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熊本地震を口実にする安倍政権の本当の誤算

2016年04月21日 | 政治

 

基本構想の練り直しに迫られる

2016年4月21日

 熊本地震の発生から一週間が経ちました。被災者の方々は本当にお気の毒で、早く正常な生活に戻れるよう願っております。この間、安倍政権が地震を理由に懸案を次々に先送りし、当座はこれでしのげても、基本的な政治、経済構想の練り直しに迫られることになりましょう。


 おおさか維新の会の片山氏が「タイミングのいい地震」と口走ったのは軽率でした。軽率というのは、多くの被災者を前に、そんなことをいうべきではないというのと、安部首相は逆に「タイミングが悪すぎる地震」と思っている違いないからです。政権の基本構想の中身、日程をどう修正していけばいいのか、頭を抱えているはずです。


 消費税引き上げ、夏の衆参同日選挙、TPP(環太平洋経済連携協定)法案など、難しい判断を迫られている難題について、熊本地震を理由に次々に先送り、見送りの腹を固めつつあります。地震を先送りの理由に掲げれば、面と向かって反対はされませんし、首相自身も傷がつきませんから。でもどうなのでしょうか。事務的、日程的に無理になった面があるにせよ、「すべては地震のせい」にしてしまうことにはかなりの無理があります。


被害は震災ではなく地震の規模


 2011年の東日本大震災は死者・不明は1万8500人、被害総額15兆円ないし25兆円でした。1995年の阪神淡路大震災は死者6400人、被害総額10兆円でした。それに比べると、熊本地震は死者約50人で、「震災」とは命名されていません。


 熊本城の損壊、南阿蘇村の惨状など、テレビの映像から受ける印象は悲惨です。では被害の規模はというと、局地的な影響は深刻でも、全体の被害状況はこれまでの震災と明らかに規模が違います。これまでの震災と比べた被害規模、経済的な影響を政府が算定すべきです。本来なら、安倍政権が重要な懸案を次々に先送りする理由には使えません。


 まず同日選の見送りです。同日選による衆参の相互補完で圧勝を計算した安倍政権の狙いには、周囲の反対も強く、地震による事務的作業の停滞が見送りの理由にされたとしても、それが正解だと思います。地震が起きなくても、見送りになったかもしれません。首相にとって困ったのは「これで憲法改正の道筋が狂ってしまった。次のきっかけをつかむつかむのが難しい」と、悔んでいるでしょう。


消費税上げ断念はアベノミクスの不調


 消費税の10%への引き上げも、先送りの観測がもっぱらです。「地震は景気を冷え込ませ、消費税上げがそれに重なる」、「被災地に人たちには過酷な増税となる」が理由です。どうなのでしょうか。「アベノミクスが景気浮揚でめぼしい効果を上げず、消費増税に耐えうる経済状況が作りだされていない」が真相でしょう。理由を地震にすり替えてはいけません。


 当初は同日選挙を仕掛け、「消費税先送り」で有権者を誘い込み、大勝する計算だったのでしょう。衆参3分2以上の議席を得て、憲法改正へ。2つをセットにする道筋が封じられてしまうことは、安倍政権の大きな誤算でしょう。熊本地震の発生以前から政権の構想はぐらつきだしていたのです。


異次元緩和の追加も難しく


 首相と2人3脚の黒田総裁の異次元緩和の先行きも怪しなりました。「震災」の場合は、追加金融緩和の理由に使えても、熊本地震ではそうはいきません。さらに米国のルー財務長官が「為替安競争」に警告を発し、日本が円高修正に動かないようクギを刺しました。


 日本は5月のサミット(首脳会議)の議長国ですから、国政選挙やアベノミクスのテコ入れのために、追加緩和して不協和音をたてることを避けねばなりません。異次元緩和による円安と株高を除くと、アベノミクスの成果は上がっていません。その道がふさがれるとなると、これも大きな誤算となります。基本構想の再構築が必要になってきました。

 

 



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