見もの・読みもの日記

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座談会・幟旗を語る(北村勝史、鈴木忠男、林直輝、矢島新)

2009-08-26 22:36:24 | 行ったもの2(講演・公演)
○松濤美術館 座談会『幟旗を語る』 講師:北村勝史(幟研究家)、鈴木忠男(美術コレクター)、林直輝(吉資料室学芸員)、矢島新(跡見学園女子大学教授)

 『江戸の幟旗(のぼりばた)』は、まれに見る魅力的な展覧会である、というレポートは既に書いたが、先日(8月22日)、関連企画の座談会を聞きに行ったら、これがまた、衝撃的に魅力的な座談会だった。講師は、同展の企画者である矢島新氏と、3名の出品者。時間になって、4名の講師が左右に2名ずつ分かれて席についたが、年齢も服装もあまりにちぐはぐで、四者四様なので、嬉しくなってしまった。

 いかにも学芸員らしい、スマートな雰囲気の矢島新氏は、この展覧会の企画を最後に同館を退き、大学で教鞭をとる身となられたそうだ。19年間にわたって、さまざまな江戸の庶民信仰にかかわる展示を行い、新しい「日本の美」を発掘してきたが、これまで知られていなかったもの(誰も美術と認識していなかったもの)を、まとまった量で示すことができる展覧会は、これが最後になるだろう、と自負を込めて語られた。

 北村勝史(よしちか)氏は、紺の三つ揃いスーツに赤いネクタイ。一見、中堅企業の管理職ふう。それもそのはず、コンピュータ会社のサラリーマンだった同氏が、奈良の古道具屋で1枚の幟に出会い、露天の骨董商を経て、幟旗研究の第一人者になってしまう経緯を、雑誌『民藝』で読んでいた私には、納得の風貌でいらした。

 この日は、最初のコレクション・アイテム「楊香」の軸を持ってきてくださったのが嬉しかった(そう!今回の展覧会には、これが出ていないのが、私は寂しかったのである)。北村氏は、いつか幟旗の魅力を世に知らしめたい、その証には、都心の美術館から展覧会の声がかかるようになりたい、と思っていたそうだ。できれば場所は松濤美術館がいいなあ、静かで、本当に好きな人しか来ない美術館だから、とも。この「本当に好きな人しか来ない美術館」というのを、私も大事にしたいと思う。

 美術コレクターの鈴木忠男氏は、立派な中高年の域にありながら(失礼)若冲の絵をプリントしたアロハシャツという、自由人の出で立ち。ウンチクには関心がなく、好きなものは好きという、飄々とした構え。北村氏とは、アイテムを売ったり買ったり、争ったりの仲であるらしい。「楊香」の下3分の1の「虎」図も鈴木氏のもとにあるそうだ。

 林直輝(なおてる)氏は29歳。北村氏とは40歳も年の差がある。この日は上下白のスーツ姿だったが、ラフな服装なら、老け顔の高校生に見えるかも(失礼)。幼少期から、年中行事に関わるものが大好きで、小学生のとき、剣道の大会で入賞したら武者幟を買ってやると言われて、頑張って三位入賞を果たしたこと、小学校高学年になると骨董店を覗いてまわり、お小遣いで収集を始めたこと、平成7年(1995)、高校生になったばかりの5月、平和島(下記注)で友禅の鯉の幟(本展の展示品)を買ったあと、大崎駅前のギャラリーで北村氏の展示会を見て衝撃を受け、北村氏、鈴木氏と出会ったことなど、まあ、驚きの半生である。

 さらに、私のお気に入りの一品「趙雲」の幟旗は、林氏が埼玉の大学に進学してから、浦和の骨董市で見つけたと聞いて、びっくり。えええ、そんなに最近の話なのか! そのあと、東京でセットと思しき「孔明」も見つけたとか。原宿の骨董屋で「関羽と周倉」(展示品)を見つけたときは、西洋人に買われて切り刻まれてしまうよりは、と義憤にかられて(?)購入したそうだ。

 幟旗の意匠に込められた庶民の願い、家紋の意味、時代区分など、学術的な解説も為になったが、やはり面白かったのは、コレクターとしての本音トーク。「○○さん、どれが欲しいですか?」「うーん、右側」「貰えるものなら全部欲しいです」「念じれば通ずるんですよ」みたいな会話。ふだん美術館で、学芸員や研究者が美術作品を語る座談会とは、一味もふた味も違って、楽しかった。江戸の文人や茶人が、身分や年齢を超え、「数寄(好き)」を媒介に繰り広げた交流も、こんなものだったのかもしれないなあ、なんて思った。展覧会は9月13日まで。

※骨董市サイト(こんなに開かれているんだなあ)
http://www.kottouichi.jp/index.htm

※平和島全国古民具骨董まつり(次回は9月です)
http://www.kottouichi.com/

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1 コメント

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Unknown (Tak)
2009-08-27 13:34:13
こんにちは。

行きたくても仕事で行けなかった講演会。
こうしてテキスト化していただけると
とても有難いです。感謝感謝です。

北村氏とはお会いしたことありませんが
メールのやり取りだけでも、たいした方だと
実感できます。

チャンスがあればこのような展覧会を
見せてくれたお礼を申し上げたいです。

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