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1954日本
監督:溝口健二
原作:近松門左衛門
劇化:川口松太郎
脚本:依田義賢
撮影:宮川一夫
出演:長谷川一夫、香川京子、南田洋子、進藤英太郎
文句なく面白い!
えらい羽振りのいい商家の嫁と使用人
ほんの小さな火種から、ことはあれよあれよと思わぬ方向に広がり、
誤解が誤解を呼び、配慮が裏目裏目に回り、
ついには不義密通の嫌疑をかけられることに。
しかもその不義密通はぬれぎぬから本物になってゆく
それに商家の事業を横取りしようとするくせ者の思惑もからまり
最後には物語冒頭には想像もできなかった結果に
人の世の定めとはわからぬものよのう・・・
日本的な間を保ちながら、しかし展開はリズミカルで
かつ大胆なので、思わずぐいぐい引き込まれる。
ショットも構図も光も粗がなく今日をそがれることがない。
近松門左衛門のストーリーテリングが溝口の妙技で生き生きと現前した。
スローライフの時代のジェットコースタームービーである。
そもそも何のとがもない奉公人茂兵衛。一番ひどい目にあっているってえのに、ただひたすら家の主人の妻であるおさんのためにと、なにも恨むことがない。
二人は実は最初から惹かれ合っていたところへ、ひょんなことからの逃亡劇の間に互いの愛を確認し合う。そこからのひたむきな純愛。
いや〜泣けますな〜〜
それだけじゃなく、ことの発端となったおさんの兄は、そんなこととはつゆ知らず三味線なんか弾いてのんきなもんで。
不義密通だってそもそもが商家の大旦那が女中に手を出したのがきっかけなのに、本人は全くもって反省もない。
とっさに場を言い繕い、かえってことをややこしくした女中お玉も、あっさりと中盤で退場してしまう。
全然勧善懲悪になってないし、悲劇なんだけどあの状況でなし得る唯一の愛の成就として描かれるハッピーエンドでもある。
この単純でないところがなかなか味わいがあってよろしい。
*****

しかしなあ、
なんであの最初のところ、お金をだまし取ろうとしたとこで、
正直に旦那さまにいっちゃったんだろうか。茂兵衛さん。
黙っときゃよかったんだよな。そもそも奥さんのためだったんだから。
それに旦那がそれを聴いてブチ切れたときに、おさんが正直に話していればあんなことにはならなかったのだよ。
とか、見たものをやきもきさせるのも、この物語のツボなのかもね。
****
長谷川一夫の妙に濃い顔立ちは、逃避行には目立ってしょうがないよ(笑)
あの顔だけはちょっと嘘くさかったが・・
長谷川一夫の初登場シーンが風邪ひきの床からむっくり起き上がってこちらを振り向く、というのはなかなかよかったな。
おさんの香川京子はよかったな〜
お金持ちの奥様然として登場したのに、だんだん人間味を帯びて来て、
最後には愛と死、エロスとタナトスの間で恍惚とした表情を見せる。
あれが演出だとしたら、演技だとしたら、すごい計算である。
お玉の南田洋子は、途中から急に出番がなくなって、言い訳のように退場シーンが用意されている。そのシーンではお玉の言い分が実は嘘だったことが証明されるのだが、それもさして重要なことでもなく、なんだな〜あれは南田洋子の売り出しだったのかしら?
・・・と思ったが、南田洋子は前年の53年に9本以上の映画に出ている。
すでに売れっ子だ?
溝口作品では別れの場として出ることの多いという水上の舟だが、
ここではまさに今生の別?と思わせ、逆に愛の確認と燃えるような生きる意思の発現の場にすり替わる。これも面白い。
しかし水と舟を幽玄いっぱい上手く撮るよな〜〜
おさんが捕われるシーンでの、画面奥へ去るおさんをのせた籠と、手前で組み伏せられる茂兵衛、というような、画面の奥行きを上手く使う構図もお見事!
それから、サウンドトラックがすばらしす。
古典芸能系の音響なんだけど、ここぞというときにいつの間にか忍び寄るように音が鳴っている。説話に奉仕しつつも、それはハリウッド的従属とはひと味違う。
*****
人物の立ち振る舞いや、ちょっとした挨拶や鼻歌なんかにも
いまではなかなかなしえない日本がかつて持っていた文化を感じる。
日本は豊潤な文化を持っていたことは言うまでもないことだが、
それらを継承することのない今の日常との距離は
っもはや相当に遠いと感じた。
日本映画がこの豊潤を取り戻すことは決してないだろう。
善かれ悪しかれ、断絶は厳然としてあり、
日本映画も断絶後の空気を生きる他に道はないのだ
たとえば、マキノの名に賭けてその断絶を修復しようとし、南田洋子の夫長門裕之が出演したマキノ雅彦『寝ずの番』ですら、その例外ではない。
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