見もの・読みもの日記

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イメージはこんなもの/運慶・快慶(マンガ日本史)

2017-05-06 07:36:10 | 読んだもの(書籍)
〇マンガ:樋口彰彦、シナリオ:藤森啓『運慶・快慶:2人の天才仏師』(朝日ジュニアシリーズ)(マンガ日本史27 改訂版) 朝日新聞出版 2015.7
 よくある「週刊〇〇」というスタイルで刊行された薄いムック本である。およそ学習マンガなど描きそうにない、つまり自前の作品がよく売れていて、多くのファンが絵柄を知っているマンガ家、藤原カムイや池上遼一などを執筆陣に迎え入れた意外性に注目した記憶がある。買ったことはなかったのだが、奈良博の『快慶』展を見た後、図録だけでは物足りなくて、一緒に本書を買ってみた。

 だが、残念ながらあまりお勧めできる内容ではなかった。二人の主人公、運慶と快慶の描き分けが、あまりにも予想どおりである。まずビジュアルからして、運慶は目つきの鋭い精悍な男子で、快慶はいくぶん女性的な優男に描かれている。性格も見た目のまま。要するに、東国武士好みの力強い運慶仏と貴族好みの優美な快慶仏という俗流の理解をストレートに投影しているのである。快慶にもワイルド系の憤怒像があるし、運慶にも静謐で優美な像がある(岡崎・滝山寺の聖観音像とか)ことを思うと、とても納得できない。

 これは作画担当の漫画家の責任なのかどうかは不明である。奥付によればシナリオライターがいるようだが、このひともよく分からない。監修として中学・高校教諭の方二名の名前があがっているが、どのくらい関与したか分からない。それにしても残念だなと思う。だが、本書を読むことで、かえって運慶・快慶の人物像に興味が湧いてきた。私が小説を書くとしたら、この二人をどのような人物に構想するか、考えてみると面白い。快慶のほうが小説の主人公向きで、かなり癖のある人物ではないかと思う。そうでなければ自ら「巧匠」なんて名乗らないだろう。

 ちなみに奈良博の『快慶』展の会場で流れていた短編アニメーションは、さすがによかった。一部は快慶展の公式サイトのPR動画に取り入れられているが、肝腎なところが抜けている。奈良仏師を率いる康慶の子として生まれた運慶は、順調に出世(僧としての位の上昇)し、極位である法印を名乗るに至る。一方の快慶はなかなか位を与えられず「巧匠」を名乗りとする。どちらが幸せとも一概には言えず、それぞれが与えられた運命に苦しんだことが想像される。マンガにもこういう視点を期待したんだけど、無理であったか。

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