見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

死体に囲まれる/大英自然史博物館展(国立科学博物館)

2017-05-20 11:20:19 | 行ったもの(美術館・見仏)
〇国立科学博物館 特別展『大英自然史博物館展』(2017年3月18日~6月11日)

 大英自然史博物館から始祖鳥をはじめとする至宝約370点を厳選して展示(ほとんどが日本初公開)ということで、大きな話題になっている。私は、イギリスには一度だけ行ったことがあるが、仕事がらみで自由時間は短かった。それでも大英博物館には行ったが、自然史博物館は全く別のところ、サウスケンジントン駅の北側で、ヴィクトリア&アルバート博物館の隣りにあることを、今回、初めて知った。

 会場の冒頭には、自然史博物館の概要を紹介するショート・ムービーが流れていた(たぶん展覧会公式サイトでも見られるもの)。ロマネスク様式の、どっしりした石造の建築が印象的だった。大英博物館は1753年に開館し、自然史関係標本のための別館・自然史博物館は、1881年に開館した。現在の収蔵品は7000万点以上にのぼるという。ちょっと想像が追いつかない。

 展示は驚きの連続だった。あまり脈絡を考えていないふうなのが、却ってよかった。蝶の標本、恐竜の爪の化石、宝石(アメジスト)、オーデュポンの彩色鳥類図譜、キリンの首の剥製などが、わらわらと並んでいた。植物の種子、鉱石なども。古代エジプトの猫のミイラは、布にくるまれたこけしのようだったが、係員のお姉さんが「ここから見ると耳が分かります」などど声をかけていた。フウチョウの剥製は2点あって、片方は木に止まっていたが、片方は足がなく、ごろんと寝かされていた。足がなく、ずっと飛び続ける鳥だと思われていたことは、むかし荒俣宏さんの本で読んだなあ。

 始祖鳥の化石もわりと早くに登場する。ロンドン標本(1861年発見)とベルリン標本(1874-75年頃発見)の2点が来ていて、ベルリン標本のほうが骨格が分かりやすいが、ロンドン標本は岩石中に頭骨が埋まっていることが、後から発見された。本展では、主要な展示物には、復元CGのアニメーション解説がついていて、とても楽しい。言葉による解説が一切なく、標本の生前の姿が現れるのだ。始祖鳥は、まず胴体の骨格がパラパラと起き上がり、最後に頭部が岩石の中からすぽっと現れるのが、研究の過程をそのまま表している。

 魚竜の説明だったと思うが、化石からよみがえった魚竜が夜の博物館を泳ぎ回り始めると、哺乳類のイルカが、やはり展示の中から抜け出してついてくる。よく似た体格だが、見ていると尾ヒレの動かし方が違うことが分かる(左右に振るのと上下に振るのと)。うまくできたアニメーションだなあと感心した。あと、体毛や羽根の色が推定できるものは、生前の姿で登場するが、分からないものは骨格が動きまわるにとどめているのも(たぶん)良心的で科学的である。

 アニメーションは楽しかったし、鉱物や化石はいいのだが、剥製はつらかった。今の博物館等で見る剥製は、できるだけ生きているときの恰好に整形してあるが、むかしの標本は(特に鳥の場合)足を縛って投げ出されていて「死体」そのものである。いや、そもそも死体なんだけど。考えてみると、化石だって骨格だって死体である。昆虫標本も、ホルマリン漬けも。自然史博物館って、なんと多くの死体で満ちているのだろう、と思って、ちょっと気持ち悪くなりかけたが、なるべく考えないようにした。

 自然史博物館にかかわった人々の紹介も面白かった(と感じる私は、やっぱり根っからの文系)。歴代の館長はとても個性的で、「戦う館長」なしには、これだけの組織を維持・発展させられないことが分かる。コレクションの収集・調査研究に携わった人たちは、金持ちの道楽息子もいれば、教育らしい教育を受けずに独学で道を究めた人物もいる。

 女性研究者は(日本の少女たちを勇気づけるため)今回、意識的に多く取り上げたという話をどこかで読んだ。海藻学者のキャスリン・ドゥルー(1901-1957)の研究は、日本の海苔養殖の発展に多大な影響を与えたため、今でも熊本県宇土市で「ドゥルー祭」が開かれているという。いい話だ。イギリス人女性として初めて博士学位を取った植物学者のマリー・ストープス(1880-1958)は、一時日本の小石川植物園に滞在して研究を行った。ミュンヘンで知り合った藤井健次郎(1866-1952)の存在があったともいわれる、と図録解説にあるが、ちょっと待て。藤井健次郎といえば、日本女性初の博士学位(理学)をとった保井コノ(1880-1971)の恩師ではないか。これも記憶しておきたい話。

 展示の終盤に「ピルトダウン人」事件の関係資料が出ていたことも、博物館の姿勢として興味深かった。1912年にアマチュア考古学者が持ち込んだ化石が、当初、類人猿と人類をつなぐ50万年前の頭骨と鑑定されたが、1953年に贋作と判明する。自然史博物館最大のスキャンダルだが、贋作と分かっても資料を廃棄せず、100年後に最新の分析法で再鑑定をし、論文を発表したそうだ。科学といえども歴史とともにあることが徹底しているのは、英国の伝統だろうか。

 おみやげショップも楽しかったが、博物館の公式グッズは、いつか現地に行ったときに買うことにして、現地では絶対にありそうにないものをチョイス。始祖鳥の焼き印入り瓦せんべい。神戸・亀井堂謹製(ブラタモリ神戸編に出ていたお店だ!)。外箱はずっと使えそう。



 科学博物館の中庭で満開のバラを見るのは、なかなか乙である。イギリスっぽい。


ジャンル:
その他
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 中華ドラマ『射雕英雄伝』(2... | トップ | 普遍主義と共同体主義の間/... »
最近の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
ブログ作成者から承認されるまでトラックバックは反映されません。