Credo, quia absurdum.

旧「Mani_Mani」。ちょっと改名気分でしたので。主に映画、音楽、本について。ときどき日記。

「白いリボン」ミヒャエル・ハネケ

2011-02-01 02:21:18 | cinema
白いリボンDAS WEISSE BAND - EINE DEUTSCHE KINDERGESCHICHTE
2009ドイツ/オーストリア/フランス/イタリア
監督・脚本:ミヒャエル・ハネケ
出演:クリスティアン・フリーデル、レオニー・ベネシュ、ウルリッヒ・トゥクール、フィオン・ムーテルト、ミヒャエル・クランツ、ブルクハルト・クラウスナー 他



昨年最後の映画鑑賞は『ゴダール・ソシアリスム』だったのだが、今年最初の映画も『ゴダール・ソシアリスム』だったのよね。
2回観たってことですが、なんだかハードコアな年越し。

で今年2本目はまたハードコア系?なミヒャエル・ハネケ『白いリボン』。
2009年カンヌ国際映画祭のパルムドール受賞作ということだけど、下調べもなんもしなかったワタシは、オープニングのクレジットでそれを知ったのだw。
調べてみるとアカデミー賞外国語映画賞にノミネートもされているということで、大向こうの評価はいいようだね。

観た感想としては、伝統的というか正統的なヨーロッパ映画(そんな概念はないよとは思いつつですが)のたたずまい。モノクロ採用とか固定カメラ多用とか音楽不使用とかいう技法的なことや、俳優の多様な顔つきとか古びた静謐な村の風景とかの被写体の選択であるとか、荘園での主従関係や教会などを含む社会制度習慣の描写など題材のあり方とか、そういうもろもろが例えばベルイマンやドライヤーの作品を想起させるという意味で「正統的」ということなのだが。

ハネケについてはいろいろとよからぬ(笑)評判を聞くのだが(監督の素行ということじゃないですよw、作品についての評判ね)、ワタシは実は今回が初めてのハネケなのです。
先入観ないところで素朴に抱いた感想としては、そういうヨーロッパ映画の伝統?を踏まえつつ、例えばラース・フォン・トリアーのような屈折(挫折?w)をも体験した後に、映画はどうあろうかを考えた作品のように思えました。
それはある意味反動的とすらいえるような回帰の風景を現前させていると言えなくもないかもしれないが(歯切れ悪い)、そこに提示されたものたちの現在性のようなものを前に、逆に何が反動かということをよく考える契機を与えられたような気持ちになるのだ。

これはヨーロッパ映画が残してきた映画の連なりの中にある作品として、傑作のひとつに数えられるようになるかも知れない作品である。とともに、その圧倒的な既視感のうえに提示された問題系がいまだ有効であること、未来においていまだ有効であるかもしれないことに、言い知れぬ無力感を抱かせるような、不吉な作品として残るかも知れない。。。。




とまあ、いつものように煮え切らない言葉を連ねてみるわけですが、ベルイマンやドライヤーが「正統」か?というと、これまた全然そんな気もしないわけですし(むしろ異端かも)。異端の系譜に連なっちゃってるとも思えるわけですね。


****

北ドイツの小さな村、と公式サイトにも書いてあるので、北ドイツなんだろうけれど、終わりのほうでサラエボ事件のうわさが語られるところがあって、そこでは字幕としては単純に「大公がサラエボで殺された」という風に言われていた。そういう言い方だと、自分の国の大公という解釈もできませんかねえ?オーストリア・ハンガリー帝国の皇太子なのだから、だとすると舞台は北ドイツではなく南ドイツ?

という誤解だか曲解だかに支配されてワタシは観てたのです。
(北ドイツと知ったのも観終わった後で^^;)

で、田舎の村にもそういう時代の暗い影が忍び寄ってくるというあたり、なんとなくエリセの映画を思い出しもするのだが、ここの舞台では暗い大潮流以前に、村の中で十分暗い事件が次々に起こっているのだった。

冒頭の陰湿な事件後に、早々に示される怪しい子供たちの気配。表向きは礼儀正しく振舞う子供たちが余計に気味が悪い。

その子供たちを抑圧するのは学校であったり家庭であったりの、厳格な教育思想であるわけで、白いリボンはその象徴でもある。学校での言葉遣いに関する叱咤、家庭での鞭打ち、教会での厳粛な儀式、刑事の厳しい追及。それらの前に子供たちは模範的な振る舞いと言葉遣いをまといつつ、内面はどうやら歪んでいる。

その歪んだ思念が発散されるべく向かった先は、村の実力者の幼い息子であったり、知恵遅れの少年であったりするだろう。端的に抑圧者への復讐(羨み半分の)と弱者の抑圧という問題に触れている。

