見もの・読みもの日記

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まだまだ続く/すずしろ日記 参(山口晃)

2018-02-22 23:21:39 | 読んだもの(書籍)
○山口晃『すゞしろ日記 参』 羽鳥書店 2018.2

 山口晃画伯の『すずしろ日記』第3巻。第2巻刊行から4年3か月。第3巻には、東京大学出版会のPR誌『UP』連載の101回(2013年8月号)から150回(2017年9月号)までと、その他の雑誌等に発表した各種のエッセー漫画が収められている。

 まず後者が第1部「すずしろ日記風」にまとめられていて、銀座の名店や画廊・銭湯・理容店などの探訪記、気になる展覧会めぐり(愛犬ポチがレポーター)、姫路城見学記、スター・ウォーズを語る(+ルーカス・フィルムを訪ねる)など、確かに興味深いのだが、あまり面白くない。あれ?私の待っていた「すずしろ日記」ってこんなのだっけ?とちょっと戸惑う。

 それが、第2部「UP版すずしろ日記」になったら、やっぱり面白い。第1部のエッセイは内容があり過ぎなのだ。「すずしろ日記」は、このゆるさ~コマが余ったり、落ちがなくても無問題なところが好き。なかには見事な落ちのある回もあって、何度も声を出して笑った。149回で画伯は自分の喋り方について「無駄に笑いを取りに行くところがある」(その結果、文章に起こすと意図が伝わらない)と反省していらっしゃるが、基本的にサービス精神旺盛なのだと思う。104回で、小林秀雄賞の受賞式で「志ん生の口マネで小林秀雄を読む芸」を披露したというのを想像して大笑いした。

 第1巻から思っているけど「カミさん」との関係性がとても素敵。愛犬ポチの登場シーンも多くて何より。群馬県桐生市の「ふるさと大使」さらに「芸術大使」をつとめていらっしゃるそうで、ふるさとネタも多いのも楽しかった。画伯が子供の頃から無上の楽しみにしていたという洋食屋の「芭蕉」、ネットで画像を探したら想像以上だった。桐生が岡公園の思い出は、都会でなく田舎でもない、ほどよく便利でのんびりした「地方都市」の一類型を思わせる。

 すごく共感したのは、東京モノレールのよさ。窓の景色もいいけど、車内の座席の配置が「計算と気まぐれが同居した様なしつらえ」というのが分かる! 私はまだ行ったことがないのだが、犬山の明治村いいんだなあ。大人ひとりで行ってもいいんだと分かって勇気づけられた気分。

 「UP版すずしろ日記」はコマ割り漫画エッセイが1ページで、隣りのページに解説のようなもの(執筆当時の状況)が活字と画伯の絵で添えられている。138回の画伯の添え書きに「『役に立たない』事がもたらす開放感/有用性が低ければ低い程良い/しがらみが無いと云う事だ/絵なんぞ更に進んで『有用・無用』の外に出てこそ正しい」とあって、いい言葉だと思った。

 連載開始からすでに干支がひとまわりしたと聞いて感慨深いが、ぜひ末永く続けてほしい。画伯とカミさんが仲良く年取っていく様子をずっと垣間見させていただきたい。心配は雑誌『UP』がなくってしまうことだが、そのときはネット媒体に移してでも。
コメント
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