日本裁判官ネットワークブログ
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先日、JJNの企画で、「密着 最高裁のしごとー野暮で真摯な事件簿」(岩波新書)を執筆された川名壮志さんのお話を聞くことができました。
同書は、川名さんが毎日新聞司法記者として担当した最高裁のしごとを、中高生でもわかるような平易な文章で、しかも水準を落とすことなく、説明したものです。私も一読して、ぐいぐいと引き込まれ、「ああ、こういうものこそ、私たち日本裁判官ネットワークが出版すべきものだったのではないかと嫉妬すら覚えるほど」(司会;中村元弥弁護士談)、素晴らしい内容でした。興味のある方にはお勧めです。
川名さんは、同書のプロローグで執筆の動機について、次のように述べておられます(同書ⅳ、ⅴ)。
「最高裁って、下世話で知的で、ロジカルでウェット。」
「でも、そうした最高裁の面白さが、世間にあまり伝わっていないんじゃないか。伝わっていないだけならまだしも、曲解されたり、”最高裁は伏魔殿”みたいなイメージ先行型の虚像ばかりがはびこっているんじゃないかー。」
「それは、最高裁の「しくみ」が、あまりに世間に知られていないから。」
「世の中のあらゆるものは、しくみを知っていないと、その本来の面白さを味わい尽くせません。囲碁や将棋、スポーツ観戦だって、ある程度のしくみ(ルール)は知っていなくちゃ楽しめないでしょう。サッカーを観ていて、オフサイドのしくみを知っているのと知らないのとでは大違いです。」
私は、これは、最高裁のしごとにかぎらず、裁判や司法のはたらき全般に言えることではないかと思いました。
多くの人々は、裁判や司法について、学校の「公民」や「現代社会」「政治・経済」の授業で学びます。しかし、それはあくまでも受験のために覚えこんだ知識(三権分立とか、国民の3大義務とか)に過ぎず、実際の社会や生活で、そうした知識を実践する機会はほとんどないように思います。
しかし、裁判や司法に関する報道やニュースは毎日のようにありますし、現実の生活にも多くの影響を与えています。ところが、多くの人は、裁判に関わることもなく、そうした報道やニュースを見聞きすることはあっても、その本来の面白さや重大性に気づいていないように思います。それは、どうしてか?
「それは、裁判や司法の「しくみ」が、あまり世間には知られていないから」
「あるいは、裁判や司法の「しくみ」は難しすぎて、弁護士さんや裁判官にしかわからないものだと思っているから」
「また、裁判や司法は、自分たちのくらしには関係がないものだと思い込んでいるから」
「そして、知られていないだけならまだしも、曲解されたり、”絶望の裁判所”みたいなイメージ先行型の虚像ばかりがはびこっているんじゃないかー。」
裁判官は、実は「裁判」というゲームを進める「審判」のようなものです。私は、毎日のように、「法廷」という試合会場で、「当事者」というプレーヤーを相手に「六法」というルールブックを開いて、「裁判」を進め、勝敗を決めています。ところが、案外、世の中の多くの人は、裁判というもののしくみ(ルール)の大事な部分を勘違いしていたり、ご存じないのではないかと思うことがあります。
2020年には東京オリンピックが開催されますが、野球やサッカー、あるいはテニスに、卓球、フィギュアスケート、ラグビーなど、ルールに精通し、プレーの良し悪しを見極められる目の肥えた観客やファンが増えれば増えるほど、そのスポーツのレベルは上がっていきます。
できれば、川名さんのお書きになれた本のように、裁判や司法のしくみ(ルール)で、多くの人が勘違いしたり誤解している点を、毎日のように審判としてルールを使っている裁判官自身が、易しい言葉でわかりやすく説明したものが書けないものか。そうした説明によって、自分自身が裁判に関与しなくても、司法や裁判について、目の肥えた観客、ファンを増やせないものか。そして、そうした裁判や司法の良し悪しを見極められる目の肥えた観客やファンが増えれば、司法や裁判についても名プレーには惜しみない拍手と声援が送られ、怠慢プレーにはブーイングが巻き起こり、選手(法曹)や審判(裁判官)の技量や資質も向上していくのではないか。
川名さんの講演を聴きながら、そんなことを漠然と考えました。
川名さんに「もし、サッカーのオフサイドルールのように、これを知っていたら、裁判や司法のはたらきがもっとおもしろくなるのに、と思うようなしくみやルールはありますか?」と講演の最期にお尋ねしたのですが、実はそれは私たち自身が考えなければならない問題なのでした。


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