということになります。

 しかし、そうしたしわ寄せがいかぬよう、業務に穴が開く実情に応じ、必要な措置を講じなければならない責任を負うのは、ほかならぬ事業主です。今回、この点が、「業務体制の整備など、事業主や妊娠等した労働者その他の労働者の実情に応じ、必要な措置を講ずること」として規定され、事業主の義務として、改めて確認されるに至りました。

 この「業務体制整備」の措置義務の規定を通して、同僚たちが、しわ寄せによる不満やストレスを、法的責任を負う事業主ではなく、妊婦にぶつけて「マタハラ」を生じさせることは、そもそも「筋違い」であることが周知されれば、と思います。そもそも、同僚の方々も一労働者であり、自身の労働条件や職場環境について、事業主に対し、職場内で連帯して具体的対応を求めることが、労働者の権利として認められています。

 事業主が率先して「業務体制整備」を講ずべきことはもとより、同僚の方々も、この措置義務を活用し、事業主に対し、当事者目線の具体的な「働き方改革」のアクションを行っていただきたいと思います。

「マタハラ」になる言動

――そもそも、「マタハラ」として許されないのはどのような言動なのでしょうか。「マタハラ」という言葉について、法律上の定義はあるのでしょうか?

 法律にはマタハラを定義づけたものはなく、今回の改正でも設けられていません。その代わり、といっては何ですが、今回改正された均等法・育介法に基づく指針では、事業主が防止すべきハラスメントの範囲を、妊娠・出産・育児関連にとどまらず、介護関連にまで拡大し、これらを網羅的に、「職場における妊娠、出産・育児休業等に関するハラスメント」と呼んでいます。指針では、各類型ごとに具体例も挙げています。

 この指針について厚労省はホームページ上で、「いわゆるマタハラ防止措置の適切かつ有効な実施を図るために定められた」ものと説明しています。同省では、少なくとも、この指針の類型のうち、妊娠・出産関連のハラスメントを「マタハラ」と呼んでいると考えることができます。

 厚労省がパンフレットで挙げている、「マタハラ」の具体例の一部を以下に紹介します。

・産前休業の取得を上司に相談したところ、「休みをとるなら辞めてもらう」と言われた。

・上司・同僚が「自分だけ短時間勤務をしているなんて周りを考えていない。迷惑だ」と繰り返し又は継続的に言い、就業を継続する上で看過できない程度の支障が生じる状況となっている(意に反することを明示した場合に、さらに行われる言動も含む)。

・上司に妊娠を報告したところ「他の人を雇うので早めに辞めてもらうしかない」と言われた。

 その他、指針には、以下のいわゆる「パタハラ」と呼ばれるものも挙がっています。

・育児休業の取得について上司に相談したところ、「男のくせに育児休業を取るなんてあり得ない」と言われ、取得を諦めざるを得ない状況になっている。

 私自身は、マタハラとは、労働者が妊娠・出産・育児休業などを理由に、事業主から不利益取扱いを受けることのほか、上司・同僚から、身体的・精神的苦痛を受けたり、職場環境を害されることも広く含まれる、と考えています(2015年3月30日記者発表「2015マタハラNet白書(抜粋版)。指針では、社会一般でマタハラ言動と言われるもののうち、いわゆる手堅い部分を規定したにとどまり、それのみに限定する趣旨ではないと捉えています。

全労働者にとっての「脱長時間労働」実現を

――マタハラ防止措置のほかに、注目すべき改正のポイントは?

 改正育介法では、非正規社員の方が育休を取得するハードルも低くなりました。これまで、非正規の方々は、どうせ育休も取れないんだから、(労基法上認められている)産休も取らせない、とっとと辞めろ、などと言われ、妊娠を告げた途端、退職を強要されるといった例も散見されました。

 本来、妊娠・出産という人としての営みに、正規と非正規の区別があってはならないはずです。この改正によって、非正規の方々も、安心して妊娠・出産・母体回復に専念しつつ、就労継続できる環境が整備されることを願ってやみません。

 マタハラ問題の背景には、「24時間働けますか?」という根深い日本の職場風土があります。時間場所問わず無制限に働けなければ「一人前」ではない。自身の「生活時間」を投げ打って長時間働く者が奉仕者として評価されるという制度です。

 そもそも、労働者は生身の人間です。しかしながら、私たちは、長時間労働が常態化する日本の職場に、自分たちの生活時間(睡眠時間、家族や仲間とのプライベートの時間、地域で過ごす時間、勉強する時間)、健康、命まで、からめとられています。

 電通の新入社員だった高橋まつりさんの自死事件から1年。今こそ、目指すべきは、脱長時間労働です。そのヒントはマタハラ対策にあります。長時間働けない妊産婦・育児中の労働者が、残業を前提とせず、どうやったらいきいきと働ける職場環境になるか。会議を夜から昼に設定する、意思決定までの無駄な業務・プロセスをカットするなど、職場全体の「業務体制整備」の抜本的な見直しを図ることが、全ての労働者にとっての真の「働き方改革」、生きやすい社会環境となるはずです。

 今回の措置義務化を契機とするマタハラ対策が、全労働者にとっての「脱長時間労働」という新たな職場づくりの突破口となることを願ってやみません。

【取材協力弁護士】

圷あくつ由美子ゆみこ弁護士

 2000年登録。都労働相談情報センター専門相談員、「かえせ☆生活時間プロジェクト」発起人、担当に日本マクドナルド店長(名ばかり管理職)事件など。マタハラ当事者を引合せ「マタハラNet」を立上げから法人化まで支援。講演、執筆(2015年夏号「上司の妊すぐ」など)、研修用DVD監修((株)アスパクリエイト、(株)自己啓発協会など)など通じ、真の「働き方改革」を目指す。小5、3歳の母。

所在エリア:東京千代田区

事務所名:旬報法律事務所

(2017年01月20日 読売オンライン)
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