見もの・読みもの日記

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雪の近畿周遊(4):京都国立博物館

2008-02-15 23:56:25 | 行ったもの(美術館・見仏)
○京都国立博物館 特別展覧会 修好通商条約締結150周年『憧れのヨーロッパ陶磁-マイセン・セブール・ミントンとの出会い-』

http://www.kyohaku.go.jp/jp/index_top.html

 関西に行くときは、京博の催しものは必ずチェックを入れるのだが、今回は「なんだ、ヨーロッパ陶磁か」と思って、全く相手にしていなかった。常設展だけ覗いたら帰るつもりでいた。ところが、博物館の前まで行ったら、大きな看板に「Japan's Encounter with European Ceramics」と、英文が併記されているのが目に入った。直訳すれば「日本の(ヨーロッパ陶磁との)遭遇」である。単にヨーロッパ陶磁の美を愛でる展覧会ではなくて、日本文化との歴史的なかかわりに焦点を当てた企画らしい、と初めて気づいた。俄然、興味が湧いたので、常設展を早めに切り上げて、特別展に入ることにした。

 「ヨーロッパ陶磁との出会い」と題された最初の部屋で待っていたのは、17世紀前半、ドイツ製の奇妙な人面髭徳利。19世紀中頃の陶磁器と一緒に、高野山の塔頭跡から出土したものだという。また、17世紀、オランダかイギリスで焼かれた薬壺(アルバレロ)の陶磁片は大阪城から出土した。そのおおらかで鮮やかな色づかいは、乾山や仁阿弥に影響を与えているという。そうそう、先日、出光美術館の『乾山の芸術と光琳』でも同じような影響例を見たばかりだ。

 年紀の分かるものでは、寛政5年(1793)の箱書を持つ銅版転写のヨーロッパ陶磁(藍絵西洋風景図蓋物・杓子)が伝わっており、文化13年(1816)刊本『陶器指南』には、阿蘭陀写のつくり方が懇切に説明されている。逆にオランダでは、伊万里写や景徳鎮写(?)が作られた。巧妙に似せようと努力したものもあるし、図様の一部を換骨奪胎した作品もある。文化や芸術の世界で、ゆっくりとグローバリゼーションの時代が始まったことを感じさせる。

 さすが京都!と思ったのは「京都伝来の阿蘭陀焼」のセクション。八坂神社鳥居下の二軒茶屋(中村楼として現存)は、オランダ商館長(カピタン)が長崎から江戸参府の折、必ず立ち寄ったそうだ。それゆえ、数々のヨーロッパ陶磁が今に伝わっている。白磁金彩のソース容れ(カレーポット)まであるのにびっくり! ちなみに二軒茶屋に現れるカピタンは、天明7年(1787)刊『拾遺都名所図会』にも描かれる”名物”だったようだ。日文研の『平安京都名所図会データベース』の画像にリンクしておこう。

 建仁寺もまた、禅宗ネットワークを介して、海の外に通じていたようだ。われわれは、幕末明治の認識にとらわれて、中国(おくれた東洋)とオランダ(進んだ西洋)を真逆の方向に考えてしまうが、江戸中期までは、どちらも等しく”エキゾチシズム”と”先進文化”の地だったように思う。確か、羽田正『東インド会社とアジアの海』にも、南蛮船が長崎に運んできたものは、中国産品がほとんどだったという記述があった。

 後半では、生産地ごとにヨーロッパの名陶を紹介。明治初期の日本は、フランスのセブール陶磁(1対の壺)を入手するため、69点の日本古陶を交換に差し出したそうだ。う~ん、輸出産業としては、マーケティングリサーチと技術移植のため、必要な初期投資だったんだろうけど、高い買い物だなあ。今となっては流出した日本古陶のほうが気になる。

 また、ドイツ人フリッツ・ホッホベルク伯爵は、20世紀初頭にアジア・オセアニア地域を旅行し、すっかり日本びいきになってしまった。特に京都の陶磁産業に関心を抱いた彼は、帰国後、母国ドイツの陶磁器40点余りを京都帝室博物館に寄贈した。東京帝室博物館ではなく京都に、と指定したところがミソ。京都人、嬉しかっただろうなあ。私としては、豪華絢爛のセブール陶器より、京菓子のように繊細で愛らしいマイセンのほうがずっと好みだ。趣味のいい伯爵様である。第1回の輸送で破損した分を追加で送ってくれたり、何かと気のまわる伯爵だったらしい。会場の解説板に「実に親切な人である」と、担当者の感嘆が漏れていたのに笑った。

 常設展では、江戸時代の仏師・清水隆慶(初代、二代)の”余技”の数々を紹介。絵画では、涅槃図の小特集が面白かった。全て14世紀作品だが、雲に乗って来迎する摩耶夫人のスピード感とか、横臥する釈迦の姿勢に微妙な差異がある。玉台(寝台)の前には、舞踊する胡人のペアがいたり、黒い手長ザル(水墨画ふうの)が交じっているものもある。

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