ジネンカフェだより

真のノーマライゼーション社会を目指して…。平成19年から続いているジネンカフェの情報をお届けします。

ジネンカフェVOL.036レポート その6

2010-03-11 15:48:20 | Weblog
 パネルトークのラストを飾るのは、社会学者で心理カウンセラーでもあり、現在は名古屋大学国際交流推進センターの特任准教授として、海外からの留学生たちの心の問題と向き合っておられる坂野尚美先生。坂野先生自身ふたつの難病を抱えていて、19歳ぐらいの頃に生死を彷徨っている。27歳ぐらいまで無事に生きられたら…。30歳まではもしかしたら生きられないかも知れないと云われていたという。無菌室にも入ったことがあるし、三ヶ月間ほど四肢麻痺で母親に食事を食べさせてもらった経験もされている。
人の生命力というものは、時として医学や人智を越えた奇跡を生み出すものだ。坂野先生は現在でも元気に大学の教員をされておられる。生きられるのであれば、何か人のために尽くしたいと思い、坂野先生はご自分も罹られておられる特定疾患の患者会を立ち上げられた。設立して一、二ヶ月過ぎた頃、いろいろな患者さんの話をひとりひとり全身全霊をかけて聴くのは、一日ひとりぐらいしか聴けないという限界を感じ、八ヶ月間カナダとアメリカの患者会へ研修に行かれた。だが、その研修から帰国してからも事態は変わらなかった。大学院も終わったし、これからどうしようという時に、社会学の博士課程か社会福祉学の大学院をアメリカで行こうとなんとなく決めたのだという。
しかし、アメリカの大学の募集要項を取りに行っている丁度その時に、記憶にも新しいニューヨークの同時多発テロが起こり、飛行機が飛ばなくなって日本に帰って来られなくなった。その時の経験が坂野先生の進路を決定づけることになる。ボランティアでテロに遇われた被害者や遺族の話を聴く機会に恵まれたのである。その時にその方たちの心がこれからどんなふうに癒えて行くのか一緒に見つめていたい、一緒に追体験して行きたいというふうに思い、社会福祉学を専攻することに決め、ニューヨークに留学したという。
運命のように社会福祉学の世界に入った坂野先生だったが、アメリカの社会福祉学は日本のそれとイメージが異なり、90%以上の人がカウンセラーになるそうで、坂野先生も最初はHIVの患者さんのサポートをして、翌年のインターンの時にメンタルヘルスクリニックでカウンセラーをされたという。
 現在勤務されている名古屋大学にも、学習障がいや発達障がいをもったまま留学してくる学生もいるそうだ。欧米からの留学生たちは自分にそういう障がいがあるということをダイレクトに言ってくれるが、アジアの学生は抵抗があるのでそこまで話を聞き出すのに時間がかかったりするそうだ。坂野先生や専門の医師は比較的簡単に診断名をつけて「こういう傾向がありますので、こういう治療をして今後進めて行きましょう」という計画をどんどん立てて行く。もちろん患者さんのショックを忘れてやっているということはないけれど、たくさんのケースがあるのでやはり流れ作業のようになってしまうことも、話を途中で打ち切ってしまうこともゼロではないと言い、障がいをもっている人の生の声を聴く機会もないという。なぜないのかと言えば、大学というところは結構会議が多くて、現在一ヶ月に40名ぐらいの留学生のカウンセリングをされていらっしゃるそうだが、継続ケースを15~18名抱えていて、それをまわそうとすると一日6名~8名のカウンセリングをしなければいけない。朝の10時から午後6時まで、びっしりカウンセリングが入って来るスケジュールになるのだ。
留学生は、金曜日はカウンセリングを受けたがらない。花金なので遊びに行く。月曜日から木曜日の間に来ることになるのだが、月曜日はうつ傾向がある人は来ない。水曜日は会議があり、そうなると火曜日と木曜日に全部まわさなければいけなくなるわけだ。継続ケースが15名~18名を2日で割ると6名~8名の計算になる。トイレにも行けないし、水も飲めない。久々にマッサージに行くと、「水分が足りない」と言われたりする。
現在名古屋大学には70ヶ国かから1,600名ぐらいの留学生が来ている。日本全国では13万名。これを10年以内に30万人にしようという計画があるという。名古屋の街にもこれからたくさん留学生が増えるのだが、逆に日本から留学の場合、短期なら圧倒的にオーストラリアが多い。現在日本とオーストラリアの提携校が300校ほどあるという。それ以降はアメリカ、イギリス、ドイツ…となっている。
70ヶ国から来ているとはいっても、それほど言語は話せないので、よく解らない英語とよく解らない日本語を喋りながら、坂野先生はカウンセリングを行っている。
