Credo, quia absurdum.

旧「Mani_Mani」。ちょっと改名気分でしたので。主に映画、音楽、本について。ときどき日記。

「吸血鬼」カール・Th・ドライヤー

2012-02-15 02:43:42 | cinema
カール・Th・ドライヤーコレクション 吸血鬼 ボローニャ復元版 [DVD]
クリエーター情報なし
紀伊國屋書店



吸血鬼VAMPYR-Die Seltsame Geschichite des Allan Gray
1931ドイツ/フランス
監督:カール・Th・ドライヤー
脚本:カール・Th・ドライヤー、クリステン・ユル
撮影:ルドルフ・マテ
出演:ジュリアン・ウェスト、モーリス・シュッツ、レナ・マンデル、ジビレ・シュミッツ、アンリエット・ジェラール 他


カール・Th・ドライヤーのトーキー第1作目。
台詞は最小限に抑えられ、字幕による進行など無声映画の特徴を色濃く残す。
音声もまた映像とおなじく一つの無声映画の要素であるという感じ。
それによってこの作品の迫力が成り立っている。

ロシア系貴族の青年ニコラ・ド・グンツブルグ男爵がジュリアン・ウェストの変名で製作と主演を兼ねるという、パトロンが趣味で自分が主演する映画を作らせた格好。
それが映画史に残る作品になるのだから面白いね。

このジュリアン君がまた朴訥な演技を披露していて作品に妙にギクシャクした不安感を与えている。
他の人物も俳優もいるけれどもほとんど素人によって占められることによって見事に全体の現実か妄想か判然としない世界を作り出している。

作品が古いから、もしくは復元プリントが古いからという理由以上に、製作当時すでに故意に画面を不明瞭にしたり自然光で撮ったりという「古ぼけた」画面にする工夫が行われていたようである。
撮影にあたり薄膜をカメラの前に垂らしたとか垂らしていないとか真偽が定かでない伝承もあるようだ。

作中に主人公の幽体が離脱し悪夢のような光景を見るシーンがあるが、この作品自体が上に述べたような特徴(音声、演者、撮影技法)によって悪夢的な印象となってみるものの心に棲みつくものに仕上がっていて、悪夢が重層化している印象。

**

前半、旅籠に忽然と現れる老紳士(ゆっくり部屋の鍵穴に指した鍵が回る!)や、狭い階段をこちらに下りてくる不具の男(後に医者の助手と分かる)のように、ことさら何もしていなくてもそこにいるだけでぞっとする人物を描くのがなんとも好み。

農夫の影が逆回しで奇怪な動きをしている、とか先の老紳士はなぜ自らの死を予見してあそこに現れたのかとか、まったく解決されないなぞがいっぱいちりばめられて、全体の印象以上に凝ったつくりになっているのもツボ。

中盤のハイライトである、葬送幻視のシーンは四方田先生の熱意ある文章を俟つまでもなくすばらしい。そこにはいろいろな理屈を超えた製作者の直感のようなものが感じられてぞくっとする。

終盤のあの白い粉が画面を支配するところもすばらしい。暗い画面が支配的ななかで、モノクロ画面におけるもっとも明るい白が突如画面を支配していくと同時に悪の象徴が死んでいくのにはやはり背筋がぞくぞくする。

いいねえ〜

**

今回観たのは紀伊国屋書店のDVDで、「ボローニャ復元版」ということだ。この作品は英仏独の3カ国語バージョンがあるが、後に流布したのがそれらのバージョンから適当につぎはぎされた長尺のものだったそうで、完全なオリジナルのプリントは残っていないとか。それをドイツ語版をベースにいくつかのプリントから復元したものが「ボローニャ復元版」。

復元版の台詞や字幕はドイツ語で、人物の口の動きもちゃんとドイツ語なので、吹き替えではなくこれをちゃんと3バージョン演技して撮ったわけである。なんとも贅沢な話である。


20年ほど前に観たものはおそらく長尺のものだったのだろうが、今となってはその比較はできず。いや、比較どころか今回全く新鮮に初めて観るような気持ちで観た。かすかに記憶のある部分がところどころあったが、まったく映画の体験とはこのようにおぼろげなものなのであるなあ。。。


****

この映画にワタシが導かれたのは
四方田犬彦氏による熱い文章による。
敬意を表したい。

書物の灰燼に抗して?比較文学論集
四方田 犬彦
工作舎



ジャンル:
映画(DVD)
キーワード
ボローニャ ジュリアン 四方田犬彦 紀伊国屋書店 ジェラール クリエーター 紀伊國屋書店
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