日本裁判官ネットワークブログ
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先日、法廷での弁論を終えて、裁判官室に戻ろうとすると、立ち会っていただいた主任書記官が
「先ほどの裁判官の強制執行についての説明ですが、よいのでしょうか?」と話しかけてきました。
私は、何のことかわからず「えっ、何か間違ったことを言いましたか?」と逆にお聞きしたところ、どうやら、書記官は、私が出頭したきた被告に対して、調書判決の効力について、強制執行されることがあり、その対象が不動産、預貯金や給料などであることを説明した際、不安がる被告に対し「まあ、そうはいっても預金とかがなければどうにもならないし、給料の差し押さえと言っても、最低限度の生活に必要な部分は差し押さえることができないませんけどね。」などという説明をしたことで、被告が支払わなくても良いというふうに受け取っていないか、原告が気を悪くしていないかということを心配してくれているのでした。
「うーん、どうかなぁ・・・。だけど、本当に資産がないのであれば、どうしようもないのは事実だしねぇ。まあ、人によって理解力に差はあるし、誤解する可能性もなくはないけど。裁判所から「支払え」という判決を受けると、死んでも支払わないといけないと思い込む人もいるしねぇ。私もできるだけ、易しく説明しているつもりなんだけど、どう言えばよかったのかなぁ。あとで弁護士にでも相談しなさいと言って帰してしまえばよかった?主任だったら、どう説明します?」
私は、法廷に出頭した被告に対しては、できるだけ易しい言葉で裁判の仕組みを説明し、わからないことや聞きたいことがあれば、できる限りの説明をするようにしています。ただ、そうした説明は一方当事者にとっては不要に感じられることがあったり、被告にとって誤解を招くこともあろうかと思います。しかし、それでも私は、そうしたやり方を改める気にはなれません。簡易裁判所は市民に最も身近な裁判所であり、法律の詳しい人たちだけが来るわけではないのですから。
もちろん、主任は私の立場を気遣って、わざわざ指摘してくれたのですから、その指摘は真摯に受け止め、言葉遣いや表現を工夫していく必要はあると思います。
しかし、誤解や一方当事者からの反発をおそれて、必要最小限度のことしか発言せず、できるだけ波風を立てないように弁論を終わらせるのでは、私は何のために裁判官になったのかわかりません。
もともと、裁判所というところは、非常に保守的な役所(「消極的・受動的な国家機関」なんて言いますけど)であり、当事者間の公平や裁判作用の本質などということを根拠に、必要以上に世話を焼かない、立ち入らないという風潮があります。法律に従って粛々と判断を示せばよく、余計なことをして、世間から非難を受けるようなことを一番恐れているような気がします。そうすると、結局、目立つようなことは極力避け、言い回しや表現は念を入れて慎重に、事務処理は法律に従った必要最小限度のことしかしないという非常に後ろ向きの仕事に終始していくように思います。
しかし、これからの社会においては、多様な価値観が認められ、様々な個性を有する人たちが当事者となり、自らの権利利益を主張して裁判制度を利用するのですから、そうした裁判所の姿勢は今後、少しずつ改めて行く必要があるのではないでしょうか。
先日、足腰と耳の不自由な年配の方が被告となって法廷に来られたので、私は、法壇から降り、原告と書記官にも被告席に来てもらって、被告の隣に座り、テーブルを囲んで、書面を広げて、指で指し示しながら弁論を行いました。被告の方は、障害があっても大きな声でゆっくりと説明すれば、ちゃんと事件のことを理解し、自身の財産状況も把握しておられました。その事件は、司法委員にも特にご配慮いただき、無事に和解成立となりました。裁判官は法壇から下りてはならないというきまりは特になく、とりわけ一般市民に最も身近な簡易裁判所にあっては、当事者の個性や事情を汲み取って、できる限りの配慮をする必要があると考えた結果です。
「言葉を使って説明をする以上、相手に誤解されたり、言い過ぎることがあるのはもとより承知のうえです。それで批判されたり、問題にされたりするのは、ある意味、表現の自由に伴う義務やリスクであり、仕方のないことです。批判や問題をおそれて、何も言わないし、何もしないというのであれば、簡裁判事とはいえ、私が裁判官になった意味はないと思っています。主任の意見は、貴重なものとして、心に留めておき、さらに表現などは工夫したいと思います。せっかく気にかけてもらったのに、気を悪くしないでね。これからも気づいたことがあったら、遠慮なく言ってください。わざわざありがとう。」