これまでずっと専門機関にいた坂野先生は診断名を言ったり、治療方法を言ったり、薬の名前を言ったりすると、素直に解ってくれる環境にいたのだが、大学機関に入ったときに理解の疎い先生方に説明をしなければいけない。発達障がいなり、双極性障がいの方は特にそうなのだが、鬱の学生がいる時に、指導教科の先生方から「甘えているから学校に来れないんだ」とか、「怠け病なんだ」という第一声が返ってきて、これは大変だな~と思うことがたくさんあり、理解してもらうのにどれほど大変なのかを我が身をもって感じておられるという。
周囲の人たちに理解してもらうのに、こちらがすごくエネルギーを使ってもお話にならないなと思ったりするそうだ。どうしてもこういう環境が必要で、こういう理解が必要だということを告げてもなかなか解っていただけないことが多いという。障がいの説明するにも患者さんのご家族の場合には生活を共にしているため実際に困っていたり、悩んでいたりするので解っていただきやすいのだが、大学の先生たちはそうではないので、そこで説明するのも難解な作業になると気がついた坂野先生は、あまりにも難解なので理解を促すため、教職員向けの相談援助の仕方とか、受け答えの仕方とかの研修プログラムを作ったという。とはいうものの、大学の先生たちもストレスが溜まっている環境にいるので、アロマテラピーと重ねて研修プログラムを作った。ハーブティーを飲みながらやりましょう…みたいな感じで研修会を開いているそうだ。ハーブティーの魅力か、結構参加者が多いらしい。
その中でいままで行っていた日本人も含めた学習障がいとかうつの学生に対する関わり方が間違っていたと気づくことが多くて、その声を聴くために坂野先生は苦労して企画されているのだが、それには膨大な時間も必要だと思っているという。
坂野先生ご自身が難病をもっていて、いろいろな障がいや病気を受容するとき大変な想いをされたので、その経験を活用したいなと思って勉強し認められて、自分がカウンセラーをする側になった時にしかみえないものもあって、厚生労働省の科学研究班の中で特定疾患のピアカウンセリング、ピアサポーターを育てるプログラムを作って委員のひとりになっている。特定疾患患者で委員になっているのは坂野先生しかいらっしゃらないので、「特定疾患の患者さんはこんな気持ちです」と言おうものなら、そのまま通ってゆくようで恐ろしさも感じているという。
国の方でも、障がいのある方がどんな気持ちで暮らしているのか理解されていないので、解らないままにプログラムが進んで行ったりするそうだ。そんな時に「それはちょっと違うんじゃないですか?」と言うのだが、それを言うのも坂野先生ひとりだから「私が常識でよいのかな?」と思ったりするそうだ。
常識というのは難しい。ひとりひとり物差しも違うし、価値観も違うのでなにをしてほしいのか、どうしてほしいのか、それぞれが声をあげて行かないと社会は変わってゆかない。プログラムを作る時に坂野先生が発言されるのは、それぞれ個人の考え、こうしてほしいという望みが出来るだけ通りやすいような形をどこかに組んでほしいと…。そうでないと本当に個別な要求に応えられないものになってしまう。どこまでをわがままと思い、どこまでをサービス・支援と取るのか難しいと坂野先生は思われている。そういうところで一般の人たちが考える常識とか、精神医学の世界、心のケアというものが、専門家が考えるそれとは違うのかも知れないなあ~と思いながら4人のパネラーの話を聴いていたという。
坂野先生たちの仕事は、たくさん支援してあげたくても専門家として客観性を求められるというか、感情移入してはいけない部分があるのである。そうでなければ本当の意味での支援は出来ないのだという。本当に大変そうでたくさん支援してあげたい人に限って、距離を取らせていただくようにしておられるし、この人は受け入れられそうにないと思われる人に対しては近づく努力をされているそうだ。一般の人も受け入れられない人に対しては近づく努力をすれば良いし、支援したい人に対しては、たくさん支援が思いつくからこそいま一番何が必要なのかを考えるような冷静さをもっていただければよいのではないかと、思っていらっしゃるそうだ。
お話の最後に、坂野先生はこれまでいろいろな場面で繰り返し話してきた言葉で結ばれた。「生命には輝きがあって、その輝きはひとりひとり違います。その輝きは誰かが支援したり、自分自身が努力しないとその輝きは見いだせない場合もあります。その輝きは見失ったり、自分で失してしまったりすると、その輝きは消えてしまうのかなあ~と思うんですね。だからその人自身がもつ輝きを、その人自身が信じられ、それを支える社会的な環境と言いますか、社会のサポートがあれば、その人が従来もっていた輝きを深く輝き出せるような力になってゆくのではないかなあと思います。そんな生命の輝きをもっとみて! と言う意味が込められて、今回の企画もあるのかなあと。常識というのはその輝きの中にはなくて、その人らしく輝けば一番良いというところに豊かさや、豊かな社会というものがあるのではないかなあ~と思っています」

