日本裁判官ネットワークブログ
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貸金業者が当庁に提起する訴訟の被告は、北は北海道から南は九州・沖縄まで全国各地に及んでいます。こうした事件の多くは、そもそも被告が期日に出頭してくることが稀であり、多くはいわゆる「欠席判決」で処理されています。
時折、「**から今朝着きました」とか「**から来ました」といってひょっこりと法廷に現れる被告もいて、期日に呼び出したこちらが逆にびっくりさせられます。「これは遠いところからお越しいただき、大変でしたね。」と気遣うのですが、結局、請求原因事実に争いはなかったり、和解を希望しても原告の代理人からすげなく断られたりと、せっかく出頭したのに弁論はものの1分足らずで終結することになります。
どこで裁判を起こすかは、実に重要な問題です。
もともと、訴えは被告の普通裁判籍所在地を管轄する裁判所、つまりは被告が住んでいる街の裁判所に提起するのが原則です。裁判を起こすのなら、訴えようとする者が相手の住んでいるところに行ってやれということです。ところが、貸金業者の多くは、特約で自らの営業所を管轄とする合意を約款の中に入れていて、この合意(管轄)に基づいて、自分の営業所のある大都市部に債権回収担当部署を設置し、そこにある裁判所に大量・定型的に訴えを提起し、効率的に債権回収を進めています。
前回は、消滅時効が経過していると思われる債権の取り立てを行う業者について書きましたが、そうした事件のうち、答弁書に「とおくていけないので、近くのさいばんしょにいそうしてください」と書いてきた被告がいました。確かに、遠くて出頭できそうもないところに住んでおられる方でした。しかし、同時に被告は答弁書で請求原因事実を認め、和解を希望しています。大量・定型に処理される業者事件ですから、移送の申し立てを却下して、さっさと事件を終わらせることも可能なのですが、例によって消滅時効はとっくに完成している債権を請求しています。原告は和解には応じないだろうし、平仮名でいいから「いそう」と書かず「じこう」と書いてくれたらなぁと思いながら、民訴法17条にもとづき移送決定をしました。被告の答弁書の書きぶりをみる限り、きちんとした書面を書くことはできそうにないし、彼の近くの裁判所に出頭して、法廷で直接、審理を受ける必要があると考えました。「確かに、請求原因事実には争いがないが、被告の出頭容易な裁判所おいて、司法委員等から適切な助言を得て、時の経過が権利に及ぼす影響も考慮したうえで和解を検討したり、訴訟を進めることが期待される。」「本件請求の特質、当事者間の関係等を考慮すれば・・」云々と決定を書いたのですが、早速、原告から即時抗告がありました(やっぱり、ダメかなぁ)。
同様の別の事件での移送申し立てにおいては、「そもそも、訴えは被告の普通裁判籍所在地において提起するのが大原則であり、被告が自ら居住し生活する地において裁判を受ける権利は、大量・定型的に債権回収を進める原告によって一方的に奪われてはならない」云々と理由中で大見得を切ったのですが、こちらは被告に代理人弁護士がついていたこともあってか、原告から抗告もされず、不思議なことに訴え自体が取り下げられてしまいました。
私は、交通不便な遠隔地にある独立簡裁で勤務したことがあり、自分の住む街にある裁判所で裁判を受ける権利がどんなに大切なものであるかを実感させられました。私が赴任していた裁判所ではほとんど事件もなかったのですが、そうした中、自分がなぜ家族に負担をかけてまでそこにいるのかということを考えると、どうしても地域における裁判所の存在意義を強く意識せざるを得なかったのです。
サッカーでも野球でも、アウェイよりもホームの方が断然有利だし、力を発揮できます。訴えられた被告はそれだけで劣位に立つわけで、それゆえ民事訴訟法は管轄の原則を被告の普通裁判籍所在地(被告の住所地)と定めたのではないでしょうか。また、都会であっても田舎であっても均一な司法サービスを提供するため、私たち裁判官は全国各地の裁判所に赴任し、その地において営々と職務に精励していると私は理解しています。
移送決定の主文に掲げた見慣れぬ、小さな簡易裁判所を眺め、そこで働く同僚、職員、司法委員などの地域の皆さんのことを思い、そうした方々が、原告のみならず、その地域で暮らす被告にとっても、納得のいく解決方策を見出してくれることを願いつつ、私は事件を「移送」した次第です。
 


コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )



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コメント
 
 
 
Unknown (はるな)
2015-12-03 11:20:21
請求異議訴訟の被告になった時、移送が許されず栃木くんだりまでいった覚えがある。
 
 
 
定塚誠,法務省訟務局長様の事 (秦野真弓 しんのまゆみ)
2015-12-03 19:34:03
昨日の辺野古代執行訴訟→何故,福岡高裁那覇支部が管轄なのか?解りませんが
憧れの定塚誠,訟務局長自身が意見陳述に立った事,特筆されます.ただ裁判官出身者は,やはり裁判官に向いており,いつかまた定塚誠裁判官を傍聴したい。尚,弁護士出身=竹内浩史ブ総括判事様も,あまりに裁判官に向いた公平な方.必ず私,再び大分地裁に行く所存
 
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