見もの・読みもの日記

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新旧西洋美術の奇想/ミュシャ展(国立新美術館)+バベルの塔展(東京都美術館)

2017-05-16 23:41:34 | 行ったもの(美術館・見仏)
国立新美術館 開館10周年 チェコ文化年事業『ミュシャ展』(2017年3月8日~6月5日)

 縦6メートルに及ぶ超特大キャンバスに、古代から近代に至るスラヴ民族の苦難と栄光の歴史を描いた連作『スラヴ叙事詩』全20点を世界で初めてチェコ国外で公開する展覧会。アルフォンス・ミュシャ(チェコ語発音はムハ、1860-1939)の名前はもちろん知っている。日本でよく作品を見るようになったのは、1980~90年代ではないかと思う。優美で華やかで、実在感があるのに理想的な女性像は、日本の少女マンガの世界と地続きな感じがして、一目見たときから好きになった。同世代の女性の友人に、大のミュシャマニアがいて、二人でグッズなどを見せ合った思い出がある。

 しかし、友人はどうだったか知らないが、私はミュシャの装飾的あるいは商業的デザインしか知らなかった。実は、ミュシャは、故郷チェコや自身のルーツであるスラヴ民族のアイデンティティをテーマにした作品を数多く残している。その集大成が、50歳で故郷に戻り、晩年の約16年間を捧げた連作油彩画『スラヴ叙事詩』なのだという。展覧会が近づくにつれ、そんな解説が耳に入るようになってきたが、年度末から生活が忙しくて、十分な下調べができないまま、会場に行ってしまった。

 第1会場に足を踏み入れたとたん、驚きで声が出そうになる。いやーこれは中途半端な知識を仕入れてこなくてよかった。巨大な画面に、巨大な人物が浮いている。「原故郷のスラブ民族」と題された第1作だ。原野を覆う青い星空。大勢の騎兵(遊牧民?)が疾風怒濤のように通り過ぎてゆき、前方にはスラブ人の男女がうずくまり、怯えた顔を向けている。左右に「戦士」と「平和」を従えた祭司(神?)が両腕を広げ、夜空に浮かんでいる。次の「ルヤーナ島でのスヴァントヴィート祭」でも「スラブ式典礼の導入」でも、なんだか多くのこの世ならぬ存在が浮いている。スラヴの歴史は全く知らないのだが、描かれている人々の服装から、古代→中世→近世(?)と歴史が進んでいくことは、なんとなく分かる。最後は「ロシア農奴制の廃止」で、1861年の赤の広場の風景だ。背景に巨大な聖ワシリイ大聖堂が霞んでいる。途中に出てきたヤン・フスは、火刑にされた宗教改革者であると、高校の世界史で習ったことを思い出した。

 展覧会の後半では、日本人になじみの深い「商業広告」的なミュシャ作品も展示されている。「ユリ」の女性像を見て、あ、これチョコレートのおまけカードになっていた、という記憶がよみがえった。しかし『スラヴ叙事詩』を見てしまったあとで、これらの作品を見ると、何か整理のつかない気持ちを感じる。そして、母国チェコのために描かれた作品の、装飾的だが、情念に満ちた魅力。この人、こんな画家だったのか、と根底からイメージを覆された。

東京都美術館 『ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル「バベルの塔」展 16世紀ネーデルラントの至宝-ボスを超えて-』(2017年4月18日~7月2日)

 ブリューゲル(1525頃-1569)の『バベルの塔』が来日と聞いたときは驚いたが、「24年ぶり」と聞いて、もっと驚いた。私はすでに成人していて、ブリューゲルにも関心があったはずだが、見に行った記憶がない。澁澤龍彦先生がこの作品について書いたエッセイを読んだ記憶は鮮明にあるのに。とにかく見に行こうと思って、会場に入ったら、ヒエロニムス・ボスの『聖クリストフォロス』と『放浪者(行商人)』に対面して、足がすくんでしまった。ええ~、こんなお宝(!)が来てるなら、はじめにそう言ってほしい。このほか、同時代の油彩・彫刻・銅版画、特にボスの影響を受けた銅版画やブリューゲルの銅版画では、ネーデルランドの奇想に浸ることができる。

 しかし、なんといっても『バベルの塔』だ。ブリューゲルは少なくとも3点の『バベルの塔』を制作したとされるが、現存するのはボイマンス美術館の所蔵品(1568年)とウィーン美術史美術館の所蔵品(1563年)の2点である。今回、展示される前者は60cm×75cmほどの小画面だが驚くべき精緻さで、工事に勤しむ人々の姿が1400人も描かれているという。全然気づいていなかった。会場では、高精細拡大写真やアニメーションを使って、驚きの絵画技法を分かりやすく見せてくれる。足場の組み方、漆喰の運び上げ方など、当時の建築現場の姿が精緻に描かれており、ただ呆れる。画家って、どうしてこんな作品を描きたくなるのだろうか。

 なお、時間がなくなって、東京芸大の「Study of BABEL」展(2017年4月18日~7月2日)は見られなかったので、また行ってみる予定。あと、上野駅構内の飲食店が「バベル盛り」フェアを企画しているのを、後世のため、記録に留めておこう。
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