中小企業のための「社員が辞めない」会社作り

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全身を耳にして記録する

2016年12月21日 | コンサルティング

上司 「今日の打合せの中で重要だったのは、ここではないよ」

部下 「えっ!違いますか?」

上司 「もう一度、記録を読み返してみて。先方とのやり取りの中で一番重要だった箇所は、ここではな  いことがわかるはずだよ」

部下 「私のメモには、これ以外のことは何も書いていないのですが・・・」

上司 「・・・・・」

これは、入社1年目の営業パーソンと上司とのやりとりです。上司の営業に同行した後に、お客様との打合せ内容をまとめるように命じられた際のことです。

部下としては、お客様と上司のやり取りを聞きながら、大切だと思うところをメモし、それを記録として書き出したつもりなのですが、上司からは冒頭のとおり指摘されてしまったのです。

しかし、「重要なところはここではない」と言われても、自分のメモにはこれ以上のことは記録していないために、確認する術がありません。

弊社がコンサルティングで様々な営業パーソンにお会いする中で思うのは、新人営業パーソンや伸び悩んでいる営業パーソンには、共通して「メモをとらない、とれない」傾向があるように感じています。

当人にメモを取らない理由を質問してみると、「大切なポイントだけを書けばよいのでは」「話の概要だけを記録しておけばよい」と考えていたり、「商談中に記録したりすると、お客様の顔を見られない」からとの答えが返ってきます。

確かに、記録しながら次の質問を考えることは容易ではないです。手元のメモに集中しすぎてしまうと、お客様がどのような表情をしているかを確認することが疎かになってしまい、話の流れをうまくリードできなくなってしまう心配があることも事実です。

しかし、冒頭の例のように肝心なところだけを書こうと意識しすぎると、逆に肝心なところが漏れてしまったり、自分の判断だけで要約したりすると大切なところが抜け落ちたりします。

その結果、大切なポイントを掴めなかったり聞き逃ししまったりするのであれば、元も子もありません。

そこで弊社では、新人をはじめ数字に伸び悩んでいる営業パーソンに対しては「どれが重要か重要でないかは関係なく、まずは何でもかんでも全てメモをとる」ことを勧めています。

たとえ、話が玉石混交だったとしても、情報を漏らさず集めることが先決ということです。商談の場では全身を耳にして、一言一句逃さずに記録するのです。

もちろん、会話のやり取りをきちんと記録するのは簡単ではありません。何度も同じことを言ったり、前に戻って言い直したり・・・、後から読み返すと意味がわからない記録になってしまっていることもあります。

このように説明すると、「雑談や余談までメモをするのですか?」「それは無駄ではないですか?」と聞かれたり、さらに「そこまでするのであれば、録音すればよいのではないですか?」との質問を受けたりすることがあります。しかし、やり取りを全て記録することは決して無駄な作業ではありません。

一見、遠回りとも感じられるこれらの作業を粘り強く繰り返していくことで、だんだんとメモを取りつつ頭の中で話の筋道を整理できるようになり、その結果、話の論点を的確につかめたり、重要なポイントがどの部分であったかなどがきちんとわかるようになります。

因みに、経験がある方はお分りだと思いますが、録音から記録をおこすのはもともとの時間も加えると、結局はかえって余分な時間がかかってしまいますから、弊社ではお勧めしていません。

さて、冒頭の営業パーソンですが「全身を耳にして記録」し続けた結果、今では中堅の営業パーソンに成長し、後輩の指導にあたっています。そこでは後輩に「すべて記録するんだ、記録の量がまず大切だ」と繰り返し語っています。

かつて自分が上司に言われたように。

(人材育成社)