コメント ( 17 ) | Trackback ( 0 )



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コメント
 
 
 
感銘しました。 (匿名X)
2016-09-18 10:00:41
いつも楽しみに拝見させて頂いています。

裁判官職もいろんな方がいますが・・・白山様の方ばかりならいいのですが・・・。

特に中央に近い所ほど・・・。

また楽しみに拝見させていただきます。
 
 
 
白山次郎様を傍聴させて頂いた時の,あの2等書記官様って,主任クラスだったのですか? (秦野真弓 しんのまゆみ)
2016-09-18 20:50:58
私が,本年,8月25日・9月6日と白山次郎様を傍聴させて頂いた時の立会書記官様→その主書だったのですか?とっても親切な方でしたよね
特に,9月6日
当事者.代理人様は,随分早くから待っておられました。きっと関西の簡裁だから,13時10分から,滝のような口頭弁論あると思ってたのでしょうね
でも,その主任書記官様
「双方とも,どうぞ,お入り下さい。今日は1時半の事件以外にはありません」と,親切に迎え入れてました
ところで,裁判所の主任書記官様って課長クラス=管理職って噂,本当ですか?
JR東日本・主任運転士,今頃,出勤し,今日,列車運転し,仮眠とり,明日の通勤輸送に万全期すそうですが→
A:管理職でなく
B:労働組合員だそうです
 
 
 
スイマセン,明日は世間は休日でしたか (秦野真弓 しんのまゆみ)
2016-09-18 20:59:27
明日,世間は休日でしたか。危うく傍聴に,行っちゃうところでした
1:裁判所の主任書記官様にとっては,お休み
2:JR東日本・主任運転士様にとっても
あのメチャクチャな,通勤通学ラッシュ→ありませんよね。
 
 
 
Unknown (はるな)
2016-09-19 12:02:29
只今、裁判所から和解勧告されている原告の身としては、裁判官は言い訳をしてはいけないと思う。
特に、和解は裁判官の駆け引きがうっすら見え隠れするから
 
 
 
判事の鑑です。 (福岡ヒロシ)
2016-09-19 22:42:03
白山次郎様。民事裁判という事で良いでしょうか? 易しい言葉で説明。また、壇から降りて被告人に説明されたのは本当にされた事だと感激しました。これからも市民目線の判事さんで頂けるようお願いします。応援致します。
 
 
 
八木一洋裁判長(≒東京地裁行政部)が前橋地裁所長になっていました (秦野真弓 しんのまゆみ)
2016-10-20 09:01:03
私が傍聴マニアになった頃,<ビルマ人を難民と認めない処分取消訴訟>も担当された,東京地裁行政奉行=民事3部の八木一洋様が前橋地裁所長になってました。民事3部時代の定塚誠様・八木一洋様の訴訟指揮。好感持てました。東京地裁行政奉行の八木一洋裁判長は<原爆症と認めない処分取消行政訴訟>も担当され好感持てましたが,なんと広島育ちでした。では東京地裁に民事傍聴いってきまーす。もう止められません
 
 
 
簡裁調査官って,あると良いですね (秦野真弓 しんのまゆみ)
2016-10-24 21:03:52
本日,東京地裁民事部(=本間健裕ブ総括+友部一慶主任)当事者尋問を傍聴。いわゆる,弁護士が弁護士を訴える訴訟です
非主任の陪席は畑佳秀裁判官が担当され,活発に補充尋問
私は,前最高裁調査官=畑佳秀様が好きで
これまで川崎→名古屋と傍聴
一方,本間健裕裁判長にも,はじめて,東京地裁行政部(=退去強制令書発布処分取消訴訟陪席)で出逢い,好感。ホンマに本間陽子裁判官様の訴訟指揮にも好感
 
 
 
書記官の方がまとも (地方弁護士)
2016-10-26 12:06:55
白山裁判官、ここでの問題は、「法廷に出頭した被告に対しては、できるだけ易しい言葉で裁判の仕組みを説明し、わからないことや聞きたいことがあれば、できる限りの説明をするようにして」いることの是非ではなくて、裁判官の発言が、調書判決の強制執行の効力の説明という流れの中で判決に従わなくてもいいかのような印象を与えたのが(おそらく書記官の指摘どおり、そういう印象を与えたと思う。)、原告の気分を害するというよりも、債務名義振り出す当の裁判所の態度としてどうなのって話だと思うんですが。
確かに預金がなければそこへの執行はできないけど、それは実際上不可能というだけであって、裁判所が気にすることじゃないし、完全に余計な一言でしょう。
訴えに理由がなくて被告勝訴とかなら別として、裁判所が己が出した判決(調書判決であっても)守らなくてもいいかのような印象与えてどうするのって話でしょう。
 
