--Katabatic Wind-- ずっと南の、白い大地をわたる風

応援していた第47次南極地域観測隊は、すべての活動を終了しました。
本当にお疲れさまでした。

メタン測定装置の修理

2006-05-04 | 南極だより
北海道の沖には流氷が戻ってきたと新聞に書いてありました。
日本も夏と冬の間を行ったり来たりしているようです。
それでは渡井さんからの南極だよりです。
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2006年5月3日(水) 曇り メタン測定装置の修理

さて今日は、このところ行っていたメタン計修理の話です。
少し専門的ですが、こんなこともやっているんだということで書いてみます。

4.24
メタン計の調子が突然悪くなった。
出力が周期的に大きく波打つのだ。
標準ガスおよびサンプルガスともに同じような変動をしているので、キャリアガスか標準ガスとサンプルガスの共通ラインが怪しい。

4.26
標準ガスなどを分析せずにキャリアガスだけ分析していると出力は安定しているので、キャリアガスの問題ではないであろう。
標準ガスを手動で打ち込み分析してみると、クロマトの出る時間は変わらないのだが、ピークの高さがずいぶん小さくなってしまっている。
となるとピーク同定や2ポジションバルブ切り替えの問題ではない。
感度が悪くなっているのか?
試しに違うプログラムで分析してみても結果は同じ。
うーん、ということはプログラムの問題でもない。
そのうち分析途中にH2 Security System is Working!の警告が表示され、自動的に分析中止となってしまった。
FIDに火をつけ分析を再度行うが、今度はピークが分析するたびにどんどん小さくなっていく。
なぜだ?
FIDを分解し石英ノズルの分解清掃を行う。
カーボンが結構詰まっているので緑の針金の皮をむいてつついて取り除く。
ベースラインが落ち着かないので一晩ベースラインを描かせる。

4.27
キャリアの流量は2ポジションバルブon/off時で23.9および15.7ml/minで差がある。
これはできるだけ同じ方が良いのだがまぁ許容範囲と言えなくもない。
ところがこの2ポジションバルブon時に流れてはいけないところに結構な流量がある。
ということはバルブのシールが甘く、どこかが漏れているのであろう。
他の電磁弁の弁座のチェックをしたが漏れはなし。
とすると2ポジションバルブのバルブシールに違いない。
バルブをGCから取り出し分解清掃する。
またバルブ押さえ圧力も調整する。
組みつけて再び分析を行うとピークが出るようにはなったが、その大きさはまだ正常時の半分だ。

4.28
他に疑うところと言えばFIDだ。
FID信号取り出し部のみ予備用と交換し分析。
やっぱり駄目。
今度はFIDの電極部を予備用と交換して実験したが、これは電極の極性が異なっていたため結果は分からなかった。
が、多分駄目な予感。

4.29
FIDの石英ノズルを予備用と交換し分析するも駄目。

4.30
FID燃焼用の空気を通しているハイドロカーボントラップ(HCT)を予備用のものと交換し分析。
やっぱり駄目。
うーん、結構八方塞がり。

5.1
キャリアガスの流量調整不具合を疑い、キャリアガス自動切換え機を介さず、ダイレクトにGCに導入する。
が、駄目。
ここで昨日から気になっていたことの原因を探る。
どうもキャリアガスの残圧の減りが早いのだ。
となるとキャリアガスがどこかで漏れている可能性がある。
という訳でHCTを元に戻し2ポジションバルブの押さえつけトルクを上げる。
とするとどうだ、標準ガスとサンプルガスの濃度の関係も以前の状態に復帰し、酸素のピークもほぼ一様になった。
おまけと言ってはなんだが、メタンのピークは心なしか以前より大きくなっている気がする。
流量の安定も明らかに早い。
これは先日2ポジションバルブの掃除をしたせいであろう。
まだWARNING OUT OF RANGE!の警告が出るが、出力は記録されている模様。
ふぅ、どうやら直ったようだ。
リニアリティチェックを行うとちゃんと規定値以内に入っている。

少々時間がかかってしまったがどうにか修理できてほっとする。
でもちょっと時間がかかりすぎかな。
原因は2ポジションバルブのテフロンシートが長時間の使用により削れて薄くなり、またバルブ押さえスプリングを固定するダブルナットが緩んで押さえつけ圧力が減少したことである。
これによってキャリアガスが漏れたことが原因だ。
バルブシートは新品に替えなくてはいけない。
#警告表示もその後の調整で出なくなった。


#GCオーブンの中味。ぐるぐる巻いているのがカラム、手前の横向きに巻いているのが計量管。左横から出ているのが2ポジションバルブ本体。外箱の外側には駆動用のエアアクチュエーターが飛び出している。

#2ポジションバルブ。左の部品を右のテフロンシートにスプリングで押し付けている。左の部品の穴は内部で片側の穴と繋がっていて、一個分動くことによって流路を切り替えられる。掃除したはこれらの穴と、この押さえつけ圧力調整。
-----本日の作業など-----
・雪かき
・モニタリング月例報告、観測隊月例報告提出
・海氷状況定点観測
 西の浦方面およびラング方面の薄氷は流れた模様だが、大きな被害はでず
・CH4計微調整
・新聞係ミーティング
・温室効果気体分析用大気サンプリング
・炭素同位体比測定用大気サンプリング
・二酸化炭素精製
・CO2, CH4, CO, O3濃度分析システムチェック

<日の出日の入>
日の出  9:11
日の入  15:25
<気象情報5月3日>
平均気温-7.8℃
最高気温-5.9℃(0316) 最低気温-10.6℃(2349)
平均風速14.9m/s
最大平均風速22.9m/s風向ENE(0020) 最大瞬間風速29.5m/s風向ENE(0159)
日照時間 0.0時間

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昨日の南極だよりで書かれていたCH4計も調べていないので、詳しくどういうトラブルだったのか、分かるのは無理だと早々に判断しました。
普段家で、または仕事場で使っている機械が調子悪くなったら、製造業者に修理を頼みますよね?
南極観測隊では、普段の観測はもとより、何かトラブルが発生したときも、逃げも隠れもできす、自分で修理調整して解決しなければなりません。
でも、その様子が公開?されたことは、今までないのではないでしょうか?
そういう意味ではこの南極だよりは貴重かもしれませんね。
今回のトラブルは、一発で原因を突き止めることができなかったため、解決までに実にいろいろな角度からアプローチし試行錯誤している様子がよく分かります。
やっていることの中身がよく分からなくても、苦労した道のりと、とうとう直ったんだね!と喜びを共有できるのは嬉しいものです。
この南極だよりの渡井さん、苦労しているのに、とっても楽しそうだと思いませんか?
この観測に関しては全面的に任されて、一人で(極地研の担当の方と連絡をとりながらなのでしょうけれど)すべてをやりきる醍醐味みたいなものがあるのだと思うのですよね。
それってすごくやりがいがあるのだと思います。
さっき中身は分からなくてもと書いたのですが、やっぱり中身も少しは分かりたいので、昨日のCH4計のことと合わせて、調べてみたいと思います。
なんだか体の半分が早く家に帰りたくなってきました。

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