見もの・読みもの日記

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婦人のたしなみ/ちりめん細工の今昔(たばこと塩の博物館)

2018-02-17 22:56:57 | 行ったもの(美術館・見仏)
たばこと塩の博物館 特別展『ちりめん細工の今昔』(2018年1月23日~4月8日)

 「たばこと塩の博物館」は、もと渋谷の公園通りにあったが、2013年9月に閉館し、2015年4月、現在の墨田区横川に移転して、リニューアルオープンした。公園通り時代には何度か行っていて、近世近代の生活風俗史や対外交流に関する企画展が面白かった記憶があるが、移転以後は、あまり食指の動く企画展がなくて、まだ行ってみる機会がなかった。今回はビジュアル的に面白そうだったので行ってみた。姫路市にある日本玩具博物館との共催で、第一部として江戸時代から明治・大正時代にかけての古作品を一堂に集め、ちりめん細工の歴史と文化を紹介し、第二部では、現代によみがえった平成のちりめん細工を展示する。

 ちりめん(縮緬)とは横糸に強い撚(よ)りをかけた生糸を用いることで表面に「しぼ」(凹凸)を出した絹織物。「一越(ひとこし)縮緬」「二越縮緬」「三越縮緬」などの種類があり、江戸から明治にかけて細工物には「ニ越縮緬」がよく使われた、という概説が冒頭にある。そういえば、京都で『大丹後展』を見たとき、初めて丹後ちりめんについて学んだことを思い出した。

 江戸時代後半になると、武家や商家などの裕福な家庭の女性たちが、ちりめんを使って小さな袋や人形、小箱などを作った。巾着袋は、寺院へ米や穀物を備えたり、親類知人に祝いの米を贈ったりするのに用いられたというのが興味深かった。いつ頃まで残っていた習俗なんだろう。米を贈答するのって、私は全く想像がつかなかった。浮世絵や歌舞伎役者の錦絵を「押絵」で表現した小箱や巾着は、プライベートな楽しみのために作ったものではないかと思う。スゲーと思ったのは『三十六歌仙の香箱揃い』。百人一首の絵札のように全て絵柄の異なるマッチ箱ほどの香箱が三十六種セットになっている。それから『御座船細工の懐中物』というのは、御座船を立体的にあらわしたものだが、たぶん畳むと煙草入れほどの平たい小袋になってしまうらしい。

 明治時代には、女学校の裁縫の教科書にちりめん細工が取り上げられている。まあ凝り性で器用な女学生もいれば、そうでない女学生もいたのだろうなあ。そのあと、子育てにかかわる細工物、祝い着の背紋飾りや守り袋が展示されていたが、当時、こうした小物類をつくれることは、家庭婦人の心得であったのだろうな。子供の身に着ける「守り袋」(書付などを入れておく)って、歌舞伎や文楽でしか見たことがなかったが、本当に普通に使っていたんだなと知る。簡素化したちりめん細工の迷子札もかわいい。

 後半は現代のちりめん細工。日本玩具博物館は、1980年代から古作品を復元する講座などを開設し、途絶えた手芸文化の復興に取り組んできたという。そうなのか。ちりめん細工のつるし飾りって、各地(福岡県柳川、伊豆稲取)に残っていると思っていたのだが、実はこれらも1990年代に「町おこし」として始まったのだそうだ。どんどん広まるといいと思う。私も元来、細工物は大好きなので、年をとったら、こういう手仕事に時間を費やしたい。

 ついでに常設展示も見てきた。「塩」の部と「たばこ」の部がある。「塩」の部は、以前の展示をあまりよく覚えていないのだが、ずいぶんあか抜けて現代風になった気がした。「たばこ」の部は、以前の記憶がよみがえる展示物がところどころにあって懐かしかった。昭和40年代くらいの煙草屋の店先を再現したコーナーがあって、庇の上に「業平たばこ店」という金属製のロゴ(近所の住所に合わせた店名)が見えるのだが、え?これ公園通り時代の館内にも有ったはず、と思った。以前の写真と見比べると、背景を障子戸にするなど、微妙に変化を加えているのが面白い。

 ほかにも、エントランスホールに、かつての博物館の模型があったり、見覚えのあるシンボルモニュメント(喫煙の像)が移設されていたのも懐かしかった。「喫煙の像」はタバコの葉(?)の冠と腰蓑をつけた上半身裸の偉丈夫が長い煙管で堂々と煙草を吸っている図。原型はスウェーデンのたばこ屋の看板だという。私は煙草を吸わないが、父親や大学の恩師など、喫煙者がまわりにいたので、煙草のパッケージや広告には、それなりの懐かしさを感じる。しかし、若い世代には、この感覚はどんどん薄れていくんじゃないかなと思った。

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