その実力者もまた、家族(妻)を自分の所有物のように扱い、妻のイタリアでの浮気について妻の言い分に聴く耳持たず、開口一番「そいつと寝たのか?」ということに拘泥するような奴だ。
しかし、女性蔑視は冒頭登場したドクターに極まるのだが。

ほかにも使用人の死を巡る、雇い主と使用人家族との軋轢(というか使用人側の悲劇)とか、若い乳母がくびになる話とかいろいろとりまぜて、あの時代、第一次大戦前夜、20世紀初頭のドイツの農村はこういう抑圧装置だったということなのだ。

そこにはらまれていた差別と抑圧のシステムは、現在の社会にも引き継がれているものであり、それはある面では小村を出て世界に広まっているともいえるだろう。
その源泉がひとえにヨーロッパだったという風には思わないが、ひとつの源泉が形成されていて、それは教育や宗教を通じてこんな小さな村にもしっかり根付いていたということであるだろう。

そういう点でこの映画はほかのヨーロッパ映画と同じように、ヨーロッパの歴史についての映画であろうとしているだろう。

***

舞台を日本の農村とかに移しても、おなじような映画が作れるような気がする。そのことをワタシが半ば確信するのは、とりあえず手塚治虫の一部の作品を読んでいるからだ。
手塚治虫はSF系作品で描いた未来像がどこかワンパターンな世界であるのに対して、日本の田舎を描いたものには実に生々しい現実感がある。(と思っている。)そこでの人間の情念ときたら、実にまがまがしく渦巻いている。

「白いリボン」と併置できる邦画はなんだろう?きっと十分に世界に通用する映画がそこには置かれるはずなのだ。

****

蛇足。
とか言いながらワタシ自身はそういう田舎の経験がない。
むしろ人工的に突然現れたような町にばかり住んできた。
上で書いたようなことはまあよそ者の後知恵なのだった。
だからこそこうしてやたらと映画や本に耽溺するのかもしれないな。

2011.1.12wed 新宿武蔵野館


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4 コメント

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 (とらねこ)
2011-02-02 12:52:46
ハネケ初めてだったんですね。『ピアニスト』辺りは見てるかなと勝手に思ってました。
ふふふ。まにまにさんが気に入ったと知ってとっても嬉しかったですわん。

田舎の人間のmaliciousさを描くことに関しては、ハネケは一環してるよなあと。
おかげで私みたいな純粋無垢ピュアピュアな人間はすっかり鬱屈した気分になってしまうので、結構嫌いなんです。このオヤジ。タイトル聞いたてまず、「何が白いリボンだ、大嘘つき!」ってまず思っちゃうというw

異端の系譜、というのは確かにそのとおりかも。でもこの人は最初からずっと異端すぎ?。
ベルイマンとドライヤーのオススメ作品を教えてくれませんか?
リボンの騎士、あるいは既視 (かえる)
2011-02-02 14:26:16
まにまにさん、こんにちは。
そか、まにまにさんはカンヌ映画祭で賞とった作品のんて、別段興味ないんですね。
私はカンヌやヴェネチアコンペに出品されたものを指折り数えて、観ることをヨロコヒにしており、同時に日本公開されるものの少なさに憂う日々。
なんにせよ、ハネケは理知的で意地悪で面白いので、是非ごひいきに。

ホント題材には既視感ありありなのに、とても面白くて、考えさせられて、おお、エクセレント!って思えるのがさすがだなぁと。
ムラ社会ものは邦画でもやれるでしょうけど、こういう寓話風味の美しさは同時には出せないだろうなぁと。
 (manimani)
2011-02-03 01:16:07
☆とらねこさま☆
とらねこさんが純粋無垢ピュアピュアだとは知りませんでしたよーw
「白いリボン」の世界がハネケなら、ワタシはハネケ好きですねー

ベルイマンとドライヤー、そんなにたくさん観ているわけではないのですが、ベルイマンなら「叫びとささやき」、ドライヤーは「奇跡」「吸血鬼」ですかねー
きしきし (manimani)
2011-02-03 01:24:26
☆かえるさま☆
いえいえ、カンヌに興味がないなんてそんなことはありませんよー
むしろ各賞受賞作は好きなものが多いし、観るときには参考情報のひとつにはなりますよ。

ただいかんせん、最近の記憶力の減退で、「ハネケ受賞」と聞いてもすぐに忘れて「あれ?誰が受賞だっけ?」とかなってしまうのと、
あとはかえるさんほどには映画に入れこんでいないので、忘れがちというのもあるでしょう。

「白いリボン」観たのも、とらねこさんとかえるさんのとこの記事を読んで、こりゃ観るか!と思ったからなんで。
ハネケ、他の作品もぜひ観たいですね。



邦画のムラものは、もちろん本作とはぜんぜん違ったものになるでしょうねー。
ハネケに感心したら、じゃあ日本では?と関心を持つわけです。

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