付け焼き刃の覚え書き

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「乾燥標本収蔵1号室」 リチャード・フォーティ

2011-08-23 | エッセー・人文・科学
 大英自然史博物館のなりたちから現在の姿までを、そこに務める研究員たちのエピソードを積み上げることで簡単に振り返っていこうというスタンスの著書。博物館の形容として、「ゴーメンガースト城のような」という表現が何度も出てくるけれど、どれだけ気に入ってるんだろう?

「科学には意見の相違がつきものなのだ」

 博物館の科学者たちの研究対象は、門外漢には無限とも思える植物・動物・昆虫・細菌から鉱物まで。それぞれが専門を持っているといっても、その数は何万となるのがあたりまえ。地球にどれだけの種類の生物がいるかは不明ながら、少なめに見積もっても現在命名されているのは、何百万という種の半分にも達していないのだとか。今さら増えるのかと思ってしまう鉱物ですら、毎月2~30種が発見され命名されているのだそうです(砂粒レベルまで検査できる機器の発達の賜物です)。
 そして、一生懸命に命名し分類しても、何かの弾みでその系統ががらっと変わることもしばしば。遺伝子配列などが調べられるようになると、1つのグループと思われていたトリュフが2つのグループに分かれることが判明したり、シロアリとゴキブリが近親種だと判明したりするのですね。貝の外見は酷似しているタマビキガイが、DNA配列からまったく別の進化系統から発生したという話には「平行進化だ!」と思ったり。
 そういうわけなので、DNAでバーコード管理するのが精一杯で、個別の特性とか行動習慣などを把握するまで手が回らないのだそうです。
 そんな話を科学者たちのエピソードを紹介しつつ展開しているのですが、隠花植物(cryptogams)学者が暗号(cryptograms)の専門家と間違われてエニグマ暗号の解読に狩り出された話とかアフリカをヒトクイバエから救った話などから、研究者同士のいがみ合いやら奇行まで。
 ただ、「こんなことが何の役に立つんだ」と予算を減らされたり、受け持つ専門を変更させられたりすることもあるようですが、こうやってコレクションし、分類し、種を見極める目を持った者たちがいたからこそ、さまざまな害虫の蔓延を水際で食い止めたりもできるわけで、結論としては「コレクターはいかなるコレクションも放棄しない」ということになる気がします。

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