【テーブルトーク 坂野班まとめ】

坂野班は先生に対する個々の質問が相次ぎ、他のテーブルのように話題が膨らむ時間がありませんでしたので、それぞれにテーブルトークで思ったこと、感じたことを3つのカテゴリーにわけました。
 
●人って…
・自分のコトだけど。自分が決めた未来の重さにつぶされそうになることもある。ある。ある。
・人間いつも両極端な意見を持ってしまっている。例:「行きたいけれど、行きたくない」
・自然の移ろいに正直な心と体って、わかりやすい。
・人はみんな「病気」な時もあることに気づいた。
・いい格好をしても仕方がないと思った。
・自分のもてる力を出し、できるコトでうごく。
・心のうつに対して、薬である程度は状態はよくなるが、本調子とは違います。日本は「復帰」というのは難しい。ここの支援が足りない。

●ディスカッション~こうすると良い!? こんなこともできる!?
・自分のストーリーは、自分でいか様にも描ける。
・痛みとの付き合い方。ポイントだと思っていました。
・「イイカゲン」って大切。
・みんな自分のコトに関して「当事者」。当事者じゃないから見えるコト・言ってあげられるコト→それぞれが動くとイイカンジかな。
・あつまらないとはじまらない。あつまるから世界って広がる。
・自己の克服課題を的確に把握し、努力目標の設定、そして達成へと確実な一歩を踏み出したい。
・昔、無意識に不幸を望んでいたのを思い出し、今の自分は望んでそうなったのかなという気がしました。
・逃げたい時は逃げていい。
・逃げたい時は逃げる。

●今日の感想
・たくさんのお話が聞けて、もっとたくさん勉強しなければいけないと思いました。
・人に話ができる素晴らしさ。大切にしたいです。
・たくさんお話が聞けてよかったです。
・はじめましてでも話せる人間の強さと聴く力をもつ寛容さって、ヤッパリスゴイナー。
・自分が望まず努力して、そうありたい。
・無知の知。自分は病気である。
・一期一会を大切に。
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