見もの・読みもの日記

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祭りと祈り/江戸の幟旗(松濤美術館)

2009-08-13 00:02:47 | 行ったもの(美術館・見仏)
松濤美術館 『江戸の幟旗(のぼりばた)-庶民の願い・絵師の技-』(2009年7月28日~9月13日)

 たまたま渋谷区の住宅街を歩いていて、この展覧会の予告ポスターを見つけたときは、文字通り色めきたった。おお!松濤美術館、やるなあ、というところ。

 端午の節句や村の鎮守の祭礼に立てられた幟旗(のぼりばた)。その豪快、勇壮、真率で華麗な美学に、私が初めて出会ったのは、2007年に日本民藝館で行われた『日本の幟旗』展でのことだった(→詳細)。あの感激がもう一度味わえるかと思うと、バンザイを叫びたいくらいだった。

 さて、会場に入ると、大きな弧を描く展示室の壁には、天井から床まで、色とりどりの長尺の幟旗が、滝壺のように垂れ下がっている。展覧会と呼ぶには、あまりに勝手の違う風景に、入口で足が止まってしまうお客さんも多い。まあ、落ち着いてご覧じろ。いかにも使い古しの、汚れ、色褪せ、しわもある幟旗だが、そのデザインがどれだけすごいか、素晴らしいか。だんだん分かってくるはずである。

 幟旗に使われる布の基本幅は30~40センチくらい。大きい幟旗の場合は、これを2枚ないし3枚縫い合わせて、60~90センチ幅とする(まれに広幅の布もある)。長さ(高さ)は3~4メートルは当たり前で、7~8メートルに及ぶものもある。上の方には家紋(1つ~複数)を入れることが多いが、それにしても極端に縦長のキャンバスで、その使い方がひとつの見どころである。染めの技法として多く使われているのが「筒描(つつがき)」。「筒に糊を入れて、先端の筒金から少しずつ押し出しながら絵を描くように糊を置いて防染し染め上げる」(古代裂 今昔西村)ので、この名前があることを初めて知った(→筒描き手染めとは)。

 好きな作品を挙げると『神功皇后』(33、これは手染め)『民の竃』(50、51)『郭君子』(64)など。描かれた子供たちの生き生きした表情、それを見つめる母親の自信と愛情に満ちた表情は、泥臭いが、祭りにふさわしく、晴れやかですがすがしい。浮世絵だけで江戸時代を語ってはいけないな、と思った。三国志の『趙雲』(49)も好きだ! ちゃんと阿斗さまをふところに抱いている。

 第1展示室の出口で、展示図録の見本を発見。開いてみると、とにかく作品の形態が異例なので、なんとか全体像を図版に収めようと、いろいろ苦心している様子がうかがえる。あれっ?と思ったのは、『獅子の谷落とし』(69)の図版。展示室の中央を占める、ひときわ大判で華麗なその幟旗には、岩の上からスローモーションのように落下する子獅子と、それを心配そうに待ち受ける親獅子が描かれている、と思っていたのだが、図版を見ると、幟旗のさらに上部に、もう1頭の親獅子がいて、落下する子獅子の視線は、その親獅子を捉えているのだ。あわてて戻って、展示品をよく見ると、実は、上部がかなり折り畳まれている。全長11メートルの威容は、想像で補うしかない。ほかの幟旗も、必ずしも全体像が展示されているわけではないことが分かった。

 ところで、私が感心して『獅子の谷落とし』を見ていたら、係員の方(女性)が「この上に子獅子を突き落とす母獅子がいるんですよ」と教えてくださった。私は父獅子が突き落とすのだと思っていたが…本当はどっち?

※いつになく、外観の飾り付けも華やか。でも展示室内の異空間ぶりは、こんなものではないのです。必見!



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