Credo, quia absurdum.

旧「Mani_Mani」。ちょっと改名気分でしたので。主に映画、音楽、本について。ときどき日記。

「パパは出張中!」エミール・クストリッツァ

2007-08-16 02:44:15 | cinema
パパは、出張中!

東北新社

このアイテムの詳細を見る


パパは出張中
1985ユーゴスラヴィア
監督:エミール・クストリッツァ
脚本:アブドゥラフ・シドラン
出演:モレノ・デバルトリ、ミキ・マノイロヴィッチ、ミリャナ・カラノビッチ


85年カンヌのパルム・ドール受賞作ということで、いかにもカンヌらしい作品である。

1950年代のサラエヴォ、スターリン主義影響下のチトー統治時代。
少年マリックの父は愛人もいる飲んだくれのろくでなし。
ある日新聞に載った一コマ漫画を観て「やりすぎだな」とつぶやくが、それが原因で逮捕されてしまう。しかも義理の兄の手によって。
僻地での労働に従事する父。子供たちには父は仕事で出張中、ということにしている。
父の転地を機に家族もサラエヴォから引っ越し、ふたたび家族で暮らすも、父の当地での女漁りなどが原因でぎくしゃくした暮らし。
ある日、知事が当地を訪問するにあたり、マリックは少年団の代表として知事にバトンを手渡す役に選ばれる。セリフを必死に練習するマリックと父。なんとか本番を迎えるが、セリフ中で「チトー」と「党」のどちらを先に言わせたかで、また詰問を受ける父。
やれやれ。


少年の目線で、かつ父をとおして世の中との関わりをみつめる作品で、少年時代の初々しいエピソードに満ち、随所で笑いをはさみながらも生活全体が暗い政治の影に覆われている。

これを見ると、後に「アンダーグラウンド」発表時にあった(という)、クストリッツァはチトー時代をノスタルジックに描いているという批判は、まったく当たらないだろうと思う。
後年の作品でむしろ明らかなように、クストリッツァの作品は批評精神に溢れてはいるが、表立って特定の事象を賞賛したり批判したりする一面性とは無縁の作家だ。
この映画では社会主義時代の理不尽な圧政に翻弄される庶民を描いている点で、体制に批判的であるといえるが、その一方で、登場する人たちはそれぞれの人生を、嘆きつつも受け入れ謳歌しているし、登場人物に「人生はすばらしい」とすらつぶやかせるという点で、状況を賛美しているともいえるのだ。
その二面性(というか多面性)のうち一面だけをみてしまうのはこの作家のもつ力の多くを見落としてしまうことになるのだろう。

批判的まなざしも決して忘れないが、そのなかでなんとか生き延びる人間の、力強さというのとはまた違う、弱いけれどもふてぶてしい「生きる」姿にも等しく視線をそそぐ。そんな作家なのだろうと思う。
その視線のバランスというものが、近作では一種様式化していって、戯画的な笑いの渦にたどりついたのだろうと、この監督の出世作を観て、勝手に推測する。

で、その様式化は、あくまで「ローカルな」映画である本作から、舞台はローカルでありながらも次第に「国際性」を帯びてくる近作へ至る道だったのだろう。(とまた勝手に結論付ける)



本作はユーゴ紛争で原版が失われたそうで、DVDも現存するプリントから起こされているそうです。


<過去記事:クストリッツァ>
アリゾナ・ドリーム
ライフ・イズ・ミラクル
アンダーグラウンド
SUPER8



人気blogランキングへ
↑なにとぞぼちっとオネガイします。


son*imaポップスユニット(ソニマ)やってます。
CD発売中↓
小さな惑星
Son*ima
インディペンデントレーベル
このアイテムの詳細を見る
詳しくはson*imaHPまで。試聴もできます。




↑お買い物はこちらで

コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« いや、無理っす^^; | トップ | 「オリバー・ツイスト」ロマ... »

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
こんにちは (ひで)
2009-01-14 16:55:31
報道や教科書で
歴史の1ページにされてしまう紛争を
エミール・クストリッツァ監督は、
そこで生きる人々に視点をあてた
人間味あふれる作品に仕上げていますよね。

>・・・弱いけれどもふてぶてしい「生きる」姿・・・
まったくもって同感です(^-^)
どうも (manimani)
2009-01-14 21:34:37
☆ひでさま☆
コメント+TBどうも
いま気がつきましたが、タイトルに「、」が入っていたんですね。直しておかないと。

思い起こしてみるとやっぱり非常にローカルな映画で、でもクストリッツァらしさは十分にあるなあと思うのでした。

コメントを投稿