 
 
全く違う話 (ジャッジ)
2016-10-27 20:20:43
前段は財産の隠匿や執行逃れを勧めているとも取れ、中立性を害する話。後段は障がい者等への配慮。一緒にするのは不適切。
地方弁護士に1票。
 
 
 
逆に (ジャッジ)
2016-10-27 20:26:03
原告にも民事執行の方法選択を暗に教示しており、原告に執行の戦略的なヒントを与える事にもなる。
 
 
 
判決をもらって不安になったが (ジャッジ)
2016-10-27 21:03:30
裁判官のアドバイスにより、預金を払い戻して妻の口座に入れて、自分への役員報酬をなくして妻に支払ったことにし、不動産も遺産分割で自分の名義にするのを遅らせればいいいんだね。などと考えなければいいんですが。
 
 
 
強制執行に関する法の規定 (強制執行)
2016-10-27 21:39:50
財産開示制度で債権者に財産を開示する必要があり、免れようとすると強制執行不正免脱罪となり、保全事件では債務者に感づかれないように密行性を確保するため無審尋であることから、法は、強制執行を重視してますね。裁判所の判決が実効性がないと、法治国家とは言えないですね。白山さんは、どうお考えですか。
 
 
 
例えば (偽証罪の告知で)
2016-10-27 22:15:32
宣誓をして不安そうな証人に対し、緊張を和らげるため、偽証罪で処罰される可能性があります。もっとも、起訴されるのは稀ですし、初犯だと執行猶予も付きますけどね。善意で注意した書記官に対し、滅多に起訴されないのは事実だし、どう言えば良かっったのかな、て尋ねるかしら
 
 
 
誤った (メッセージ)
2016-10-28 08:00:02
原告は裁判所が法による解決が無力だと言ってるわ、アウトローの解決しかないのか。被告は任意に履行しようと思ったが、しなくても良いと裁判官もお墨付きをくれてるしな、やめよっと。
 
 
 
山形地裁に,今日,傍聴に行きました (秦野真弓 しんのまゆみ)
2016-11-01 20:25:53
山形地裁に今日,行きました。傍聴できたのは簡裁の土地建物明渡訴訟1件ですが…(被告さんは不出廷)このままでは,被告さんの住宅,とられかねません。せっかく山形地裁には[法テラス設立10周年記念特集のパンフ]あったのに…
今夜は仙台の簡易宿所に宿泊。河北新報は[大川小訴訟宮城県も控訴]が一面トップ。ただ山形の方々に聞いたところでは[東日本大震災は凄かったけど家屋倒壊はなかった]との事。大川小控訴審,どの裁判官が担当されるかな?仙台高裁・古久保正人ブ総括がいいかな?私,古久保裁判長を札幌地裁医療集中部・東京地裁労働部で傍聴し好印象
 
 
 
希望の裁判所対絶望の裁判所 (なんという皮肉)
2016-11-01 22:45:27
最高裁勤務の元エリートが<絶望の裁判所>を出し、最高裁から長年弾圧され、虐げられてきた者らが最高裁を擁護するため<希望の裁判所>を出すというなんという皮肉。最高裁は真に忠誠を誓う者らを見誤った。シェークスピアの<リア王>も顔負けだよ!
 
 
 
本日は仙台地裁民事部・人証調べを傍聴できました (秦野真弓 しんのまゆみ)
2016-11-02 23:54:35
今日は,念願の,仙台地裁民事部・人証調べを傍聴できました。速記官様とも会話できました。東北の女性は優しいです。 だからといって【原告さんの優しい奥様,簡単に高利の被告さんと借金する】なんて…。さて私は仙台→東京間,全てJR東日本・各駅停車で帰宅中ですが,自宅に帰れる保証ありません。福島県内にて,列車と猪が衝突。もし仮に衝突した猪が,電車のブレーキ管,破損させたら大変な事態。当然,入念に点検が行われてました
 
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