▲幕末・明治維新をめぐる本 右端の方は『講座日本歴史』・『岩波講座 日本歴史』
幕末・明治維新をめぐる本
新書本・小型本、叢書・シリーズ本、岩波講座など その1-1
▲幕末・明治維新前後をめぐる本 新書本・小型本中心 戦後刊行の、左から概ね古い順から
上の幕末維新前後の時代を扱った新書・岩波全書・東洋文庫(平凡社)などの著者・編集者などの顔ぶれをみるとおおよそ、戦後、この時代の研究をリードした人々の一端がわかるのだが、これだけでは研究の変遷、より時代の研究の変化を見るのには、圧倒的に材料不足である。
今では、幕末・維新についての専門の研究会・学会があり年刊の研究彙報などもある時代であるから、研究者は、そちらから探ればこんな素人談義には目もくれないであろう。
したがって、一方通行の曲解になるかも知れないが、どうも、1980年代のバブル経済を経験した1990年代からの日本史(業界)は、左翼用語・リベラルお断りの流れが顕著になってきているように感じる。自国の歴史の無意識的な自画自賛を迫られるような雰囲気はいつどのあたりから生じているのか探ってみたい。仮説ではあるが、戦後日本のどこかに、歴史学者を巻き込むような歴史意識・歴史認識の断層がある(あった?)のだろうか?
戦後の各種歴史講座の中から、幕末・明治維新前後のシリーズ、戦後4回の東京大学出版会刊行の『日本史講座』、戦後4回の『岩波講座 日本史』、吉川弘文館から出た、『近代日本の軌跡』1明治維新、『日本の時代史』「20 開国と幕末の動乱」「21 明治維新と文明開化」などの論者の論考、有精堂の『論集 日本歴史』「9 明治維新」に収録された18本+解説などを年代順に掲げてみると以下の様になる。
最近亡くなった、中村雄二郎が、岩波書店が刊行している『思想』誌で、通巻500号が出た後で、「『思想』の思想史」といったと思うが、面白い論考を連載していたのを思い出す。
知らぬ間に、同じ仲間が、同じ関心と方法意識で取り組んできたと思ってきた事項やその成果は、50年単位程のタイムスケールで見てみると、使用する歴史用語の変化、主要テーマの変化にも絡んで興味深い事実が明らかになるかもしれない。
本来は、以下のような歴史学雑誌
『史学雑誌』、『歴史学研究』、『日本歴史』、『日本史研究』、『歴史評論』などから、該当項目の「幕末・維新」の論文テーマの拾い出しと読み込み・検討が最低限必要であるはずと思うが、
「どこかのある時代のゆっくりとした動きの中にも歴史認識の変容があり、歴史家も意識・無意識を問わず、現代世界・日本社会の変動に晒され、明治100年と明治150年の間には大いに、「近代というものの意味・認識」に変容があるのかも知れない。
以下の叢書・シリーズ・講座・論集ではおよそ100本ほどの論考が見込まれるが、これまで関心のあった古代史を除いては、意識的に論文そのものの時代変化に関心をよせたことはなかった。
読んだ論文に引用・参考文献に掲げられていて、該当原文に戻り参照することはあっても、50年以上のタイムスケールで、講座もののテーマを逐一意識的に調べることがなかった。
しかし、もしや2世代単位以上の推移の中からしか変化しないような重要な事実が得られるのではないかと密かに期待しているところだ。
今回その1-1 では、講座シリーズでの幕末・維新前後の論文名・執筆者名を掲載。
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1956-1957 戦後第一次 『日本歴史講座』 東京大学出版会
『4 近世ー近代』 1956年 (この巻は近世ー近代初を扱うため序論以外は、天保の改革以降を掲げる)
序論 奈良本辰也
天保の改革 津田秀夫
開港 田丸辻郎
尊王と攘夷 池田敬正
倒幕戦争 原口 清
反封建思想の萌芽 前田一良
『5 近代の展開』1956年
序論 遠山茂樹
維新政府について 大江志乃夫
地主制の成立 丹羽邦男
富国強兵・殖産興業 和崎皓三
民権運動について 下山三郎
近代天皇制の確立 小西四郎
条約改正と日清戦争 前島省三
産業資本の確立 藤井松一
明治文化の断層 色川大吉
日英同盟 江口朴郎
帝国主義成立期の政治過程 上杉重二郎
初期社会主義 川村善二郎
1962年~ 戦後第一次『岩波講座 日本歴史』岩波書店 全23巻
『14 近代1』 1962年 岩波書店
近代史概説 遠山茂樹
極東をめぐる国際関係 野原四郎
開国 小西四郎
幕末の政治情勢 田中彰
反幕諸勢力の性格 芝原拓自
列強の対日政策 石井 孝
幕府の倒壊と戊辰戦争 池田敬正
近代思想の萌芽 鹿野政直
1970年~ 戦後第二次 『講座日本史』 東京大学出版会
『5 明治維新』 1970年 東京大学出版会
