見もの・読みもの日記

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単身女性の生きづらさ/ルポ 貧困女子(飯島裕子)

2016-10-18 23:04:53 | 読んだもの(書籍)
○飯島裕子『ルポ 貧困女子』(岩波新書) 岩波書店 2016.9

 著者が敢えて「貧困女子」と名づけたのは、20~30代の若年シングル女性の貧困者たちである。著者は、2012~2015年に16歳から47歳までのシングル女性47人にインタビューをおこなった。うち30人が、(1)非正規雇用もしくは無業、(2)年収200万円未満、(3)就職氷河期世代(1972年生まれ)にあてはまった。本書では、特にこの「氷河期世代」を中心に、彼女たちのさまざまな生活実態が具体的に語られている。

 これまで若年シングル女性の貧困は、若年男性やシングルマザーに比べると可視化されることが少なかった。2011年11月、朝日新聞に「単身女性、三人に一人が貧困」という記事が載ったときは、「女性が貧困を主張するなんてけしからん」という反響が殺到したという。あまりの阿呆らしさに笑ってしまうが、当事者には笑い事ではないだろう。相変わらず「男性稼ぎ手モデル」が支配的なこの社会では、単身女性は世帯主として認められず、したがって貧困にすらなれないのだ。

 もちろん、女性の活躍を推進する法制度や政策の整備によって、働き続ける女性は年々増加し、女性総合職や女性管理職の比率も上がっている。しかし、女性の人生の選択肢は多様化したように見えて、実は女性間の分断が進んでいるのではないか、と著者はいう。確かにそんな気がする。そして、結果的に分断のどちらの側にいるかは、ちょっとした偶然の結果でしかないように思う。

 私は、幸い20代後半で安定した仕事を見つけることができたので、単身にもかかわらず、ここまで貧困に陥らずに済んだ。しかし、最初の就職先は長時間労働・休日出勤は当たり前の、今でいうブラックな職場だったし、そこを離れてしばらくは、将来のない正規雇用で過ごした。本書に登場する女性たちの姿は、他人事とは思われない。

 入社した会社が「ブラック」だと分かっても、貯金がなかったり、頼れる家族がいないと、辞めることができず、倒れるまで働き続け、身体を壊したり、解雇されても次の仕事が見つからず、貧困へ一直線というケースがあるそうだ。私は、実家暮らしで両親に経済力があり、次の就職先探しに不安のない時代だったので、最初の就職先を離脱することができたのだ。

 自覚はなかったが、学歴もプラスに働いたかもしれない(私の場合、まだ短大卒のほうが就職率が高いと言われた時代だったけど)。学歴は個人の資質や能力を示すものではないが、これだけ社会の高学歴化が進むと、大卒は事務職正規雇用の必須要件化している。この点からも、貧困の連鎖を止めるための経済的就学支援は、もっと積極的に取り組まれなければならないと思う。

 一方、学歴が高ければ正規雇用に就けるわけではない、という例として、学芸員や図書館司書が挙がっているのはつらいなあ。あと大学職員、小学校教員、保育士なども。いずれも公的サービスの範疇にある仕事だが、2000年代の公務員バッシングを受けて、利用者(住民)と直に接する「ケア的な公務」がどんどん非正規化されて、多くの女性の「官製ワーキングプア」が生み出された。この状況は、やっぱり間違っていると言わなければいけないと思う。

 いじめやパワハラの経験から心を病み、就労できない女性たちもいる。彼女たちは「家事手伝い」というカテゴリーに入れられることで、社会から隠されていることが多い。ちなみに「家事手伝い」は、「ニート」「ひきこもり」の統計から除外されると聞いて呆れてしまった。公共セクターが行っている若者向けの自立・就労支援のプログラムも、男性を想定しているものが多いという。困ったものだ。それでも、横浜、埼玉などの男女共同参画センターが、若年シングル女性のための取組みを始めているというのは嬉しい話だ。

 最後に、シングル女性たちを苦しめる結婚・出産プレッシャー。5章に登場する女性は、いつも母の期待に応える良い子で、大学は経済学部に進学、家庭経営の会社を手伝っているが、結婚が決まらない。エリートビジネスマンと結婚し、二人の子どもを生んだ妹と比べて「親不幸者」と言われてしまう。6章に登場する別の女性も、ずっと優等生だったが、大学に進学し、かわいい女性がチヤホヤされることを知り、「高校まで『人は努力した分だけ報われる』と思っていたけれど、世の中それだけじゃないんだと、かなり遅まきながら気がつきました」というのは、なんだか私自身を見ているようだった。彼女はある大学で契約職員として働いているが、労働条件は悪化するばかり。気がつけば、キャリアも夫も子供もなかった、という。他人の期待に応える良い子として育ってきただけに辛いだろうなあ、しみじみ胸に堪えた。私はもう「周囲の期待に応える自分」を止めたので、だいぶ楽になったけど。

 日本には、経済的に自立できないシングル女性は家族に頼るべき、という価値観が根強くあるが、これは止めたほうがいい、という著者の意見に私は賛成する。もちろん、家族と共に生きることに幸せを見出す人がいてもかまわない。でも「誰でも家族から離れて生きていきたいと願うなら、それをサポートする仕組みがあるべき」というのは、決して贅沢ではなく(伝統的な家族観に反するという意味での)過激でもなく、全くその通りだと思う。
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