序論 大石嘉一郎
田中正俊 世界市場の形成と東アジア
開港 中村 哲
世直しの状況 佐々木潤之助
討幕派の形成 高木俊輔
維新政権諭 田中 彰
地租改正 近藤哲生
殖産興業 川浦康次
日本型原蓄論 海野福寿
文明開化と在来思想 ひろた・まさき
自由民権運動 江村栄一
天皇制国家の成立 永井秀夫
1974年~1977年 戦後第二次岩波歴史講座 『岩波講座 日本歴史』全26巻 岩波書店
『14 近代1』1975年 岩波書店
近代史序説 大石嘉一郎
戊辰戦争と維新政権 下山三郎
統一政権の成立 永井秀夫
地租改正と地方政治 有元正雄
殖産興業と在来産業 近藤哲生
士族叛乱と民衆騒擾 後藤 康
啓蒙思想と文明開化 ひろた・まさき
1984年~1985年 第三次講座『講座 日本歴史』 東京大学出版会 1984年~1985年
『7 近代1』 1985年
はしがき
東アジアにおける近代 芝原拓自
幕末維新の国家と外交 宮地正人
維新変革における民衆 松田之利
領主制の解体と土地改革 中村 哲
殖産興業と豪農層 海野福寿
日本型賃労働と地主制 有元正雄
自由民権運動と専制政府 猪狩隆明
対外政策と脱亜意識 ひろた・まさき
1993年~1996年 戦後第三次岩波日本歴史講座 全21巻+別巻4巻『日本通史』岩波書店
『16 近代1』1994年 岩波書店
通史
1850-70年代の日本ー維新改革ー 安丸良夫
論説
開国 加藤祐三
維新政権諭 宮地正人
琉球から沖縄へ 我部政男
帝都東京 成田龍一
民衆運動と社会意識 鶴巻孝雄
文化論
文明開化論 牧原憲夫
特論
志士と民衆ー長州藩諸隊と招魂場 井上勝生
旧幕臣の明治維新 五十嵐暁郎
西郷隆盛と西郷伝説 佐々木 克
北海道の経営 桑原真人
1993年~1995年 『近代日本の軌跡』 全10巻 吉川弘文館
田中彰 編 『1 明治維新』 1994年
近代日本の序幕 世界史のなかの明治維新 田中 彰
東アジアのなかの日本開国 荒野泰典
開国前後 井上勝生
朝・幕・藩と尊攘倒幕運動 家近良樹
幕府遣外使節団と留学生 犬塚孝明
倒幕と統一国家の形成 松尾正人
岩倉使節団と大久保政権 菅原彬州
維新の三大改革 勝田政治
維新改革と宮中儀礼 高木博志
士族叛反乱と農民一揆 田村貞雄
開拓使政策と「琉球処分」 我部政男 川畑恵
フランス革命と明治維新 遅塚忠躬
2002~2004 『日本の時代史』全30巻 吉川弘文館
『20 開国と幕末の動乱』 2004年 吉川弘文館
開国と幕末の動乱 井上 勲
動乱の中の信仰 宮崎ふみ子
動乱の時代の文化表現 延廣眞治
「武威」の国―異文化認識と自国認識ー 池内 敏
徳川の遺臣―その行動と倫理― 井上 勲
明治維新とアジアの変革 山室信一
『21 明治維新と文明開化』 2004年 吉川弘文館
明治維新と文明開化 松尾正人
明治維新の光と影―草莽高松隊の明暗― 松尾正人
巡幸と祝祭日―明治初年の天皇と民衆― 牧原憲夫
岩倉使節団と信仰の自由 山崎渾子
文明開化の時代 中野目 徹
博覧会時代の開幕 國 雄行
士族反乱と西郷伝説 猪飼隆明
2004年 ~2005年 第4次日本史講座 『日本史講座』 全10巻 東京大学出版会
『7 近世の解体』 2004年 東京大学出版会
1 18-19世紀転換期の日本と世界 横山伊徳
2 伝統都市の終焉 吉田伸之
3 地域社会の成立と展開 奥村 弘
4 近世的物流構造の解体 斎藤善之
5 明治維新と近世身分制の解体 横山百合子
6 移行期の民衆運動 久留島浩
7 文化の大衆化 神田由築
8 産業の伝統と革新 谷本雅之
9 琉球・蝦夷地の「近代」
10 明治維新論 羽賀祥二
『8 近代の成立』 2004年 東京大学出版会
1 天皇主権の確立 小路田泰直
2 宗教と市民の誕生 山口輝臣
3 近代国家の成立――軍隊・学校・衛生 尾崎耕司
4 帝国体制と主権国家 小林啓治
5 土地所有秩序の変革と「近代法」 水林 彪
6 産業構造と金融構造 武田晴人
7 都市化と都市問題の成立 布川 弘
8 立憲制と専制 小関素明
9 近代知の成立と制度化 広田照幸
10 民権運動と社会主義 小松 裕
11 農村問題と社会認識 大門正克
2013年~2015年 戦後第4次岩波日本歴史講座 『岩波講座 日本歴史』全22巻 岩波書店
『15 近現代1』 2014年 岩波書店
近現代史への招待 吉田 裕
戊辰戦争と廃藩置県 松尾正人
地租改正と地域社会 奥田晴樹
殖産興業政策の展開 神山恒雄
地方自治制と民権運動・民衆運動 松沢祐作
北海道・沖縄・小笠原諸島と近代日本 塩出浩之
官僚制と軍隊 鈴木 淳
文明開化の時代 刈部 直
教育・教化政策と宗教 谷川 穣
この項 断続的に続く